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人気の無い夜の電車、不思議なおっさん達

会社帰りの電車、仕事の疲れもあってうっかり眠ってしまった。
いつもよりやけに人が少ないのもあるだろう。
しばらくして目を覚ます。目の前には二人のおっさん。
おっさんたちは何か喋っていた。
でかい声、いやが応にも耳に入る。

「そしたらようお前、何がでてきたってよお、一尺三寸の穴子が飛び出してきたんだよ」

相手のおっさんが少し笑いながらしゃがれた声で返す。

「いやいやいや、穴子って黒澤さんじゃないんだからさあ」
「ほんとう?」
穴子のおっさんが切り返す。
「いやあれはねえ、黒澤さんというか、やっぱあれは一尺三寸の穴子だねえ」

それに対して相手のおっさんはこう切り返した。
「へぇ……まぁさ、そんなにびっくりしなくてもいいんじゃない?どっちみち役員の椅子は見えてきたんだしさ」

なんの話だ。

電車が次の駅に着く。

「じゃあまた」
穴子じゃないおっさんが降りていく。
ふらふらと手を振りながら見送った後、残された穴子のおっさんは僕の隣に座った。
一方で僕は難しい顔をして、先ほどの話のことを考えていた。

「どうしたの、そんな険しい顔をして」
穴子のおっさんが年相応に優しい顔で話しかけてきた。

僕は意を決して聞いてみた。
「あの、さっき話してたことなんですけど」

穴子のおっさんは一瞬考える素振りを見せた後、口を開いた。
「あぁ、あの話ね。不思議な話だったでしょう、でもねえあの話にはとんでもない秘密があるんだよお、聞きたいかい?」

電車はガタンゴトンと音を立てながら目的地へと進んでいく。
僕らは息を吐く音もなく電車の中で座っている。
ゆっくりと僕は穴子のおっさんの目を見て、おっさんの真意を探ってみたが分からなかった。

僕はゆっくり首を縦に振る。

「ちょっと耳貸してみ」

僕は穴子に耳を近づける。
穴子は口を開く。

そこで聞いたことは今でも忘れられない。
穴子は言った。
「実はねえ、あれ本当は、一尺三寸の……鰻だったの」

…。

車窓からはもちろん街の光が見える。しかし、住宅の灯りは全くなく街灯ばかりが目立っていた。
こんな景色だったっけな、と僕は思いながら車窓を眺め続ける。
仕事帰りの車窓なんて今までそれ程見てこなかったんだろうなと思いつつ、その風景をやけに懐かしく感じていた。景色だけじゃない、暖かい何かに包まれているような懐かしい気持ち。夢現とはこんな感覚なんだろうか。

いつの間にか車窓からの景色は真っ暗になって、遠くに強く光る灯りのみになっていた。あれは灯台だろうか。まさかな、海沿いを通る路線じゃないのにな。

穴子のおっさんは僕の隣の席からいなくなっていた。
別の車両に座りに行ったのか、駅に停まった記憶はないけど僕がうっかりしているだけか。

煌々と光る電車が海沿いの線路を疾走する、まるで光の矢みたい。遠くで一等星のように煌めく灯台。夜の海の漆黒は不必要な物を塗りつぶす。これは誰の視点だ。


【出典】アルコ&ピースANN コーナー名「家族」
    サイコメールまとめより抜粋
    ラジオネーム:ガイルガーゴイル

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柏原 雪
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