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【刊行宣言】奈須きのこ・TYPE-MOON評論誌「Binder.」

【刊行宣言】

 はじめまして。同人団体「型月伝奇研究センター」と申します。私たちは2022年11月20日開催・文学フリマ東京での頒布、およびBOOTHでの電子販売を目指して『奈須きのこ・TYPE-MOON評論誌「Binder.」』創刊号を制作しています。

「Binder.」つまり「バインダー」とは、バラバラに散逸した「紙片」すなわち「Notes.」を束ねるもの。加速膨張するTYPE-MOONユニバースの全容に見通しを与え、TYPE-MOONの作品がもたらす体験をより味わい深いものにするべく、私たちは原典と向き合いながらさまざまなツール(文学理論、批評理論、現代思想、メディア学、アーカイブ学を含むあらゆる学知体系の手法)を用いて縦横無尽に研究・評論活動を行います。ゆくゆくは、TYPE-MOONについて考えを深めたいすべての人にとってのベースキャンプを提供したいと考えています。

 とはいえその道のりは果てしないので、ひとまず私たちはクリエイター「奈須きのこ」に焦点を絞って共同研究を行うことにしました。これからはじめる研究は、1990年代に伝奇小説と本格ミステリの融合を目指した新鋭作家にまつわる回想でもなければ、2000年代のサブカルチャーに絶大な影響を与えたシナリオライターについての総括でもないし、2010年代に世界トップクラスの売上額を叩き出したソーシャルゲーム総監督に対する分析でもありません。今をときめく現役クリエイターに関する、現在進行形の予備的基礎研究です。2021年に発表された「月姫 -A piece of blue glass moon-」と「妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ」からは奈須のキャリアが尻窄まる気配など感じられず、むしろ豊富なインプットと熟練のアウトプットが新境地到来を予感させます。奈須の進化は止まらない。そして進化するたびに、過去の仕事に与えられるべき解釈は更新されます。リメイク作品やメディアミックスはかえって原典の秘めたる趣旨を浮き彫りにするのですから。奈須研究をはじめるにあたって、早すぎるということはありません。

 第一、私たちは奈須について何を知っているでしょうか? もし奈須が凡百のライターにすぎないのであれば、「FGO」を模倣したソーシャルゲームはいずれも大ヒットを飛ばしたはずです。しかしそうはならなかった。これは先行者利益の一言で片付けられる現象でしょうか。実際のところ、奈須がどういう作家であるかを十全に理解できていないから、下手な模倣もままならないのではないでしょうか。

 たしかに奈須は謎の多い人物ですが、須藤友徳(劇場版「Fate/stay night[Heaven‘s Feel]」監督)のように丹念な読解を重ねることで、あるいは作品外著述やインタビュー記録を参照することで、その影響関係や構想方法をある程度推測できます。研究材料はすべて私たちの目の前にあり、読解の余地は開拓されるのを待っている。あとはわれわれが手を動かすだけなのです。

 しかしTYPE-MOONの商業規模に反して、奈須を扱う評論的仕事は極めて少ない! インターネットには物語世界の事象や世界観展開を読解対象とする「考察」だけが溢れています。考察文化も悪いものではありませんが、批評的言説が「優れた考察」として受け止められる現状には悲しいものがあります。商業出版においても、日本語の体系的研究と言えば坂上秋成『TYPE-MOONの軌跡』(星海社)の一例のみ。このとき奈須は「ゲームはシナリオだけでできてるわけじゃない。絵とか音楽とか演出とかを含めてちゃんと批評してほしい」と坂上に託けましたが、シナリオに関する議論さえ尽くされていない現状、まずは各論から始めることも必要でしょう。昨今はTYPE-MOON自身がシナリオ集・設定資料集・展示会を企画することでアーカイブ化と文化史的価値の定位作業に取り組んでいますが、それは本来、在野の評論が肩代わりできる仕事です。というかそんな暇があるなら続編制作にリソースを回してほしい。

TYPE-MOON研究の膠着した状況に一石を投じる。これが私たちの企てです。あまりにも水面が静かなので、どんなさざなみでも立てば御の字です。また、評論活動への参入ハードルが高い理由として、ツールが普及していないことが挙げられます。ひとりでも多くの人に現代文化を考えるための理論的枠組を提供できるよう、ツールの開発と鍛錬に寄与することもまた、私たちの重要なミッションです。
 ……と、壮大な構想を語りましたが、ひとまずは創刊号完成に尽力します。みなさまの賛同と応援を賜れれば幸いです。よろしくお願いします!

文責=曾良ひめる

【寄稿募集】

「Binder.」は、奈須きのこ作品およびTYPE-MOON作品に関するあらゆる論述的文章を掲載します。チャットアプリ「Discord」にて、クオリティアップと校正のためのやり取りにご協力いただける方であれば、どなたさまの寄稿も大歓迎です。
ただし原稿については、「型月伝奇研究ことはじめ」で示した以下の三点を必ず満たすようにしてください。

①適切な語彙を充填すれば誰が読んでも理路を了解できる
②引用部の出典が明瞭に示され、筆者の主張と明確に分かれている
③奈須きのこ・TYPE-MOONと直接の関係がある


字数制限は特にありません。おおまかな目安として論説文は2000〜40000字、物語文2000〜20000字としておきますが、面白ければ大作も載せます。
また本誌をご購入くださる方への配慮として、寄稿文の紙媒体および電子媒体への全文再録は当該号発行日から半年間(6カ月)お控え願います。

ご興味をお持ちの方は、「型月伝奇研究センター」までご連絡ください。
Twitter:@KATADENKEN
Mail:katadenken⚫︎gmail.com(⚫︎→@)

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