喜びもほころびもともに超えていきましょう
川本空は
「メジャーを変えたい。」
と言ったという。
彼女の「変えたい」という発言が意図するところの詳細についてはわからないが、X JAPANやGLAYなど名だたるレジェンドロックバンドを敬愛する川本の言葉であるということから鑑みれば、彼らと同じような音楽史に名を残す存在になりたいという願望の表れだったのかも知れない。
北海道発のアイドルグループ、タイトル未定。
『何者かになろうとしなくていい。何者でもない今を大切に。』
をコンセプトに、札幌を拠点に活動している。
その楽曲やライブパフォーマンスから「王道」とも呼ばれる彼女たちだが、いわゆるライブアイドル界においては異質な存在感を放つ。
まず、その遠征数の多さに舌を巻く。
北海道のグループでありながら、ほぼ毎月、多い時には月に複数回、東京へ遠征をしてライブを行う。
また、大阪や名古屋、その他の地方でのイベントに参加することもある。
ただでさえ稼働が多いと言われるライブアイドルの中でも、その移動時間まで含めるとかなりの時間をグループ活動に費やしていることになるだろう。
そんなスケジュールの中、札幌では毎週木曜日に開催される定期ライブにも出演。活動の中心である土日はほとんどライブの予定で埋まる。
つくづくアイドルというものはそれ自体好きな気持ちがなければ続けられない職業だなと感じてしまう。
そこまで彼女たちを突き動かすものとは。
1.郷土愛
埼玉県出身の阿部葉菜以外の3人のメンバーは北海道出身。生まれ育った北海道でアイドル文化を盛り上げていきたい。そういう気持ちを強く持っている。東京での活動や重要なライブも多いけれども、自分たちのホームはここ北海道である、というベースはしっかりと持っている。
そして唯一、他県出身のメンバーである阿部葉菜にしても、タイトル未定の活動をする為に単身で北海道へやってきて4年目になる。
初めての北海道、初めての1人の生活。不安なことも少なくない中、公私ともに沢山の人の温かさに触れ、北海道が大好きになったと語っている。そんな北海道に恩返しをしたいという気持ちは彼女にも同じかそれ以上にあるのだろう。
ちなみに、とあるアンケートによると北海道は郷土愛ランキングで常にトップかそれに近い結果となっているそう。
2.表現欲
タイトル未定のライブパフォーマンスを評して
「浄化された」「表現力がすごい」「指先まで意識が行き届いている」「まるで映画を観たよう」
などと言われることがある。どれも、アイドルのライブを観た感想としては少し違和感を覚えるのではないだろうか。
表現に対して、かなりストイックなグループであることは確かだ。
アイドルグループの表現にもいろんなタイプがあるだろう。タイトル未定の場合は、どちらかと言えばダンスの動きや角度を正確に揃えるというよりも、1人1人が楽曲に合った感情を歌とダンス、表情を使って表現し、それが「タイトル未定」という集合体として立ち現れる……筆者のイメージをあえて言語化するならそのようなものになる。
これは阿部葉菜のこの発言にも近い感覚だろう。
冨樫優花はよく「表現者」でありたい、と語る。小学5年の頃からアイドルになりたいと思っていた。
そんな彼女の人生において表現というものは切っても切り離せないものだった。そしてこれからもきっとそうなのだろう。
3.メンバー愛
これについてはもはや多くの言葉は不要な気がする。出逢ったタイミングはそれぞれ違うけれども、出逢えたタイミングには意味がある。
去る5月29日から6月4日の1週間、
「TIF2023PR大使」を決めるための企画にタイトル未定から谷乃愛が参加していた。
昨年のTIFで歴史に名を刻んだタイトル未定。
HOT STAGEに立つ目標も達成した。
しかしその裏で谷乃愛は1人、無力感を感じてもいた。
「私はTIFで何もすることができなかった」と。
周りは皆そんなことない、と言う。私だってそう思っている。それでも本人が納得できていないならば納得できるまでやりきるしかない。
そんな中での、今回の挑戦。
「絶対にグランプリを獲る!」
そう固く決意して臨んだこの期間。
タイトル未定は東京遠征も重なっており、その合間を縫っての配信が続いた。配信スケジュールも早朝だったり、深夜だったり、ろくに休む時間もなく体力的にも精神的にも消耗していたことだろう。
それでもファンを楽しませたい、笑顔を届けたい、何より結果を出したい。谷乃愛の強い気持ちが痛いほどに伝わってきた。
最終日、ライブの特典会を抜けて締切時刻ギリギリまで配信を実施。なんとか上の順位を、と追いかけたものの、配信の結果は4位で終了。(※最終順位確定はまだ)
ちょうどその頃にタイトル未定の特典会も終了し、戻ってきた阿部葉菜が駆け寄って谷を抱きしめる。阿部は配信をすでに切っていると思っていたようなので、これは見せようと意識してとかではなく素の行動だったと思われる。
この配信期間を通じて、阿部はいろんなアイデアを提案したり、表に裏に谷のサポートやケアの役割として大いに貢献していた。冨樫も川本も同様に彼女を支えていたのだろう。
グループに貢献できる存在になりたい。
そう願って、踏み出した谷乃愛の勇気を私は讃える。
最後には4人揃って笑顔でじゃんけんをして。(※谷乃愛の配信はじゃんけんして締めるのがお決まりの流れ)
絶対に1人にはさせない。
タイトル未定とは、そういうグループなのである。
おわり。