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【ネタバレ有】橋本昌和監督「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」(2022)

前回のクレヨンしんちゃん映画「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」は、過度なエリート教育への批判と多様性の尊重がテーマだった。

今回の映画は、地球の持続可能性。パンフレットなどで製作側が言及しているわけではないが、間違いなく意図しているはずだ。

ストーリーの肝となるのが、人知れず暮らす忍びの里にある「地球のおへそ」。巨大な金塊が「地球のおへそ」から「ニントル」と呼ばれる地球のエネルギーが噴射するのを塞ぐ栓の役割を果たしているという設定だ。

忍びの里の長老は、部下(労働者)である忍びたちに金塊を掘り崩させて、私利私欲を満たす「資本」的な存在として描かれる。里の習わしとして、忍びたちには外界との交流を禁じ、質素な生活を強いていながら、長老自身はこっそり贅沢な生活をしているのだ。
彼は地球の持続可能性など気にもとめない。

そんな中「地球のおへそ」の栓である金塊の塊が限界を迎えて、地球が危機に陥ってしまう。

子ども向けアニメなので、結末は当然ハッピーエンドなのだが、そのハッピーエンドに至る過程が特徴的だった。

まず、「悪の親玉」である長老は、普通ならば野原一家などの主要キャラが「やっつける」ところだろう。ところが今回は、長老のお世話役のクノイチである「秘書」(名前すらない)が、長老の悪行にシビレを切らして、ぶちかます。
この点、監督はインタビューにおいて「そうでないと忍びの里は変わりませんから」と述べており、明確に意識された描写であったことがわかる。

また、「未来の子どもたちのための地球」「動物との共存」という観点からも終盤の演出がなされている。
「地球のおへそ」の復旧にあたって活躍するのは、「かすかべ防衛隊」(しんちゃん、風間くん、ぼーちゃん、まさおくん、ねねちゃん)と忍者の里の子どもたち(珍蔵、風子)である。
彼らが「もののけの術」により動物を召喚し、「地球のおへそ」は無事に復旧するのだった。
この「かすかべ防衛隊」はストーリー上かなり無理筋で動員されている。また動物召喚も、設定には組み込まれているが「忍びの里」との相性からいうと、やはり無理矢理感はある。
また、この映画の特徴として、メインの女性キャラクターの「屁祖隠ちよめ」は、「妊婦」であるという点も見逃せない。

逆にいえば、無理筋だからこそ、「子ども」や「妊婦」や「動物」をストーリーに動員することへの、製作側の意図が浮き彫りになっているのではないだろうか。

前述したとおり、「未来の子どもたちのための地球」「動物との共存」を製作側が描きたかったのだろうと思われる。

無理筋な点は気になったが、クレヨンしんちゃんならではのコミカルさもあり、映画版ならではの感動シーンもあり、最後はカタルシスも得られる、よい映画だった。
そして繰り返しになるが、秘書が長老をぶちかます演出がサイコー。


※ちなみにこの秘書は、サブキャラクターであるにもかかわらず、悠木碧という有名声優が演じている。
悠木碧は「魔法少女まどかマギカ」において、主人公の鹿目まどかを演じた声優であることが、パンフレットでも言及されている。
鹿目まどかは「魔法少女まどかマギカ」において、少女たちを絶望へと追い込む世界の不条理に対し、最終的には「ルールそのものを変更する」ことで解放へと導く存在として描かれた。
今回の秘書の声優のキャスティングは、革命家としてのまどかの存在を重ねさせたのではないかと「深読み」ができる。

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