飛ぶ物件調査

この話は禍話のかぁなっきさんに送った原文です。

あくまで又聞きの又聞きで信ぴょう性はないって断りを入れたうえで、 とある不動産関係者が語ってくれた都市伝説っぽい話です。

Aさんの務める不動産会社は地場のよくある小さい不動産会社で、社員は全部で10人もいない。 そのうちの一人、先輩でもある30代後半の同僚のBは、営業成績もよくなければ勤務態度も良くなかった。 中途入社ながら最初の数年は問題なかったが、離婚を機にだらしなくなっていったと。
お客様からも「連絡が遅い」等などクレームもあり、Bのせいで他の社員が尻拭いを行い、結果的に辞めていく人も出た。 社長としても最初は「あいつも離婚して大変だから…」とかばっていたが、さすがにクレームが常態化すると雷を落とすこともしばしば。 それでも最初はしおらしくするものの、数日すると元のダメ社員。 かといって致命的なミスをするわけでもないため、首にするのも難しい。Aさんは社長から「そろそろBをなんとかしないとな」とそれとなく相談も受けていたぐらいの時期。

ある日、AさんとBさんが社長から 「B、明日だけどこの物件を調査して、うちが管理すべきか判断してきてくれ。Aは申し訳ないけどBを物件まで送った後、こっちの物件を調査してくれ。 あ、Bは帰りの足が無いから終わったら直帰で良いぞ。」 と指示があった。Bは直帰できるのが嬉しいのか、元気よく返事をしていた。

ただ、Bに渡されたのが普通の物件情報の紙(不動産会社の店頭に貼られている紙)じゃなくて、破ったメモ紙にアパート名・住所、そして達筆で鍵→管理人って書かれたメモだけ。
そんなケースも無くはないけど、Aさんからすれば「Bにそれだけだとちゃんと調査できないんじゃ…」と心配した。 そんなAさんの顔を見た社長は補足のようBへ話した。 「その物件、先週の会合で◯◯不動産の相談役(会長的ポジション)が俺に回してくれたヤツだからな。詳細な物件情報はそろそろ届く予定だが、Bなら現地調査で大丈夫だろ。 あと、くれぐれも相談役へ失礼になるようなことはするなよ!」と注意喚起。
【補足】 ここで言う物件調査について。 通常、不動産会社は大家からアパートを預かり、その管理費を収入とする。 当然新築デザイナーズ物件だと人気・家賃も高いわけで管理費も多くなる。 ところが築50年のボロボロ木造アパートを預かってと言われても、人は入居しないは管理は大変、クレームも増える。 結果的にコストも膨れて、自社で扱うメリットがない。 そのため、自社で扱う物件か見定めるために物件調査を行う。 (その調査結果を大家に伝え、修繕など改善すべきところを伝えるのにも使う)

翌日、昼前に会社から車で都内某所にあるBの物件へ。 道中、社内ではBが「情報ないから管理人に聞かなきゃダメじゃん。めんどくせー」ってぼやいてる。 Aさんは「まぁ直帰できるんだからいいじゃないですか」と宥めつつも、早くBを下ろして一人になりたいって思ってた。

目的の物件に到着してBを下ろし、運転席から物件を見ると築50年ぐらいの古アパート 今更手を入れても人が住みたいと思わないレベルだが、崩壊しているわけでもなく 「家賃がめっちゃ安けりゃ考えなくもない」という程度。

アパートの階段下には老婦人が一人いて、ほうきで枯れ葉を履いてる。 Bさんが早々に声をかける。 やはり管理人だったようで「あら、また新しい調査員さん?皆さん途中で帰ってしまうから困るのよ」と。 住み込みなのか不明だが、順調そうだなと思い、Aさんは声もかけずに車を発進。

Aさんは自分の物件を見て回って、いろいろお客様からの電話とか対応して夕方前ぐらいに帰社。 Bさんの姿は当然無いので羨ましいなぁって思いつつ、PC起動したら会社の物件問い合わせ用メールアドレス宛にBからメールが来ていた。
「調査報告書」というタイトルと2枚のスマホで撮った画像。 「いや、明日出社して自分で提出しろよ。どこまで横着なんだよ」と思いつつ画像を開く。 Aさんの不動産会社で使っている調査報告書はA4サイズで2枚つづりの書式。 住所・部屋個数・外観・問題点など1枚目の半分は埋められていたが、以後は空白。2枚目の上半分は空白で、下部の備考欄には 「前任者の佐藤さんの調査結果を確認してください」と書かれていた。

なんだこれ?前任者も何もあんたが初めてだよ。なに書いてんだか…と呆れ顔で顔を上げると、社長の顔が目に入った。 画面を凝視しつつも真っ青な顔。 物件問い合わせのアドレスは対応漏れがないように全社員が受信できる設定。 なので「あれ?これ、同じメール見てる?」となぜか思って「あの、社長?」って声かけたところ こっちをみてハッと気付き、「A、ちょっとこっちにこい」と応接室に呼ばれた。

ここからは社長の話。 一週間ほど前に地域の不動産会社が集まる会合があり、その後は恒例の飲み会へ突入。 酒が入った社長はついつい「社員Bに困っている」とこぼしたら、だいたいどこの会社も「あるある~わかる~」と慰めてくれたりアドバイスをいただくなど、それで話としては盛り上がった。

その後、飲み会はお開きになって別れようとしたところで、会合で長年お世話になってると◯◯不動産会社の相談役から声をかけられた。 「社長さん、このあともう一見どうかね?さっきチラッと耳にしましたけど、問題社員に困ってるんだって? 年寄りの知恵で良ければ話に乗るよ」

社長は会合の顔役でもある相談役とはあまり接点がなく、突然の誘いに驚きつつも ここで相談役と仲良くなれるのはありがたいと、喜んで誘いに乗った。 相談役の知る店に行き、世間話から会社経営の苦労話、そし社員Bについてと話が進んだ。 相談役も昔は苦労したのか、いろいろと当時の体験談を語り、それはそれで大変参考になったそうだ。

そして、そろそろお開きにしますかという空気になったところで、相談役が真面目な顔で聞いてきた。 「なぁ、社長さん。もしBさんが急に消えたらどうする?死ぬとかではなく、失踪という意味で。」
突然聞かれた社長も最初は「意味わからん、このじーさん盛大に酔ってるな」と思ったが、さすがにそれは口にはできない。
「いや、まぁ、首にするのも難しいんで、いなくなってくれたら嬉しいですが…」と返す。 すると相談役はカバンから手帳を取り出し、アパート名・住所、そして「鍵→管理人」と書いたページを ビリっと破いて、社長にずいっと差し出す。

「なら、この物件の調査に行かせてみなさいな。早ければ即日姿を消すよ」

最初は嘘くさいと思ってたんだけど、妙に迫力があって逡巡のち「じゃぁそれなら」と紙を引き取る。 相談役は続けて、そのアパートについての逸話も教えてくれた。 現状では6部屋中5部屋は空室であり、唯一の一部屋は管理人が住んでいるらしい。 らしいというのは、代替わりオーナー含めて誰も見たことがなく、いついるのかも不明。 ただ、アパート全体のゴミなどは綺麗にされており、管理人在中という裏付けにはなっている。
「私が知るところ、合計8人がその物件に調査をしに行った。 いずれも何かしらの形で調査報告書は会社に届くが、最後は備考欄に『前任者の調査結果をみろ』とだけ書かれていたと。」

社長は眉唾ながらも消えた人数が8人にも驚いたし、この口調、明らかに相談役の会社から消えていると察した。 相談役も「あー、うちもね。二人消えたよ。一人目の田中(仮名)は最初にこの物件をとある人から教えてもらい際、冗談半分で調査させに行かせたんだ。まぁ素行が良くなかったのもあるけど。 そしたらね、翌日には来なくなってたよ。二人目の佐藤(仮名)は身内の恥もあるから詳細は言えないが、一人目から数年後にね…」

社長は相談役自身が一番恐ろしいと感じ、酔いも冷めてしまったが、社員Bのストレスを感じると メモを返す気にもならなかった。 相談役は「まぁ、何かあったら連絡してくれ」と言われ、その場は解散。


 この話を聞いてAさんは「社長、なにしてんの…」と思っていると、社長から「俺も一週間は悩んだんだけどさ、この間もクレームがあったから…」と。 そして今日のBの様子を尋ねられる。 「いや、普通に物件に送って、管理人さんと話したところで別れました」としか答えられない。 社長は「そうか…」といいつつBさんの携帯に連絡。 呼び出し音はするものの、出ない。

翌日、予想通りというか、Bさんは出勤しなかった。 Bさん、遅刻だけではなく無断欠勤もたまにしていたので他の社員は心配していませんでしたが、 社長は朝から気が気じゃない様子。何度も携帯にかけてましたが結局出ず。 さらに翌日。 朝からBさんが出勤していないと分かるやいなや、社長はAさんを連れてBの自宅へ。 当然呼び出しにも返事なし。 そこは不動産会社、慣れたもので警察と管理会社へ連絡し、全員揃ったところで解錠。 警察に続いて社長とAさんが入るものの、生活感は残ったままでBさんの姿だけなし。 社長は続けて身元保証人であるBの両親や、離婚したBさんの元奥さんへも連絡先を調べて聞いてみる。 しかしいずれもこちらには来ていないと。

ここで社長は相談役へ連絡したところ、開口一番に 「Bさん、消えたか。もう姿は見せないから内々で処理しちゃいなさい。」と淡々と告げたそうです。 そして、あのアパートの話も続けて教えてくれました。

「あのアパート、誰かに教えるのが初めてだったので先日伝え忘れたことがあったよ。 うちの一人目、田中が調査に行く前日に不思議な電話があったそうで、それを他の同僚に話していたんですよ。 なんでも私に教えてくれた不動産会社の社員だったらしく、あとから聞いたら田中の一つ前に失踪した人からだったと。 『◯◯不動産の田中です。明日、あなたはとあるアパートに調査へ行きますよね。 物件に着いたら、必ず和室から調査を始めてください。窓際には近づかないように。 あと、もし管理人から『前の調査員さんの続きからどうぞ』と言われても、絶対に断ってください』と早口に言われたそうでね。
当然誰かも知らないし何のことか不明で、同僚には「昨夜そんな電話があったんですけどなんですかね?」って言葉を残して、調査後に姿を消したと。

Aさんによると、社長は相談役との電話を終えたあと、すごく疲れた顔をしていたのが印象的だったと話していました。

いいなと思ったら応援しよう!