回帰
起き抜けから不思議な感覚があった。
熱を出す前の予兆の様な何とも言えない浮遊感が。
何かが変わりそうな気配に根拠も無く浮き足立つ。
懐かしい雨の匂いがした。
春を差し置いて、気の早い夏の気配を感じた。
睡眠薬を飲み煙草に火を点ける。
次第に堕ちていく微睡みの中音楽に想いを馳せた。
古い曲を聴いた。
あの頃は響かなかった曲があの頃の様に胸を躍らせた。
「ああ、こっちだったか」
二者択一に見えても、三叉路、五叉路なんてことがままある。
別の道の行く先に目を細めると、こちらの道では手に入らないものが待っている。羨ましいのは当然。
既に明け方。これから床に就く。
眠剤に脳の機能をやられながら音楽に酔い一日を締めるのは久しくやっていなかった。
原点回帰。
恐らくこれが、過去に打った楔の一つ。
戻った。