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インチキ・アーティスト・スター9
今日が失業保険、最後の認定日だった。ハローワークに入ると受付の女の子は真っ赤な顔をして咳き込んでいるし、女子便所から止まらない咳が聞こえてくる。
まあ、新型肺炎で死ぬのなら仕方がない。戦争で死んだり、殺されたりするよりはマシだ。用事を済ませ走るように外に出ると、春の匂いがした。今日来るとき電車から、梅の花が見えた。
ようやくハローワークの呪縛を逃れ、明日kindle本を出せる。前祝いと昼飯を食いに店に入ると、フィリピンの女の子が4人カウンターにいた。フィリピンパブの娘か、ウィルスは持ってないはずと近所に座ると、地図を見ている完全な観光客だった。オレは観光地に住んでいるのだ。観光なのに吉野家で定食くうんじゃねえ! そう思いながらオレは超特盛りを頼んだ。
オレは絵を描くのが嫌いだが、表紙の絵は自分で描く。二冊分の絵を描きあげて準備完了、これで当分、絵を描かなくてすむと思うと非情に気分がいい。オレはこれ以上、絵がうまくなると大事なものを失うのだ。だから、練習はしない。それは大事な何かは香りのようなものだ。今回の絵はフォト・スケープのアンティークフィルターで誤魔化してある。
吉野家を出ると、黄色いトレーナーを着た髪の長い女の子が一人で歩いていた。その背中にはウサギが交尾している絵が描かれてあり、下に赤い中国語4文字。おそらく、「つがって下さい!」という意味だ。
こいつら、自分たちのせいで世界中の人が大勢が死ぬかもしれんのに、平気な顔でこんなハレンチな衣装を着やがって、オレは一言「お前らがウィルスじゃ!」くらいの一言は言わねば気がすまない。オレのようなクソにもオレなりの正義がある。オレは女の子を呼び止めて、「ハウ・マッチ?」と聞いた。女は、
「アイ・ハブ・コロナ」そう言って、小走りで街へ消えていった。