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【歌詞考察】「転がる岩、君に朝が降る」の歌詞考察を本気でしてみたら救いが無かった【アジカン】


アジカンはファンも多いし歴史の長いバンドだけど、調べてみると案外ピンとくる解釈・考察が無い場合もあるんですね。

これまで「歌詞考察なんて不粋だ…」とか思ってたけど、初めてちゃんと書いたものを公開してみようと思いました。
気合い入れすぎて6,000字越えてしまった。

(歌詞考察初めてなので「~と感じた」「~と思う」なんて曖昧な発言が多々あります。ご容赦を。)

当然100%個人の解釈なので正解ではないです。
「僕はこういう曲に聴こえた」って内容の記事です。
何卒。


主題【転がる岩、君に朝が降る】

まずは曲名について。
これは音楽好きな人ならすぐにピンとくるだろうけど、前半は『ロックンロール』を指しているよね。

後半の「朝が降る」は造語ゆえに曲名だけで考えるのは難しいが、曲を通しての解釈は「ロックンロールは君の孤独と共にある」みたいなニュアンスで受け取った。


ただ読点で区切るこのネーミングセンスはどこから来たのか悩む。
色々調べてるとイギリスのことわざが目に留まった。

『A rolling stone gathers no moss.』
訳:「転がる石には苔が生えぬ」

英国式「職業や住まいを転々とする人は成功できない」
米国式「活動的にいつも動き回っている人は能力を錆びつかせない」

なんとなく語感的にここから来ている気がする。
英国ではネガティブな意味だが米国だとポジティブな意味になる。

これが直接的な意味かは置いといて、ことわざの語感からアレンジしたのなら「君に朝が降る」は「転がるように進んで希望を見つけていけ」とか、転じて「ロックンロールが君を運んでいく」というニュアンスにも受け取れる。
(理由は後述の歌詞解釈へ)

また別の「set a stone rolling」という言葉には「石を転がす」の他に「とんでもないことを始める」という意味もある
こちらも直接的な意味では無いにしろ、この意味を含んでいてもおかしくはない。
とか紐付けられてしまう。キリがない。

海外どんだけ石転がしたいんだ。


シチュエーション・状況

曲を通して解釈したシチュエーションや状況を簡潔に述べておいた方が伝わりやすいと思う。

・1番は無力な少年
・2番はロックを手にした少年。ギターとか始めたのかな
・『芽』=MVにも出てくる。成長や次世代のメタファーと解釈
・「孤独を暴き出す朝=劣等感がプラスに変わる瞬間」

そう、1番と2番の途中でシーンが変わる。
全体を通して「ロックならその孤独も無力も武器になる」と言われているようで、暗めの応援ソングという印象が強い。

そのため僕のこの曲の解釈は「ギターを手にして劣等感をロックに変えた人間の人生」のことだと思っている。

僕がギター弾く人間だからどうしてもロック方面にバイアスがかかってしまう。
けど、そういう曲でもあるよね、多分。

それでは歌詞の解釈へ。


1Aメロ

[1Aメロ-1]

出来れば世界を僕は塗り替えたい
戦争をなくすような大逸れたことじゃない
だけどちょっと それもあるよな
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

これはまさにロックの代名詞たる『世界平和』や『Love&Peace』の精神について触れている。

とはいえ主人公は大義を持った革命家ではない。
「世界を平和に導きたい」とまで強火な思想まではないけれど、ニュースなんか見ているとそうした希望や理想も少なからず抱くけどね。みたいな。

と、冒頭にわざわざこういった表現を取り入れることでこの曲は「ロックがテーマの曲」だと理解した。


[1Aメロ-2]

俳優や映画スターには成れない
それどころか君の前でさえも上手に笑えない
そんな僕に術はないよな
嗚呼…
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

マジ内気。
数秒前まで世界規模の話してたとは思えない。
しかし実際問題、自分を直視したらだいたいみんなこんなもので。
ロックをやるにはこうした「至らなさ」というのが必要なんだろうな、とも思っている。

『俳優や映画スターには成れない』という諦念、
『君の前でさえも上手に笑えない』という情けなさ。

自分が一般人の自覚があるところとか好きな子とまともに会話ができないコミュ症なところとかまさにロックに向いている。

それに元々ロックって90年代頃から陰キャの武器みたいな流れになったところは少なからずあるでしょ。
陰キャ特有のルサンチマンを音楽に乗せるとロックになるの。
Weezerの肩書きなんて「泣き虫ロック」だからね。呼ばれたくなさすぎる。


1サビ

[1サビ-1]

何を間違った?
それさえもわからないんだ
ローリング ローリング
初めから持ってないのに胸が痛んだ
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

ここ好きすぎる。
詩的すぎる。

『何を間違った?』は解釈の余地が広いが、個人的には「現状への不満=過去への後悔」だと解釈している。
「こんなはずじゃなかった」という感情が伺える。
つまり「理想の自分はこんなんじゃない」という劣等感。

極めつけは最後の『初めから持ってないのに胸が痛んだ』。
これが核心だろう。

Aメロのすべては「世界平和なんて分不相応」「自分はスターではない」「好きな子ともまともに話せない」という劣等感を受け入れて諦めているように歌っているが、最終的に吐き出したこの一行。
「自分はなんて無力なんだ」という悔しさに尽きる。

これは、まさに、”ロック”ですよ……
これが”ロックの種”なんですよ……


[1サビ-2]

僕らはきっとこの先も
心絡まってローリング ローリング
凍てつく地面を転がるように走り出した
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

サビの後半。
『心絡まって』は悩みのことだろう。
ゲームのクエストなんかとは違って、悩み事って必ずしも解決できるわけじゃない。
シンプルに「解決できないモヤモヤ」だけが残る場合がほとんど。
「友達に貸したポケモンが返ってこない」とかそんなんでもいい。

『凍てつく地面』はそのまま「しんどい人生、理不尽な現実」を形容したモノと解釈。

悩みは悩みのまま、抱えたまま進むしかないんよ、って。
この無力感のループを抱えるんだぜって。

それが当たり前のことなら「じゃあどうするか」ってなるよね。


2Aメロ

[2Aメロ]

理由もないのに何だか悲しい
泣けやしないから余計に救いがない
そんな夜を温めるように歌うんだ
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

2番になり、ここから少し視点が変わる。

実際、「泣けるほど悲しい出来事」って少ない。
でもちょっとしたことで落ち込んだり1週間くらいそのことが頭から離れないなんてのはすごいある。
感受性豊かな人には日常茶飯事でしょ。

『そんな夜を温めるように歌うんだ』
孤独の痛みを歌にしようぜ、という意味に聴こえる。
ロックは孤独なおまえに寄り添ってくれるからね。


2サビ

[2サビ-1]

岩は転がって僕たちを
何処かに連れて行くように
固い地面を分けて命が芽生えた
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

これ多分だけど、2番になってから主人公は「ロックをやる側」になったと思うんだよね。
というのも2番Aメロの『そんな夜を温めるように歌うんだ』は単に歌っているという意味ではなく、多分作曲してる。

『岩は転がって僕たちを
何処かに連れて行くように』
これは広い視点から見て、”ロックの継承”のことを歌っているように感じた。

音楽でも絵でも何でも、芸術や表現をやる側だった人はわかると思う。
「好きなアーティスト→そのルーツ→さらにルーツ」と、追えば追うほどその遺伝子の歴史を目の当たりにするタイミングってあるよね。

転じて「岩が転がる=次の世代へ進む」とも受け取れる。

『固い地面を分けて命が芽生えた』
ってのはこの主人公の歌が、色々な変化を繰り返してきた「音楽の歴史の中の新しい芽(最も若い世代)」と形容しているんじゃないか?


またもうひとつの解釈として、孤独に寄り添うという意味で「ロックが自分を前に進めてくれる」というダブルミーニングとも捉えられた。
転じて「岩が転がる=ロックと共に成長していく」

『固い地面を分けて命が芽生えた』というのも、力強い生命力を現していることから「成長」的な解釈を推したい。

ここまでだと2通りの解釈が出来上がった。
・「ロックをやることで自己の劣等感や無力感を解放する」
・「辛い現実を抱えながらロックを支えに明日を生きる」
これはプレイヤーとしてもリスナーとしても受け止めることができる多面的な解釈の余地のある歌詞だと感じた。レベルが高い。

ちゃんと掘り返してみると難解だ。


[2サビ-2]

あの丘を越えたその先は
光り輝いたように
君の孤独も全て暴き出す朝だ
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

(この部分は苦戦したので最も近いと思う解釈で失礼します)


ここで言う『あの丘』は試練のニュアンスもあるだろう。
試練を越えた先に待っているのは何か。

『君の孤独も全て暴き出す朝』
ここの解釈は多分こういうことかなって。
「劣等感を曲にしたことで過去を昇華でき、自分自身を受け入れることができるようになっていった」


恐らくこの曲でいう”孤独”ってのは単純な孤独感そのものではないと思う。「過去の過ちによる孤独」とか「何かの恐怖からくる孤独」などが含まれている印象を受けるんだよね。
短所、トラウマ、失敗、人間関係、恐怖心、そういったネガティブなモノの影響によって孤独に追い込まれていることを包括して”孤独”と歌っているような。


よくある表現として「必ず夜は明ける」とか「止まない雨はない」とか言うよね。
耳馴染みがありすぎてもうありがたさも特にないフレーズだけど。

この曲はそれについて「夜が明けるプロセス」を歌っている気がする。
僕は小難しく考えがちなので、そういう面倒くさい言い回しの方が信用できてしまう。


主人公はもう「自己表現」という武器を手に入れた。
だからもうこれまでの過去や孤独は、単なる「弱さ」ではなくなった。
過去に向き合って曲にすることで、やっと自分を受け入れることができる。
そういう「夜明け」なんじゃないかなって。


例えば自分のノンフィクションを赤裸々に歌っちゃうシンガーソングライターとか。
あれはだいぶロック。
アコギ弾き語りでも精神性がロック。
多分そういうのに通ずる話として解釈した。


Cメロ

[Cメロ]

赤い 赤い小さな車は君を乗せて
遠く向こうの角を曲がって
此処からは見えなくなった
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

これはマジで解釈難しい。
一気に抽象的になった。
多分ヒントになるのは”君”だろう。
1番に出てきた”君”と同一人物と信じて解釈する。


『赤い車』と言われて何をイメージします?
多分これ、「派手さ」のメタファーなんじゃないかなって。
『赤い 赤い車』って2回も念を押して言ってるくらいだし。

次に気になるのが『車』
さっきまでの少年は精神面から考えても恐らくまだ思春期。
それなのに急に車が出てきた。
つまりここでさり気なく時の流れを表現していると理解できる。

「オトナになって派手な車に乗ってる君」か。
フゥーー先の展開が怖くなってきたぞ!

『遠く向こうの角を曲がって
此処からは見えなくなった』

うーーーん……、
『遠く向こう』の時点でだいぶ距離がある。

さらに角も曲がっちゃった。
もう呼び戻すこともできないだろう。

『此処からは見えなくなった』
もう関わる機会も失ったような、
赤の他人になったような喪失感。



・・・・・・あれ、”君ちゃん”、結婚してない???


ラスサビ

[ラスサビ]

何をなくした?
それさえもわからないんだ
ローリング ローリング
初めから持ってないのに胸が痛んだ
僕らはきっとこの先も
心絡まってローリング ローリング
凍てつく地面を転がるように走り出した
「転がる岩、君に朝が降る」/後藤正文

ここで1サビの繰り返しになる。

『初めから持ってないのに胸が痛んだ』の意味がここに来て変わってきた。
そうだよね、別に”君ちゃん”と付き合ってたわけじゃないんだよね、きっと。

そして『僕らはきっとこの先も』と続く。
「この先も人生はこんな理不尽が続いていくよ」というかなり酷な現実を突きつけてくる曲だったことが伺える…。


1サビとラスサビ、同じ歌詞なのに全然意味が変わってくる・・・
やばいな・・・



まとめ

曲全体は簡潔にまとめるとこんな感じ。

・自分に自信がない無力な少年
・君とまともに話すこともできない
・自分を慰めるようにロックを始めた
・自分の劣等感を愛せるくらいに成長できた
・でも君はいつの間にかまともなオトナと結婚していた
・こんな理不尽はこれからも起きる

しかし、ちゃんと歌詞を考察してみると、鬼畜すぎないこれ?
一瞬ロックで救われたように聴こえたけど、あれ、救われてなくない?

「結局人生はどこまで行ってもきついのだ、ガンバレ」って歌じゃね?


だが実際はラスサビ後にも余白があると僕は思っている。


余白を読む

ラスサビまでだとどう見てもバッドエンド。
いやしかし、それはちょっと早計なのかもしれない。


詰まるところ、この曲の歌詞は人生のワンシーンを切り取ったに過ぎない。
「劣等感を昇華し、ひとつ成長し、手に入れた先でまた何かを失う」
そういう人生の中での希望と絶望を歌った曲でしょう?

それに最後の部分は
『凍てつく地面を転がるように走り出した 』
と歌っているんだよ。

そう、走り出しているんだよ。
バッドエンドじゃなく前向きな歌詞で終わってるんだよ。

つまりこの先は「人生はこんな理不尽が続いていく。その時はロックとともに乗り越えていこうぜ」という体育会系なメッセージが潜んでいると解釈した。

まったく、小説みたいなことをする。
はぁ、文芸レベルが高い。


じゃあもうこの続きはわかるよね。
そう、つまりこの余白で言いたいのはきっとこう。


結論:「俺たちの戦いはこれからだ!!!」


セカイ系?人生系じゃない?

実はこの曲は他の考察記事では「セカイ系」なんて言われていた。
確かに「戦争を無くしたい」とか「世界を塗り替えたい」とか、扱う言葉の規模も大きし視点も広めだと思う。
ただ安直にセカイ系というより、僕は「人生系」とでも言いたい。

1Aメロ-1→世界規模
1Aメロ-2→人間関係
1サビ→内面、過去、未来
2Aメロ→内面
2サビ→希望
Cメロ→喪失体験
ラスサビ→喪失、挫折、未来

人生のあらゆる視点に切り替わっているところが面白い。
カメラワーク豊かで映画みたい。

これの一部の歌詞を切り取ってセカイ系というのは雑な気がする。
この失敗と成長の繰り返しは確実に人生系でしょ。


蛇足

全く別バージョンの解釈として、全体的にこの曲はゴッチ自身が「かつての少年の自分へ」歌っているんじゃないかな、とも考えていた。

だとすると2サビ部分の、

『あの丘を越えたその先は
光り輝いたように
君の孤独も全て暴き出す朝だ』

の部分は「ミュージシャンとしての成功」とも解釈できるんじゃないかなと。
ロックバンドとして痛みや孤独を歌った結果、「その孤独で成功した=長所になった」的な。
(ここまでは解釈に大差なし)


アジカンを好きと言ってくれる人間は、その孤独や痛みに共感して感動してくれている。
その孤独は誰かに求められるようになったんだとしたら。
思いつく限り外に出していく必要がある。
そんな痛みを暴き出す行為は希望や光に溢れたモノなのかもしれない。

なんて解釈もしていた。

ただCメロについては最初の解釈が腑に落ちているところがあるので、これがまさかゴッチのノンフィクションだったら切ないね。
でもそれに近い喪失体験はあるはず。
アーティストだってにんげんだもの。


痛みを乗り越えて岩は丸くなっていく。
とがった角もいつの間にか希望の光に包まれて柔らかくなっていくのかもしれない。

(キレイにまとまった・・・?)


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