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「サーキュラーエコノミー実践」概要

『サーキュラーエコノミー実践』は、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏が、オランダと日本の17の具体的な事例を通じて、廃棄物を出さない経済モデルの実践方法を紹介した書籍です。

本書は、デジタルテクノロジー、インフラ、建築、食品、アパレルなど、多岐にわたる分野での取り組みを取り上げています。

特に、官民一体となってサーキュラーエコノミーへ移行するオランダの先進的な事例を詳述し、欧州での5年間の調査と国内での研究を基に、日本におけるビジネスチャンスや実践のための考え方も提案しています。

オランダの事例

1. インストック(Instock)
オランダ・アムステルダムにあるレストランで、スーパーマーケットやベーカリーから廃棄予定の食材を仕入れ、一流シェフが創意工夫を凝らした料理を提供しています。これにより、食品ロスの削減と高品質な食事の提供を両立しています。店内では、廃棄食材を使ったレシピ本『Instock Cooking』や、ミシュランの星付きシェフと協力した『Circular Chefs』なども販売し、食品廃棄問題への意識啓発にも努めています。

2. サークル(Circl)
オランダの大手銀行ABN AMROが建設した複合施設で、サーキュラーエコノミーの理念を体現しています。建材やインテリアにはリサイクル素材を多用し、解体後の再利用も考慮した設計が施されています。施設内には、アップサイクル商品を扱うセレクトショップや、手話で注文できるカフェ、フードロスを減らすレストランなどが併設され、持続可能なライフスタイルを提案しています。

3. マッド・ジーンズ(MUD Jeans)
オランダのデニムブランドで、ジーンズのリースモデルを導入しています。顧客は月額料金を支払い、一定期間使用後に新しいデザインと交換することが可能です。返却されたジーンズはリサイクルされ、新たな製品の原料として再利用されます。これにより、資源の無駄遣いを防ぎ、持続可能なファッションを推進しています。

4. フェアフォン(Fairphone)
オランダ発のスマートフォンメーカーで、ユーザー自身が修理や部品交換を容易に行える設計が特徴です。製品には紛争鉱物を使用せず、倫理的なサプライチェーンを確立しています。この取り組みにより、電子機器の廃棄物削減と社会的責任を両立させています。

5. トニーズ・チョコロンリー(Tony's Chocolonely)
オランダのチョコレートブランドで、児童労働や不公正な労働環境の撲滅を目指しています。製品のパッケージデザインやマーケティング戦略もユニークで、消費者の関心を集めています。日本にも進出し、持続可能なチョコレートの提供を通じて社会課題の解決に取り組んでいます。

これらの事例は、サーキュラーエコノミーの理念を具体的に実践し、持続可能な社会の実現に向けた新たなビジネスモデルを提示しています。

日本国内の具体的な事例

廃棄物を出さない経済モデルの実践方法が紹介されています。

1. 黒川温泉一帯地域サーキュラー・コンポストプロジェクト
熊本県の黒川温泉では、観光業において「競争」よりも「共創」を重視し、地域全体での循環型コンポストシステムを導入しています。このプロジェクトでは、温泉街の各旅館や飲食店から出る生ごみを回収し、堆肥化することで、地域の農業に活用しています。これにより、廃棄物の削減と農業の活性化を同時に実現しています。

2. Pizza 4P’s
ベトナムを拠点とするピザレストラン「Pizza 4P’s」は、サステナビリティを美味しく学べる場を提供しています。同店では、地元の有機農家と提携し、オーガニック食材を使用したピザを提供するだけでなく、食品廃棄物の堆肥化や再利用にも取り組んでいます。また、環境に配慮した店舗デザインや、従業員へのサステナビリティ教育など、持続可能なビジネスモデルを構築しています。

3. オニバスコーヒー(ONIBUS COFFEE)
東京都内に数店舗を展開する「オニバスコーヒー」は、高品質なコーヒーの提供とともに、持続可能なビジネス展開のヒントを提供しています。同店では、直接取引による生産者支援や、環境に配慮した店舗運営、リサイクル可能なパッケージの使用など、サーキュラーエコノミーの理念を実践しています。

4. フィル(FIL)
「フィル」は、日本の建築や林業をアップデートする取り組みを行うプロジェクトです。国産木材の活用や、伝統的な建築技術の継承、森林資源の持続可能な管理などを通じて、地域経済の活性化と環境保全を両立させています。

5. サーキュラー・ヴィレッジ大崎町
鹿児島県大崎町では、町全体で資源循環の仕組みづくりを進める「サーキュラー・ヴィレッジ」プロジェクトが展開されています。住民や企業、行政が一体となり、廃棄物の分別回収やリサイクル、再生可能エネルギーの導入など、多角的な取り組みを行っています。これにより、資源の有効活用と環境負荷の低減を実現しています。

これらの事例は、日本各地でサーキュラーエコノミーの理念を具体的に実践し、持続可能な社会の実現に向けた新たなビジネスモデルや地域づくりを提示しています。

結論として、サーキュラーエコノミーへの積極的な移行が、国や企業、そして個人にとって多くの利益をもたらすと述べています。具体的には、国は気候変動や廃棄物問題などの課題に取り組みつつ、国民の幸福度を向上させることができ、企業は新たなビジネスモデルを通じて経済的効果を創出できるとしています。さらに、個人にとっては、「競争」よりも「共創」を重視した人間らしい経済・社会の仕組みづくりが可能になると述べています。

また、サーキュラーエコノミーの実践は、従来分断されていた経済、地球環境、幸福度の「3つのP」を補完し合い、周囲と支え合いながら自分らしく生きやすい環境を整えると指摘しています。このように、サーキュラーエコノミーは、持続可能で多様性に富んだ社会の実現に向けた重要な手段であると結論づけています。

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