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謎解きゲームブック形式の同人誌を作ってみた

人生初の謎解きゲームブック作りは友人からの一言で始まりました。
「唐突で具体的な期限とか考えてないんだけど、(某コンシューマーゲーム)でゲームブックの同人誌作りたい、って言ったら協力してくれる?」
「オッケー。とりあえず、なる早でゲームクリアするわ」
この会話から約半年後には一作目が完成。
更にその半年後には、二作目。
そしてついに一年後、自名義では初のゲームブックを頒布することになったので、ゲームブックの制作過程を書き起こすことにしました。


はじめに

はじめまして、片秀(かたほ)と申します。
同人活動を始めたのは十数年前。個人サイトを作り、キリ番リクエストに一喜一憂していました。(意味が分かる人は握手してください)
そして、年に数回イベントに行っては(当時は)数少ない小説同人誌を買い、しかし結局自身では同人誌を頒布することなく、個人サイトも自然消滅。
その後は、時折思い出したようにpixivを更新する気まぐれ文字書きです。

件の一言の前は、二年ほど執筆らしい執筆もしておらず、まさに青天の霹靂。
それでも持ち前のフットワークの軽さで、一も二もなく了承しました。

ゲームブックとは

さて、皆様はゲームブックをご存じでしょうか?

ゲームブックは、読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られ、ゲームとして遊ばれることを目的としている本である

Wikipediaより

要は、RPGや恋愛シミュレーションゲームで選択肢によってエンディングが変わるというのを、小説でおこなうイメージです。

遊び方としては、シナリオが「パラグラフ(段落)」に分けられているので、選択肢を選らんで指定されたパラグラフへ進んでシナリオを読み、また選択肢を選ぶ、ということを繰り返すことで物語を読み進めます。

とはいえ、ここでお話するゲームブックとは「謎解きゲームブック」なので少し印象が異なるかもしれません。

謎解きゲームブックとは

「謎解き」の言葉通り、物語を読み進めるために選択肢、とともに謎を解く必要があるゲームブックです。
もちろん、途中で選択肢も用意されていますが、結末を読むためには謎を解かなければいけない仕様になっています。

わたしの好きな謎解きゲームブックをいくつか挙げますので、是非遊んでみてください!

謎解きゲームブック作成までの道

1.謎の作成

謎解きゲームブックと謳っているからには、謎解きがなければ成り立ちません。
いまや芸能人が謎を解く姿をゴールデンタイムで放送するなど、すっかり市民権を得た「謎解き」。
解くのも大変なのですが、作るとなると更に大変なのです。
一例として下の画像をご覧ください。

『ゴール』を奪うと……?

自作の謎解きゲームブック内で出題した問題ですが、これは『ゴ』『ー』『ル』という三文字を奪う(取り除く)と、『ニタスナナ』と読むことができます。つまり、答えは『9』です。

これは比較的作りやすいものですが、最終的にこういった謎を11個つくりました。
しかも、ふたつの謎を連動させたり、追加の情報から同じ問題でも答えが変わる、といったギミックも追加したので本当に大変でした。
(それをしたいと思ったのも自分なので、同情の余地はありませんが)

友人たちと作成したときは、会議合宿と称して家に泊まりこんで、あーでもないこーでもないと夜通し話し合う、という文化祭みたいなテンションだったので、それほど苦しさはありませんでした。
が、ひとりで一から十まで作るとなると、想像以上に辛い道のりでした。

とはいえ、その友人たちには謎が完成した後、ちゃんと解けるか確認してもらうなど、完全にひとりというわけではありませんでしたが、気持ちの問題です。

じゃあ、何故つくったのか。
単純に、謎解きとゲームブックというコンテンツが好きだからに他なりません。

謎作成のツールは、どの時代にも寄り添ってくれるCampusノート。つまり、手書きです。
アイディア出しはExcelでもしますが、レイアウトも考えるとなると結局手書きに落ち着きます。
デザインは「Canva」を使用しました。絵をほとんど書いてこなかった文字書きの手元に、illustratorなどのお絵描きツールなどあるはずもなく。フリー素材が豊富で、何より初期投資0で始められるのが魅力でした。

https://www.canva.com/


2.シナリオ執筆

さて、謎ができたら次はシナリオです。
私の作り方としては、物語の大枠を作ってから、謎制作。謎ができたら段落ごとのざっくりしたシナリオを作り、謎との齟齬がないことを確認してから書き上げていく、といった流れです。

作品のモチーフや話の流れに沿った方が謎は作りやすく、そして謎によってはシナリオに大きく関わってきます。
今回のゲームブック同人誌は特にそれが顕著で(自分でそう作ったんですが)シナリオと謎を同時進行で作れませんでした。

そのため、謎が作れないから話を書けない、という地獄の時間が生まれました。

そもそも謎クリエイターでもないど素人なので、そうポンポン謎を作れるわけもなく。一週間くらい何も動きがない、という事態にも陥り、執筆期間がかなり圧迫されてしまいました。
友人たちと作った時は、みんなで案を出し合ってからは謎制作、シナリオ、デザイン、と分業していたので、ひとりの辛さと友人のありがたさを噛みしめる日々でした。

そして、小説とゲームブックとで大きく異なるのが、選択肢によって物語が変わる点です。
特に、複数の選択肢に分岐するときは、読者によって読む順番が異なります。それにより、まだ知らない情報をもとにシナリオを進めていないか、開示すべき情報のタイミングは間違っていないか、などを慎重に吟味する必要があります。

ここを考えるのが、ゲームブック作りにあたって一番楽しいといっても過言ではありません。

だってすごくないですか? どの選択肢から読んでも物語に齟齬がない、それでいて、読む順番によって印象が異なることもある。読者の選択によって、その人だけの物語が紡がれていくんです。一冊の本なのに、何色にもなりうる。
それが楽しくて、どうしても体験してほしくて、何冊も作っているのかもしれません。

今回のゲームブック同人誌ではそんなに多くの選択肢は用意できませんでしたが、次作はもっと自由に遊んでもらえるギミックにしたいと思っています。

執筆ツールは「Nola小説家専用エディタツール」を使用しています。パソコンでもスマートフォンでも思いついたときに編集できるので小説を書く際にも愛用しています。


3.パラグラフ設定

そんなこんなでシナリオができたら、それぞれのパラグラフに番号を振っていきます。
ここが、一番、大変です。
物語の流れ順にパラグラフを振っていくだけなら難しいことは何もないですが、それはただの小説と変わりありません。
何より、「謎解き」である以上、そう簡単にはいかないのです。

というのも、謎解きが必要なパラグラフは長く開かれることが前提です。そのため、自然と同じページの他のパラグラフにも目がいくことが想定されます。
そこにその謎や他の謎の答えや、物語の核心に触れるパラグラフがあれば、読者の楽しみを奪いかねません。それは許されないことです。

隣り合わせてはいけないパラグラフはどれか、序盤はパラグラフ移動に慣れてもらうため移動は少なめに、など頭を悩ませます。
シナリオの概要をExcelに起こし、すでに番号が決まっている、謎の答えとなるパラグラフから当てはめていきます。あとはひたすら番号を埋めるのみ。

Excelを使うのは、入れ替えるのが楽なのと、番号の重複をチェックしやすいからです。
そうはいっても修正を何度かかけると番号の重複や抜けが出るので、何度チェックしても最後まで不安なポイントでもあります。


4.本文レイアウト

ここからが今回初作業です。
というのも、友人たちと作成したときは表紙や挿絵、本文レイアウトについては、何冊も同人誌を頒布している友人に完全お任せでした。

そもそも何で作れば……からスタートしましたが、結局頼りになるのは「Word」。いつもお世話になっています。
あとは印刷所さまのテンプレートを使わせていただき、あとは文字を流し込むのみ! とはいかないのがゲームブック。

何故か。
パラグラフ番号順にシナリオを並び替えないといけないから、です。
当然シナリオは時系列順に書いています。一度はExcelにパラグラフごとにセルに入れて番号を振るとともにソートしてしまう、ということも考えました。が、Excelで長文を打ち込んでみるとお分かりいただけますが、驚くほど見にくいのです。
いや、そういった使い方をするツールではないので、当然なんです。Excelは何も悪くない。

となると、Excelでパラグラフ番号を確認しながら、Nolaで書いたシナリオをコピーして、Wordに流し込む、という三つのツールの反復横跳びをする必要があります。

そう、鋭い方はお察しかもしれませんが、この方法は修正が発生したときにどうするか。
同じく反復横跳びが発生します。
何を直し、どこを書き足し、何が変わったのかをすべてに反映させます。
なので、誤字脱字はまだしも、パラグラフ番号は確定した状態でレイアウトをしないと、大変なことになります。大変なことになるんです。
二回言ったのは、今回それをやらかしたからです。本当に発狂するかと思いました。

流し込めたら、あとは問題や挿絵を挿入して、体裁を整えれば本文はこれにて完成です。
あとは誤字脱字はもちろん、謎解きとパラグラフが機能しているかもあわせて友人に校正を依頼。休日一日かけてチェックしてくれたらしく、足を向けて寝られません。本当にありがとうございました。


5.表紙

こちらも「Canva」を使っていきます。
デザインのデの字も知らないので、いろいろな同人誌の表紙や映画のポスターなどを参考にさせていただきました。
こちらも都度都度、友人に画像を送っては修正して何とか形にしていきます。

ここで後ほど出てきますが、おまけ謎を作れないかと天啓が降りてきました。

何言っているんだ、とお思いでしょうが、自分でもわかりません。ただ分かるのは自分で自分の首を絞めている、ということだけです。
それでも、何気なく見ていた表紙のデザインに謎が仕込まれていたら楽しいでしょう!? という一心でそこもデザインに落とし込みます。

後に「Canva」では課金しないとCMYK形式でデータが発出できない(RGB形式なら可能)だと判明して入稿時にバタつきましたが、これで、本が、出るぞー!というところまで来ました。


6.WEBページ

入稿したらすべてが終わり、というわけにはいかないのです。
これは好みによりますが、わたしは謎解きのヒントや解説などを「ぷらいべったー」に掲載するようにしています。
これは、物語を最後まで読んでほしい、でも謎解きも楽しんでもらいたい、という思いから作成しています。
ぷらいべったーを使うのは、ローコードでいい感じにやりたいことが実現できることと、鍵がかけられることがゲームブックとの相性抜群だからです。

正直に言うと、WEBページは頒布当日までに作れていれば遊んでもらうのには問題がないので、作業の優先順位は低めです。
とはいえ、上記の作業で手が止まったり、気が滅入ったりすると、ちょこちょこ触るくらいのタスクがあるのはメンタルに優しい。それも友人たちと作成した際のベースが使えたので労力的にも大変やさしい。


7.おまけ作成

これですよ、問題は。
いや、自ら地獄に飛び込んでおいて文句を言うな、という話なんですが。どうしても作りたかったから仕方ない。理屈ではないのです。

具体的にどういうことをしたいと思ったかというと、
『ポストカードと裏表紙を組み合わせることで文章が出る』というものです。
お気づきでしょうが、位置合わせが大変シビアです。

ツールは表紙作成と同じく「Canva」を使用。本当にお世話になりました。
手順としては裏表紙にポストカードサイズの長方形を重ね、そのデザインを入稿用のデータにコピーするという力業。
絶対にもっといい方法があったはずなので(時間がなくて検討すらできなかった)ご存じの方はご教授ください。

それでも、塗り足しという存在が恐ろしくて仕方ありませんでした。

塗り足しとは……実際の仕上がりサイズより大きめに作った印刷データの背景部分のこと。塗り足しをしていないと断裁ズレがあった場合、紙の余白が出てしまう。

印刷上、大変重要な塗り足し。片や、数ミリでもズレると解けなくなる謎。
どうしてそんなシビアにしたのかは、わたしの謎作り力の不足ゆえです。
本が届くまで本当に解けるのか分からないまま、イベント当日を迎える覚悟がなかったので、本は余部別送で自宅へ少し早めに届けてもらいました。

その結果が見たいという方は通販もやっていますので、是非お手に取ってください。
どちらもおまけとして謎付きポストカードがついてきます。


さいごに

改めて書き起こしてみると、よくやるなーと客観的に呆れ半分、感心半分。
特に、ひとりだとスケジュール管理がガバガバになりがちで、もっといい方法があるだろう、と反省点も多く見つかりました。
すでに、二作目のゲームブックに着手しているので、反省を生かしてより良いものが作れるように気張りたいです。

少しでもゲームブックに興味を持ってもらえましたら嬉しく思います。
最後までお時間いただき、ありがとうございました。

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