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【前編】『娘がパパ活をしていました』発売記念対談 グラハム子×山内マリコ

こんにちは。はちみつコミックエッセイの永木です。
世間はそろそろ春休み。お子さんがいらっしゃる方は、新学期を前に少し慌ただしい日々をお過ごしかもしれませんね。
そんな季節に、私たちの編集部では新刊『娘がパパ活をしていました』を発売しました。この発売を記念して、著者のグラハム子さんと帯に寄稿してくださった小説家の山内マリコさんのスペシャル対談を実施! 前中後編、3回に分けてお届けします。

―まずは山内さん、『娘がパパ活をしていました』を読んで、感じたことをお聞かせください。

山内マリコさん(以下、山内):実は以前から“パパ活”に興味があったんです。というのも、私が昨年書いた『逃亡するガール』にもパパ活がちらっと出てくるのですが、当初はもっと多めに盛り込もうかな、みたいな気持ちがあって。私の時代は援助交際が社会現象になっていましたが、パパ活はもう少しダークなイメージでした。

―援助交際も、当時はテレビですごく報道されていましたよね。

山内:はい。援交もそうでしたがパパ活も、若い女性のことを描くにあたっては無視できない現象。ちゃんと考えたいと思っていたところに、ちょうど『娘がパパ活をしていました』を拝読しまして、この本がすごくパパ活の実態を教えてくれました。読んでみると思いのほか普通の女子高生たちの生活の延長に、パパ活が忍び寄っているんですね。
高校生にもなると服が欲しいし、スキンケアやメイクにも興味が出て、とにかくお金がかかる。だけど高校生の立場では、思うようにお金は手に入らない。稼げる方法として唯一提示されているのが、女性の若さという“性的資本”を切り売りすることというのは、援助交際もパパ活もまったく同じです。援交を描いた作品はたくさんありましたが、自分も若かったからか、あまり親の顔が見えなかった。ところがこの『娘がパパ活を〜』では、タイトルのとおりパパ活をするのは誰かの「娘」であることが強調されている。なかなかショッキングですね。主人公の千紘は本当にあどけない女の子なんです。

私、グラハム子さんの本を他にも読ませてもらっているんですが、テーマが女性同士を分断しかねないようなヒリヒリするものだったりするのに、優しいところに着地されますよね。『母の支配から自由になりたい』を拝読しましたが、自己救済の経験があるからか、登場人物が抱えるドロドロした部分も、ハム子さんがしっかり浄化してあげている。『娘がパパ活を〜』も、本当だったら娘と母親が決裂してしまいそうな流れでも、途中から母親の過去パートにシフトしていって、理解し合おうとするところへ向かっていくのがものすごく良かったです。
今回のパパ活もそうですが、タワマン、母との確執など、ネガティブなイメージに覆われたテーマでも、ハム子さんが描くとダークなだけじゃない、ドロッとしたものだけじゃない、女性たちにとっての救いが用意されている。信頼できる描き手だなと、改めて思いました。

グラハム子(以下、ハム子):ありがとうございます。嬉しいです。こんな風に言っていただけて。

山内:話や章をまたぐときに、「これ、一体どういう風に良い結末に持っていくんだろう?」ってドキドキしていたんですが、そのストーリーの運び方のテクニックも本当すごいなと思って。「ここからこっちに持っていけるんだ!」って。しかも無理やり感もないし、自然な形でやってるっていうのがすごい。

―今回、母視点と娘視点がそれぞれあるんですけど、ハム子さんが母視点もしっかり入れたいっておっしゃって、それでこういう構成になったんですよね。

ハム子:自分が母親だからっていうのもあるんですが、お母さん側も実は気づいていなかったけど、まだ未消化のもやっとした思いが…記憶が遠くなっちゃったけど私にもあった、みたいなね。

―その話は結構しましたよね。他にもハム子さんが工夫したことや苦労したことを、ぜひ教えてください。

ハム子:全部苦労してる…(笑)。制作中は、必死でやってたら終わってるってことが多くて。だからあまり言葉にできないんですけど…私、娘が小学生だから高校生の母にもなりきれてないし、かといって高校生だったのはもう20年くらい前だし…ちょっと中途半端な時期で、それを取り戻すのにかなり苦労しました。今までの漫画って主婦が主人公だったり、高校生でも、なんとかそのキャラになりきって描いているっていうタイプだったので、今回自分を分断してやるのがちょっと難しかったけど、楽しかったですね。

山内:千紘の、クラスの女子のなかでもちょっと幼い子というポジションもリアルで良かったです。この本を描くにあたって現役高校生に取材したと聞きましが、取材相手からイメージされたんですか?

ハム子:実は、取材した子は高校3年生だったんです。もうすでにキレイでかわいい感じで、完成されていました。でもこの作品では、もっと下の1年生にしようって取材の時に思ったんです。ちなみに、この子たちがパパ活をやっているわけじゃなくて、友達とか近い人がやってるっていう具合でした。

―そうそう。皆かわいくて、一緒にいると気持ちが華やぎましたね。

山内:若い子とちょっと接触しただけで、何か焚火にあたっているみたいな…満開の花のそばにいる、みたいな気分になりますよね。

―だからこそ、近くに危険が潜んでいて。この子たちが踏み外していなくて本当によかった。

山内:自分の若い頃を振り返った時に、あそこで思い留まった、あそこで踏み外さなかったな、っていう瞬間がありますよね。日本って、若いっていうだけでセックスワークへの扉が開かれていて、本当にトラップだらけ。それ以外の職業は、女性はなかなか入れないように閉ざされているのに。なので、求められているところにすんなり行くと、どんどん性産業に近づいて、自分の性を切り売りする世界に行っちゃう。そして一度そこに行ったら、そのサイクルからなかなか抜け出せなくなる。私が大学時代に住んでいた女子専用マンションにも、そういうチラシがよくポスティングされていました。時給3万とか書いてあって「えっ!?」っと驚く、みたいな。

―本当にすぐそこに入り口がありますね。

山内:だからガードをすごく固くしておかないと、いくらでもそっちに流れてしまう。若い女性の性を搾取する社会構造が、援助交際の全盛期から30年経ってもまったく変わっていないことが、このお話の母娘の体験を通して描かれていますよね。そういった構造を説明する言葉はどうしても難しくなってしまうけれど、ハム子さんの本はスルスル読めて自然に入ってくる。こんな風に読みやすくするのは、すごくテクニックがいることだと思います。

ハム子:実は内容をすごくそぎ落としました…。そういうビジネスの話とか、男尊女卑社会こととかも突っ込んで描きたかったけど、話が広がっちゃいますしね。

山内:あくまで女子高生から見た、日本のリアルな今。SNSを入口に大人の男性と知り合えてしまう現実が、ハム子さんのソフトな筆致で描かれると、逆に生々しくてドキッとしました。

≪対談は中編に続きます≫


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