カストリ書房移転クラファン応援メッセージ・井出明様
移転に際して開催したクラファンには、様々な分野から応援メッセージを頂戴しました。クラファン本文でもご紹介していますが、改めてこちらでもお伝えしたいと思います。(なおクラファン本文では五十音順にご紹介したので、こちらでは五十音逆順でご紹介します)
前回の石川真紀様に続いて、今回は井出明様(金沢大学)をご紹介させて頂きます。以下頂戴したメッセージです。
井出明先生は御著書に『劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界』(2021年)、『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』(2018年)があります。
2011年の東日本大震災後、東浩紀氏らが『福島第一原発観光地化計画』を提唱し、大きな論争を巻き起こしたことは記憶に新しくあります。井出先生も名を連ね、ダークツーリズムの手法から復興を論じています。
実は私も〝ダークツーリズム〟という言葉に拒否反応を示していた一人です。が、井出先生の御本を読み進めると、「ツーリズム」「観光」を物見湯山と同視し、狭い定義しか持たなかったためであると理解しました。近代化が抱えた限界や構造的な負の側面に敢えて着眼して歴史を捉え直すというダークツーリズムの手法は、工業化や戦争ばかりではく、遊廓にも転用可能であることに気づきました。
遊廓もまた負の側面を大きく抱えた歴史の一つです。それまでの私はどちらかというと、光の側面をフックとして光影両面を伝えることが妥当であるといった理解を持っていましたが、フックでしかないはずの光の側面が一人歩きしてしまう弊害に薄々感じていました。そんなとき拝読した井出先生の上記2著が大きな示唆を与えてくれ、これをきっかけとして井出先生に勉強の機会を頂戴した次第です。
2017年に大阪市西成区にあるいわゆる飛田新地に残る旧娼家・鯛よし百番の保全・修復を目的としたプロジェクトへの参加を要請されたとき、井出先生が指すところの〝都市の繁栄の象徴〟としてばかり着目されることで、かえって性売買の歴史が変質・不可視化されることを危惧しました。井出先生の御本にある知見を援用して、次のような小文を書きました。
鯛よし百番は、国の登録有形文化財に指定されています。この事実を聞いて、少なくない人が、こう考えるのではないでしょうか。
「遊廓建築が国に認められた。あっぱれ!」と。
しかし私はそれに到底首肯できません。
文化庁が設ける国指定文化財データベースには以下とあります。
当建築がかつて娼家であったことには一切触れられていないことに注意せざるを得ません。このデータベースは遊廓建築の価値を認めるどころか、負の過去をロンダリングしてすらいると私は考えます。人見佐知子氏(近畿大学)は、上記の記述を指して、次のように指摘しています。
私も人見先生と考えを同じくするものですが、こうした視座を与えてくれたのが井出先生のご知見でした。
この場を借りて、暖かいメッセージを下さったこと、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
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