どうやって8月19日の時点で9月中のコロナ感染者数の激減を推計したのかという話
1.はじめに
noteを始めた動機は、7月~8月にかけてコロナ感染者の増減に世の中が一喜一憂して、先が見えない状況が日本を暗くしていると感じたためです。
実は、感染症は、比較的推計しやすい現象です。細かい話は、こちら(意味が分かると感染症対策ができる計算式)をご参照ください。
8月23日に「意味が分かると怖いグラフ」として、行動抑制だけでコロナ感染者数を減らそうとするとどうなるのかを分析してみました。
そして、8月26日に「意味が分かると少し希望が持てるグラフ」として、ワクチンによってどれだけ感染者が減るかを分析しました。
その結果が、こちらです。点線で示したのが複数シナリオでの推計値、実線が実際の感染者数(7日間平均)です。実際の感染者数が複数シナリオの推計値の枠に収まっており、グラフの形も相似しています。
この推計値が、実際の感染者数(新規感染者の7日間平均)とどれだけずれていたかをグラフにしたのが、こちらです。
かなり的確な推計値になっていたと思います。
9月上旬までは予防行動拡大シナリオに近く、現状維持シナリオよりも大幅に実際の感染者数が下回っています。
9月中旬以降は、実際の感染者数との差が小さくなり、9月末(最近)では、やや感染者数が上振れています。
8月下旬時点は感染拡大が続いており、推計した私自身も目を疑ったのが正直なところです。
8月末時点でここまでの感染者数の減少を想定できた人は、それほど多くないと思います。
実際、菅総理が8月25日の会見で「明かりははっきりとみえ始めています」と発言したのに対し、政党や国民から批判が上がってるとの報道、番組でのコメンテーターからの批判、知事からの批判もありました。
(引用は、目に止まったものを例示したもので、網羅的ではありません。)
このような危機では、責任ある立場の人、発言に社会的な影響力のある人は、不安を叫ぶのではなく、根拠に基づいた展望を示すのがあるべき姿です。
そのためには、単なる想像ではなく、的確な分析が必要です。
2.何で推計からズレたかも説明できるという話
さらに、推計からのズレも説明ができます。
上のグラフでは、9月上旬までは推計よりも感染者数が少なく、9月中旬以降は感染者数が上振れしています。
肌感覚でわかるように、9月から人の外出は増えています。
では、それをきちんと分析するためには、どのようなデータを使えばよいでしょうか。
例えば、アップルの移動傾向レポート(2021.9.26分まで)をみると、9月上旬までは移動量が抑制されていたのが、9月中旬以降は大きく増加に転じています。
また、Googleのコミュニティ・モビリティレポート(2021.9.24)では、いわば「不要不急の外出」に分類される公園への移動が9月中旬以降に顕著に増えています。
(公園に行くこと自体について、何らかの価値判断をしているものではありません。)
他にも、googleトレンドで「お酒」+「飲める店」がどれだけ検索されているかの傾向をみると、9月中旬にかけてお酒を飲める店を探す検索が増えていたこともわかります。
このように、感染者数の拡大を受け、9月上旬までは、推計の想定よりも個人個人が行動を抑制し、感染拡大防止行動をとっていたため、推計値よりも感染が抑制されていました。その一方で、9月中旬以降は、感染者数の減少に伴って、活動量が増加している傾向があります。特に、9月末は、推計の想定よりも行動量が増加しています。
3.指摘されていない日本の弱さ、あまり意味のない数字
今回のコロナ禍では、デジタル化の遅れが指摘されましたが、行政、報道関係者、有識者も含め、データ分析の弱さが顕著に表れていると思います。
理系・文系が高校生(私立だと場合によっては中学生)から分かれる中で、数字を読める、理解できる人材が圧倒的にいないのかもしれません。
特に、不確実性の中で、過大な感染者の推計や楽観的な推計もあふれました。そして、その推計をうまく受け止められていないようにも見えます。
人流を繁華街などの人の増減で測っているものもありますが、観測地点以外への移動が捉えられないこと、ある地点では増えてある地点で減った場合にどう評価するかなどの問題があります。ダメとまではいいませんが、指標としてはかなり不正確だと思います。
他にも、感染者数について、「〇日ぶりに〇人を下回る(上回る)」という表現もありますが、感染者数は曜日のずれが大きいので、あまり意味のある表現ではありません。
このため、上記の分析では、7日間の平均値とすることで、曜日による影響をなくしています。
細かいところでは、他にも色々ありますが、こんなことができるんだと思ってもらえると、ありがたい限りです。