
【後編】『娘がパパ活をしていました』発売記念対談 グラハム子×山内マリコ
―もしご自身にパパ活をしてしまった娘がいたら、山内さんはどう伝えると思いますか?
山内:「何やったの?(笑)」みたいな感じで、笑いにまぶしちゃうかもしれないです。ガチ怒りだと何も言ってくれないだろうから。夫と喧嘩する時とかにもよくあるんですけど、相手が心を開いて正直な言葉を言ってくれない限りは、無駄なんですよね。お口にチャックされてしまうと手も足も出ない。「もー、何やったの?私もさー」と、自分のバカな失敗談もどんどん挙げて、ほぐして、どういう経緯でこういうことになったのかを聞こうとしますかね。
―まず事情を聞かないとって感じですかね。
山内:相手がオープンマインドで喋り出してくれるように、自分は道化に徹する、みたいな。隠し事があってもいいんだけど、この局面ではヒアリングに徹しますね。
―そうですね。事件が起こる前から関係性を築けているかっていうのは、すごく大事ですよね。もしハム子さんなら、お母さんみたいにビンタしますか?
ハム子:…しちゃうと思う。今娘は小3で「知らない人とゲームの中でチャットしちゃいけない」って約束してるんですけど、たまにしちゃうんですよね。約束してるのに何度も破られると、頭にきちゃいますよね。期待しすぎなのは分かっているんですけど、やっぱり悲しいし。やりとりしいてる人が可愛いアバターだけど、おじさんかもしれないっていうのも、まだ分からないですしね。
―あとはさっきヒエラルキーの話が出ましたよね。この本は女子高の話でしたけど、共学でもかわいい・かわいくないで決まってしまいがちな、酷な世界がありますよね。
山内:はい、そこはけっこう根深い問題で。わたしは公立共学育ちですが、男子って小学生くらいの頃から、女子を見た目でレーティングする権利が自分たちにあるものだと、当然のように思っているんですよね。それによって女子同士が引き裂かれて、女の子もルックスで格付けすることを内面化していくから、人と比べて落ち込んだり、妬んだりしてしまう。それがまた苦しくて。つまりは女性が、男性に“選ばれる存在”という前提で戦わされているということですよね。その戦いの土俵から降りて、全体の構造を眺めることが、フェミニズムの視点だと思います。
フェミニズム的な考え方ができるようになって、ものすごく楽になりました。それまでは、恋愛至上主義的な価値観しか知らなくて。だけど恋愛がすべてだと、幸せになる結末がないんですよね。女は男に尽くすものとか、恋に狂って死ぬのが美しいとされているような、最終的に女が損する美学でできているので。結婚しても、女はなにも得しない。それを「おかしい」と思えて、フェミニズムの本にアクセスできるようになったのが、20代の終わり頃でした。
高校時代に援助交際が流行っていた世代の人って、20代はちょうどエビちゃん全盛期なんですよね。
ハム子:CanCam、大好きでした。
山内:「モテ」「非モテ」という言葉が流行るくらい、恋愛至上主義バリバリでしたよね。そこに付属する「男の人に好かれなきゃ、選ばれなきゃ」みたいな、すごく受け身な存在だったことに、ようやく気づけて、抜け出せました。
―なんかその空気って、今すごく無くなってますね。
山内:この数年で本当に価値観が変わりましたよね。『THE世代感』っていう番組見たことあります?
―ああ!あれ面白いですよね。
山内:あれ面白いです。昭和と令和を比べる番組が増えましたけど、昔の『クイズ!年の差なんて』ですよね(笑)。30年ぶりに、世代によってここまで物事の見え方が違うんだっていうギャップが開いた。つまりこの30年は、価値観でいうと凪の状態が続いていたってことですよね。
2017年の#metoo運動を皮切りに、少しずつ人権意識などが変わっていって、ハラスメント全般に対する忌避感も強くなって、新型コロナで加速しました。隔世の感がありますね。たとえば、私がデビューした2012年って、フェミニズムやシフターフッドをテーマにした小説はそんなに書かれていなくて、新しいことをやっているって感じがあったんですけど、あっという間にジャンル化するくらい増えていきました。そのくらいワーッと時代が動いた感じがしてます。
ハム子:実は私、山内さんの『逃亡するガール』を拝読しまして。女子高生が2人登場する作品で私も女子高出身なんですけど、女子高って言うと青春がないみたいに言われてしまうことが多いんです。高校生って男女の恋愛が青春のメインと思われていて、もちろんそれも青春だと思うんですけど、私は高校生活、わりと楽しかったんです。でも山内先生が作品の中でシスターフッドを書いてくれて、すごく救われたんです。濃厚な女の友情が楽しかった、私の高校生活を肯定してくれた。
山内:そう言ってもらえて嬉しいです! 私自身も高校時代に、「女の子同士の友情はすごくいいものだし、それだって素敵な青春なんだよ」っていう価値観があったら、全然違っただろうなと思います。わたしがそのことに気づけたのは大学生になってからでした。それ以前は、本当ならもっと仲良くなれたはずの女の子とも、本音を話せない関係のままフェードアウトしたり、どこかでライバル視せざるを得ない、ギスギスしたところがあったんです。その後悔が大きくて、小説を書いています。
恋愛とか、どっちがかわいいとか、そういうことじゃなしに、女の子とただただ仲良くしてキャキャしたかったなっていう気持ちがすごくあって。そういう女同士の友情を肯定したいし、そういう考え方が当たり前のものになったら、女性たちはもっと生きやすくなるはずだと思っています。
…と、このように白熱した対談となりました! 最後はお互いの著書に
サインして記念撮影をし、お話を終了。『娘がパパ活をしていました』(グラハム子著)、『逃亡するガール』(山内マリコ著)は絶賛発売中です。

【プロフィール】
グラハム子:漫画家。2児の母。著書に『タワマンに住んで後悔してる』(KADOKAWA)、『母の支配から自由になりたい「私」を取り戻すための10のステップ』(佼成出版社)など。
【プロフィール】
山内マリコ:小説家。著書に『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)、『あのこは貴族』(集英社)、『きもの再入門』(KADOKAWA)、『逃亡するガール』(U-NEXT)など。