たった数秒のことなのに、
2025年1月24日。
私は東京ドームにいた。
SixTONESのライブツアー、「YOUNGOLD」に参加するためだった。
東京ドーム、というのは来るだけで気持ちが高揚する場所だ。
それこそ、嵐やNEWS、KAT-TUN、Sexy Zone、ジュニア……カウコンでも来たことがある。
どんな時でも、こんなに大きなところで、こんなに沢山の人が同じ景色を同じパフォーマンスをこれから見ると思うと、どこか地に足がついていないかのような感覚になる。
東京ドームは入場ゲートと座席の関連性がほぼ決まりきっている。ここのゲートのチケットなら、だいたいスタンドだ、とか、アリーナだ、とか。
3日前にお知らせメールが届き、それは良くも悪くもアリーナが良く出るゲートであった。
ツアーの初日は、まっさらな気持ちで向き合えるから好きだ。
どんなセットリストなのか。どんな装置や機構を使うのか。どんな衣装なのか。それに対して、ファンが毎回歓声をあげたり、どよめいたりして、アイドルが思わず頬を緩める瞬間も好きだ。
だから初日は見るところも覚えておきたいところもたくさんある。したがって、本当ならスタンドから全体を見渡せる席の方に入りたい気持ちもある。
でもありがたいことにそのゲートが来たのだから、そこはしっかりと享受しなければ罰当たりである。
入場して券面を見て、真っ白になった。
東京ドームのアリーナ席は、縦はアルファベット順に振り、最前ブロックがAで、後はHくらいまで出ることがある。一方で横は16個のブロックに区切られるので、真ん中は8と9ブロックになる。
下手側の真ん中寄りの番号が書かれていた。
始まってみなきゃどんな席かわからないのだが、これがまたとんでもないところだった。
セットの上に立つ6人が。
メインステージにいる6人が肉眼で見える。
容赦なく降り注ぐ紙吹雪。それはカバンに勝手に入り込んでいく。
空間に放たれた瞬間、顔に触れる炎の熱さ。
初日は特に見ている全員が純粋なリアクションをする。
歓声、悲鳴、どよめき。
この世の中に発表された瞬間、全てのものは酸化し始めていく。こういったファンのリアクションもツアーを続けていくうちに酸化して、かたちを変えていくのだろう。次に入る時、どうなっているのか、少しだけ、楽しみが増えた。
私は1月22日が誕生日だ。
たまたまSixTONESおよびSnowManのデビュー日と重なり、二度と忘れることのない日付の一つになった。
元々この1月にツアーを、ライブをするグループは少なかった。実際、私がほかに掛け持ちしているグループでも、1月上旬に開催したことがあるだけ。
だから、今回はツアーの日程と会場を見た瞬間に、「絶対に初日に行こう」と決めていた。
結果として自分の誕生日プレゼントを、自分でもぎ取った。
第一関門突破。
一生のうちに誕生日当日のライブにも入ってみたいと思うがかなり難しい。
だから今回はせっかくなので「誕生日でした。お祝いして!」といううちわを持っていった。こういう時は座席が事前にわからないシステムがもどかしい。
先に述べた通り、とんでもない席が来てしまった。つまり、ファンサももらえそうな座席だった。ずっと自担の名前のうちわを持っていたし、ペンライトもメンバーカラーを灯し続けた。でも、前後の同担にファンサをする彼がそこにいた。近くに来た時もタイミング悪くこちらに背を向けてしまった。
こういう時ばかりは運である。仕方ない。
そうこうしているうちに、アンコールまでなってしまった。
アンコールの曲が1曲、2曲と進む。トロッコへ乗って遠くへいった6人。もはや埋もれてどこにいるのかよくわからないので、全体を見るようにしてどの辺に誰がいるのか見ていた。
そうこうしているうちに2曲目が終わりに近づき、彼がトロッコで戻ってきた。そして近くでメインステージへ移動した。もうここで見てもらえなかった終わりだと思ってハラハラした。
3曲目が始まり、花道が動く。
ステージが上がり、私がいる方へ近づいてきた。
自担はファンサービスが手厚いと思う。名前の通り優しい人だし、何よりファンの大切さを知っているのだろう。だから、メンバーカラーのペンライトや、うちわを持っている人を見つけては何かをしているイメージがある。
花道の上を移動しながら、どんどん私の方へ来る。途中彼のパートがあるから、ここではファンサしないなと思った。でも、目の前で歌っている姿が見られて嬉しかった。
すると足を止めて、私の目の前でこちらを向いた。これまで他の人にやっていたよりも長く、私の方をしっかりと見ていた。優しく微笑んで、手を振ってくれた。それはとてもとても長く感じた。
そうして彼は去っていった。
あまりにもかっこいいファンサービスの姿に、わたしは真っ白になった。そして、去る背中を見ながら、「あれは、私にくれたんだ」と感極まってしまった。唯一、真っ白になってしまって、その場で崩れ落ちれなかったのが後悔として残った。
終演後には同行者にそのことを言われて、やっぱりあれはファンサだったんだと思った。
これは私の妄想でしかないが、明らかに彼はファンサをやるタイミングを狙っていたのではないかと思った。
というのも、他の席に入っていた友人から私のうちわを見たかもしれないという連絡がその後あったのだ。
そうすれば確実にどこかのタイミングで目に入っているに違いない。
動線とタイミングを考えて、アンコールというあのタイミングで狙ってやったのであれば、もう、何もいうことはない。
私はすっかり彼に骨抜きにされてしまっている。
アイドルとして職人芸を見せられて、惚れないわけがない。
たった、数秒で人を熱狂させる。
そんなアイドルたちが、より好きになった。
アイドルたちから得られるパワーをガソリンにして私は生きている。そう、改めて実感させられたライブだった。
そして、「あなたのファンはここにいるよ」という意思表示のために、名前のうちわを持ち続けようと固く誓ったのでもあった。
私から自担へ返せるものは、そういう行動で示すか、CDやグッズを買うことくらい。
それが多少なりとも支えになれば。
彼がアイドルを選択し続けるための理由になるのなら。ファンとして冥利に尽きるもんだ。