10-3 激闘
「げ、ゲームだとお?」
「そう! 悪意になって、故障していた腕は治った! あとはヤノくん、アナタとの関係の決着だけ。だから、ワタシとアナタで、勝負がしたい!」
そういえば、アーチェリー以外でたったひとつ、サユリが好きなものがあった。
対戦格闘ゲーム……。
「どういうゲームだ?」
ニヤリと笑ったサユリが指を鳴らす。
地響きがして、動物園の敷地内に、とつぜん妙な舞台がせり上がってきた……!
それは円形の闘技場。まるでジャンプの大人気漫画に出てくる『天下一ナントカ』みたいな舞台だった!
しかも、その端には、ゲーセンの筐体のような、コントロールレバー付きのモニターが二台……!
「ルールはすごくかんたん! これを福岡ファイターに付けて!」
サユリが投げてよこしたのは、鬼のツノのような二本のアンテナが付いたヘッドギア……?
サユリ「その装置を使えば、ファイターをコンソールで自在に操作できる! ワタシは悪意のファイターを操作する! ヤノくん、あなたは福岡ファイターを操作する! リアル格闘ゲームってわけ! 面白そうでしょ?」
「……なるほどな。そしてその賞品が、ハヤトの解毒剤ということか?」
「ご明察! どうする? 参加は強制じゃないけど」
「……そんなの……急に言われてもよお……」
「ヤノさん……」
ヤノ「ナミ……すまん……俺のせいでこんなことになってしまってよお」
ナミ「……教団がらみなら、ヤノさんだけの責任じゃ……」
「……ヤノ。とにかく今はサユリの誘いに乗ろう。悪意とはいえ、元の性格的本質は変わらんはず。サユリは優れたアスリートだったと聞いているが」
ヤノ「……そうだ。サユリは、勝負や競技には、いつだって真剣だったぞお」
ササハラ「ならば、ゲームのルールは遵守するはず。勝てば問題ない」
ヤノ「みんなはいいのかよお……」
福岡ファイターを見回す。
「余裕っス! やあってやるぜええええ! アニチを助けるんだ!」
「……このコミネ、戦友《とも》のためなら、いつでも力を貸そう……。ヤノよ! 俺の正義、好きに使え!」
「ムホホホホホホ!! 格闘となれば、ついにこの天才の本領発揮ですねえ! いきましょうヤノさん!」
「やっちゃるぜーー! 教団はオレの敵! 毒ってやり方が特に許せんっ」
「友達のためならなんだってやるよー。ヤノー操作まかせたー」
「ハヤトさんを助けないといけませんな! 俺の電波ちゃん、ぞんぶんに使いますなっ」
「拙者の剣はいつでも覚悟完了でゴザル……!」
「俺はもちろん不参加で」
「そそそ! カムラの……え? カムラ、この流れで参加拒否!?」
「よおし。やってやるぞお!」
俺は、サユリがすでにスタンバイしている格闘ゲーム筐体に座った。
「そおこなくっちゃ! 操作はヤノくん! プレイヤーキャラは、残りの福岡ファイター! 総勝ち抜き戦!」
「私にも参謀で参加させてもらえないか?」
サユリ「……ふうん。軍師サマの登場? 面白そうね! 正直、ヤノくんだけだと物足りなさそうだし、好きなようにしたら!」
サユリが余裕しゃくしゃくに言う。
……そのとおりだった。付き合ってるころ、俺たちは何度も『ストZERO2』や『K・O・F』で対戦したが、圧倒的に俺のほうが負けていた……。
屈指のアスリートであるサユリは、格闘ゲームでも部類の強さを誇る。
しかも初めてやるゲーム……不器用な俺で、この勝負、勝てるのか……。
ササハラ「もう一度ルールをおさらいしたい」
「……プレイアブルキャラクターは、福岡ファイターのメンバー。ラストひとりまでの総勝ち抜き戦。そして私は、参謀としてまあ好きにやらせてもらう……これでいいな?」
「……まどろっこしいね! いいってさっき言った!」
ササハラ「…………ただの確認だ」
サユリ「さあ行くよ! ゲームスタート!」
~ QUEEN OF FIGHTER 9X ~
Here Comes a New Challenger!!
~ QUEEN OF FIGHTER 9X ~
Here Comes a New Challenger!!
サユリの叫びと、軽快な効果音と共に、ゲームは始まった……!
Please Character Select!
ゲーセンでお馴染みの筐体モニターに、これまたどこかで見たことがあるようなキャラセレクト画面。
だが、そこに表示されているのは、デフォルメされた福岡ファイター!
少し離れた筐体の前で、サユリが血気盛んに叫ぶ!
「さあ。最初のキャラクターは誰!?」
「ヤノ……お前のモトカノは、なかなかシタタカだな」
「え? どういうことだよお」
ササハラ「このゲーム、圧倒的に私たちが不利だ。アリバにも悪意にも【三すくみの属性】がある。ジャイケンのようなものだ。そして、先に持ち札をさらすのが我々。これでは後出しジャイケンされるようなもの。どこかでうまく出し抜かねば、そのまま勝負を持っていかれるぞ」
ヤノ「……なるほど」
ササハラ「よし。先鋒はコイツでいこう」
そしてササハラが選んだのは……
YAGIHARA
『御意ッ!』
「へえ! いきなり最強クラスのお出まし? さすがは軍師サマ、大胆不敵な策だね!」
たしかに、この思いきりのよさは、ぜったい俺にはなかった……。
目の前の画面に、まさしく格ゲーそのものの、必殺技の入力コマンドが表示された。
レベル1【夜羽の剣『水の太刀』】 ←→←↓→ パンチ
レベル2【夜羽の剣『風の太刀』】 ←↙↓→↗↓ パンチ
レベル3【夜羽の剣『舞の太刀』】 ↓↑←→←→←↙↓→ パンチ
な! な、な、なんだよお! この複雑怪奇なコマンド!!
サユリは、風属性に対して有利な炎の悪意を出してきた。ササハラの読み通りだ……。
武闘場では、レバーとボタンで俺が操作する通りにヤギハラが動く。
「ヤノ。落ち着いて操作しろ」
そうは言うが、必殺技の入力が難しいうえ、リーチが長く、動きにクセがあるヤギハラは、操作が難しくて……。
『む、ムウ……身体が自由に動かぬ……! うまく操作してくだされーーー』
戸惑っているうちに、サユリの使う悪意にヤギハラは倒された……。
YAGIHARA Lose!
『……む、無念……』
「アハハ! せっかくの強キャラも、使いこなせないと意味ないよ!」
「や、ヤギハラ……すまん」
……こんなとき、ハヤトだったら……。
俺は、ナミが介抱しているハヤトをチラリと見た。
天性の勘のよさで、初めてのゲームでもそつなくこなせるし、アイツにはなんというか、ここ一番を安心して託せる勝負強さがある……。
「ヤノ。切り替えていけ。次のキャラは……コイツだ」
KAWAHARA
『え? おれっすか? だりぃー』
「その子も強キャラだってね! 見た目にダマされると痛い目みそう!」
サユリが楽しげに言った。テンションが高い……。サユリって女は根っからの競技好き、勝負好きなのだ……。
レベル1 【寒い言葉】 ↓→ パンチ
レベル2 【脱兎】 ←少し溜め→ パンチ
……ホッ。ヤギハラほど複雑なコマンドじゃなかった……。
敵が炎属性だったこともあり、寒い言葉を連発していたらとりあえず倒せた……。
カワハラとは同じ氷属性だが、こんなに使い勝手がよければ、強くて当然だぞお。コイツももっとヤル気出せばいいだろうに……。
「やるね! ま、相性的にしょうがないか! じゃあ次!」
サユリが出してきたのは、風属性! しかも、対カワハラを意識してか、スピードタイプだった。
「……ヤノ。敵のスピードは早い。脱兎をうまく使え」
「お、おう……」
だが、レベル2脱兎を使った途端、カワハラの操作がいきなり難しくなった! 速すぎてうまくコントロールがきかない……。
ただでさえ打たれ弱いカワハラは、クリーンヒットを数発もらい、倒れた……。
KAWAHARA Lose!
『痛って! マジ、痛って! ……逃げりゃよかった……!』
「くうう。すまん……カワハラ」
「アハハ! せっかくの高性能機も、乗りこなせなきゃ事故るってこと!」
「……次だ」
SHIMOKAWA
『響けっ! 僕の歌!』
「カワイイぼうやのお出ましだね! けど、油断はしない! 真のアリバに目覚めた炎使いらしいからね!」
シモカワが真のアリバに目覚めたことに関しては、仲間内でもよくわかっていない……。サユリ、おまえどこまで知ってるんだよお……。
レベル1【フレイムピック】 ダッシュ中に ↓→ パンチ
レベル2【Over】 ↓ パンチ ← パンチ → キック ↓ キック
レベル3【名もなき詩】 パンチ全押しで10秒経過後、弱・中・強パンチをリズミカルに三回
……フレイムピックは単純だが、また一段と独特なコマンドだ……。
「ヤノ。フレイムピックを軸に、削っていけ」
「わ、わかってはいるんだけどよお……」
それでも、せっかくの大技を使おうと悪戦苦闘する。
だが、シモカワの技はリズム感が必要で、不発が多く、その隙を一気に攻め込まれてしまった……。
SHIMOKAWA Lose !
『くそっ! ちゃんと使ってくださいよヤノさん!』
ヤノ「し、シモカワ……すまん……」
「ぜんぜんなってない! 攻めが強いキャラなのに、リズムに乗れないと宝の持ちぐされだよ!」
サユリがせせら笑う。シモカワは攻撃力は強いが打たれ弱い。一気に決めてしまわなくちゃダメだった……。
「……く、くう。そのとおりだよお……」
「……ここらで流れを変えたいところだな」
ササハラが指名した次のキャラは……
KAMURA
『げえええ! 俺? 裏切っちゃおうかな……』
「アハハ! 出た出た! 裏切りの鼻眼鏡! 全キャラ使わないといけないのが、総勝ち抜きのツラいとこだね!」
た、たしかに……カムラとか、どう使えばいいんだよお。
レベル1【裏切り】 パンチボタン150回連打
レベル2【コーヒー】 ↓ 溜め ↑ パンチ
レベル3【悪魔のささやき】 キックボタン200回連打
な、なんだ、このめちゃくちゃなコマンドは! パンチボタン150回連打? だからカムラの裏切りや不意討ちは、ぜんぜん成功しないのかよお!
「ヤノ。私の言うとおりに動け。カムラの本当の使い方を教えてやる」
……そうは言っても、カムラでどう戦えば……。
と思ったが、ササハラの指示した作戦は、意外なものだった。
とにかく、ひたすらガードする。
そして、ダメージを食らったら、すぐにコーヒーで回復。
カムラは圧倒的にしぶとく、しかも自前で回復できてしまうため、ぜんぜん体力が減らず、試合はこう着した……。
「なに、そのブサイクな『逃げ』戦法! そういうの、やってて面白い!?」
サユリがヒステリックに叫ぶ。
しかし、ササハラの狙いは……時間切れのドローだった!
DRAW GAME !
『ひいいいい……なんで俺がこんな目に……ハヤトさんめっ』
ドローの場合は、相手ともども敗退になる。さすがはササハラ……まともに戦っていたら、たぶん無駄に一敗していたぞお……。
「ふん! つまんないことして! それでも、こっちは二人負け、そっちはもう四人失ったよ!」
「だが、これで多少は流れも変わるかもしれん」
ササハラが次のキャラを指定する。
SHINJIRO!
『いくぜオラアアアア!』
シンジローかっ。
な、なんでひとりだけ名前にビックリマークがついてるかはともかく、なんとなくキャライメージ的に、素直で使いやすそうな気はするぞお……。
レベル1【熱血パンチ】↓→ パンチ連打
レベル2【熱血】 パンチボタン10回連打で一段階 30回で二段階 50回で熱血モード発動
レベル3【バーニング・シンジロー】←↙↓→→↓←→→→ パンチ連打
残り体力20%以下になると、隠しコマンドにより【バーニング発動】
か、隠しコマンド!? それどうやるんだよお……。
しかもほとんどがパンチ連打? この疲れるコマンドはいったいなんだよお……。
「シンジローは攻撃数値が不安定だ。パンチ連打でそれを補え」
「く。せわしいキャラだぞお……」
「……ハヤトさんの弟か」
サユリが冷たい目で言った。
サユリ「また、ワタシが嫌いな、暑苦しそうなのが出てきたね。……じゃあちょっと早いけど、こっちも切り札出すよ!」
サユリが出してきたのは、シンジローの苦手な氷属性!
しかも、なんだか強キャラっぽい面構えだ……。
「……コイツはマズイかもしれん」
ササハラが聞きたくない弱音を吐いた。
―― このゲーム、圧倒的に私たちが不利だ ――
……ササハラがそう言った意味が、ジワジワ俺にもわかりつつある……。
残メンバー