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茨の道 医療の道~看護に従事する先輩からのメッセージ~


強い安定性のある医療業界

 新型コロナウイルスや震災に台風、線状降水帯といった人智を超えた災害に、失われた30年のしわ寄せが教育・財政・政治に重くのしかかっているこの状況。

 戦後から高度成長期を遂げた後、経済界はバブルの崩壊を期に安定を求めて教育の世界では、『良い高校、良い大学、いい企業に就職』という言葉がスローガンのように掲げられて、10代の大事な時期を勉強に費やさせることがすべてだった。

 しかし、現在ではそのいい企業がつぶれてしまう時代。
 それどころか、そのスローガンに反旗を翻した人間が富と権力を持つような時代。

 そんな従来の常識が通用しなくなってきた時代であったとしても、強い安定を保つことのできる業界が医療業界だ。


医療業界を志すという選択

 それが故に、近年医療業界を目指す人間は増加の一途をたどっている。
 医療の世界は、たしかに医療系の資格さえ持っていれば、どの県に行こうとも就職に困ることは決してない。
 さらに、医療は人さえいれば、必ず需要が生まれ、その資金源の安定性は国が担保している。
 おまけに、世間で『病院で働いてる』と言えば、その名声は確固たるものとなる。
 これほどまでに、理想的な業界もそうはないだろう。
 しかし、この記事を書いている私自身も看護の世界で生きているからこそ言えることがある。
 

「医療の世界は総じて、茨であり修羅だ。」

 

向き合うのは命、それゆえ人並みならぬ責任と覚悟が必要

 医療業界は、どの業界とも違う点が、人の命と直接かかわっていることだ。
 薬一つをとっても、薬物の種類、目的、用量、方法、時間、患者(医療の世界では与薬の原則として6Rと言われている)のどれかでもミスをしていれば、それだけでも急変してしまうのだ。

 だから、カフェインやポルフェノールが含まれているコーヒーを一つとっても、患者によっては制限を設けている。
 そんな、一つのミスも許されない戦場だが、扱うものが命であれば、その命を纏う人間そのものを扱わなくてはならない。

 であれば、こちらでどんなに他職種で連携して何度もカンファレンスを重ねてもその通りに行かないことのほうが多い。

 クレーム・理不尽な暴言・暴力、不穏行動・・・。
 これらすべてに対応していかなくてはならないのが、この医療の世界だ。

 そしてこれは、どの医療の役職でも同じことが言える。
 それだけシビアな世界なのだ。


受験は、覚悟が試される登竜門

 また、働く前の学び舎においても、当然、そこには国家資格を取得することのできる最低ラインを保たなければならない為、入学前の時点でも難関試験をクリアしなくてはならない。

 そして、ようやく入れたそこの大学・専門学校は、当然すべての科目が必須科目で、内容も1科目1科目、大学入試並みの知識量をクリアしなくてはならない。

 そのうえ、その各科目をクリアした後でも、半年から1年以上続く実習に挑まなければならず、この実習の厳しさというものは、YouTube、X、TikTokといったようなSNSで医療の経験者が語っている動画やコンテンツが豊富に出そろっている。

 是非とも、人権も人らしい生活も、睡眠時間もない地獄のような時間を彼らのコンテンツで視覚的情報からだけでも経験してみてほしい。
 


修羅の先にある希望

 ここまでの間で、これ以上になく医療の業界に行こうと考えてる君たちを脅し続けてきたが、先述したように医療の業界は、その厳しさの先にあるものはとても素晴らしいものだ。

 「クリミアの天使」と呼ばれたフローレンス・ナイチンゲールの話を知っているだろうか。

 19世紀、戦場の野戦病院は汚れた寝具と不衛生な環境であふれ、負傷した兵士たちは病気で命を落としていた。
 そんな絶望的な状況の中、ナイチンゲールは昼夜を問わず献身的に患者を看護し、衛生状態の改善に力を注いだ。
 彼女の働きによって死者の数は激減し、ただの看護師であった彼女は歴史に名を刻む存在となった。

しかし、彼女が歩んだ道のりは決して平坦ではなく、激しい反発や困難と戦い続けたからこそ、彼女はその先に「光」を見つけたのだ。

 ナイチンゲールの例にあるように、医療の世界に飛び込むそこの君にも、時には限界を感じるほどの苦しさや孤独が襲い掛かってくることがあるかもしれない。
 それでも、目の前の患者のために全力を尽くし、その苦しさを乗り越えた先にあるのは、他では得られないやりがいと希望だ。
 患者の「ありがとう」の一言や、少しずつ元気な状態になっていく様子は、あなた自身が人の命を救った証であり、その価値は何にも代えがたいものだ。

あなたにもし、修羅でも茨でも地獄の時間であっても耐えられる覚悟があるなら、ぜひとも医療の世界であなたの力を発揮してほしい。


検討を祈る。


執筆者:ラディッシュ(講師、国立大学医学部看護学科)
編集・校正:大窪(かすみの舎 塾長)


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