時はゆっくり、だが早く
追いかけている、すごくすごく。走ろうとしたけど走るのには抵抗があった。でもとにかく見ていなければ、目で追っていなければ、すぐに見失ってしまうから。早く早く、待ってほしいのに待ってはくれない、ゆるりゆるりとしているはずの残酷な時間の流れを感じて、それでも必死に。
何故こんなに必死になるのか、自分でもよくわからない。だけど追いかけたいと思って追いかけている。それだけが本当の気持ちな訳だから、追いかけることに精一杯でいよう、今は。
(「待て待て待て待て!」)猫が突き刺さるほど見つめる、私を、どう写っているのかそのまん丸な瞳に。あんまり見ないで、でも気になんかしていられないからとにかく私は目の先にあるものを追いかけ続ける。
目を離さない、離してやるものか。頑固に、見つめ続けてひたすらに早歩き。
「あっ」
と思う、一瞬のこと、そう、ほんの一瞬。0テン1コンマ秒のこと。いや、もっと短い、秒にもいきたらぬくらいのほんの僅かな時によって、私の足は縺れ私の身体はひっくり返ることを良しとした。つまり重力に逆らうことを許可されたのだ。よりも、重力が私を手放してしまったと言って良いだろう。なんでも、勢い良く出してしまった左足には、道を通せんぼせんとばかりにゴツゴツとした大きめの石さまが、ごろんと横たわっていたのだ。道の真ん中でこっくりと休息を楽しんでいる石さまにとっては多大なるご迷惑だったでしょう、けれども、私への甚大な被害よりかは遥かにマシではないでしょうか。
ゴロンとその気怠そうなゴツい体は、ぐるんと宙を見た私なんかお構いなしに寝そべり、私の足首があらぬ方角を見ようとしたことなんか気にもとめないで、そんなおおらかさを剥き出した石さまに関係がない私はその一瞬の間に何があったか理解に及ばないという間抜けな顔で天空を見た。
打った腰の痛みに悶えるよりも先に
(「あ~、行ってしまった。」)
日にこんがりと焼けて、ほんわり柔らかそうな雲たちは、風の流れに身を任せ、ぐらぐらと彼方へゆっくりと去ってしまった。
地に打ち付けられた身体が悲鳴を上げるよりも先に、諦めと流れていく穏やかに泳ぐ雲への腹立たしさを、風がどこかへ連れ出そうと私の軋んだ髪を優しく引っ張るのだった。
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