所有者不明土地の円滑化に関する特別措置法の活用例
ツイートで予想外の反響
所有者不明土地は日本で大きな問題となっています。
私は今回、珍しいケースを実務で携わらせていただきました。
少しでも多くの方に知っていただき、所有者不明土地問題の解決の糸口として活用してほしいと考え、今回、実例を交えて、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の概略を書いていきます。
個人情報保護の観点から、一部、事実と異なる表現をさせていただきますが、大筋の内容は事実に基づいています。
どんな案件だったか?
私が始めて物件を見に行ったのは、今年の5月。空き家の戸建住宅で、庭の草木は生い茂り、隣地や公道に草木が越境し、隣地の日照を妨げ、信号機も木の枝や葉が成長してしまい、見えづらい状況、これからの季節は害虫も発生しそうです。
登記を確認しても、相続登記はされておらず、以前住んでいた方が所有者のまま。数年前にすでにお亡くなりになっています。
このままでは、近隣の方たちの不安は募るばかりです。
あなたの隣地が所有者不明の空き家だったらどうしますか?
上記のような所有者不明土地問題の解決のために、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が平成30年に施行され、まだ施行されて間もないこともあり、この法律を活用した実例は、ほとんど無いようです。
貴重の経験をすることができましたので、不動産屋の立場として把握している範囲内で書きます。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の概略
令和元年に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」という法律が施行され、所有者不明土地の管理や活用、手続きの枠組みが広がりました。
法務省のホームページには下記の内容が記載されています。
平成30年11月15日,法務省及び国土交通省が所管する「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行され,法務省関連の制度の運用が開始されました。
この特別措置法では,法務省関連の制度として,登記官が,所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について,亡くなった方の法定相続人等を探索した上で,職権で,長期間相続登記未了である旨等を登記に付記し,法定相続人等に登記手続を直接促すなどの不動産登記法の特例が設けられました。
また,地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例も設けられました。
法務省ホームページより
相続財産管理人の選任
私が携わった案件は、最後の一文、「地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例も設けられました。」という部分が活用された案件になります。
一般的には、被相続人に相続人がいない場合、もしくは、相続人全員が相続放棄した場合には、被相続人の債権者である誰かが、相続財産管理人選任の申し立てをして、選任された相続財産管理人は、債権者に債務の返済をして、資産を換金後に国庫に帰属させることになります。
相続財産管理人についての記事はこちらから↓
対象の物件である所有者不明土地の土地とその上に建てられていた古家の建物は、数年前に亡くなられた方の名義のままになっていました。近隣の方が所有者を探し出すことはできませんでしたので、役所に協力を仰ぎました。
私の想定ですが、近隣住民は役所に対して、相当働きかけて役所も重い腰を上げた形となり、役所が解決方法を調べた結果、実例がほとんど無かった「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」を活用することにつながったのだと思います。
役所は、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをしました。
相続財産管理人の申立て後は、スムーズに相続財産管理人が選任され、、空き家の管理ができる環境が整いました。
近隣住民、役所の意図を家庭裁判所はスムーズに理解したのではないでしょうか。
相続財産管理人選任後の方針
選任された相続財産管理人である弁護士は、選任公告後、すぐに不動産の専門家として私にお声掛けをいただき、管理や処分について、今後の対策について一緒に協議させていただきました。
まずは火災保険に加入し、次に、近隣住民への迷惑を解消するために、家庭裁判所の許可を取った上で、草木の伐採を行い、この物件からの越境物は無くなりました。
ビフォーアフターの写真を掲載したいところですが、個人情報保護の関係がありますので、遠慮させていただきます。敷地内には、信号機やカーブミラーが見えなくなるほど成長した4m程の木が2本あり、雑草も放置されていたので、敷地の外から敷地内にある古家はほとんど見えませんでしたが、伐採後は敷地内にあったボリュームのある草木は無くなったので、物足りない感じのする古家しかない状態となり、越境などの近隣への迷惑は無くなりました。
選択肢の中には、急いで売却して、全てを買手に任せる早期決着という決断もありましたが、不動産業者に安く買いたたかれてしまう可能性と、不動産業者が購入後、スムーズに草木の伐採や建物の解体をして、近隣住民の良好な住環境がスムーズに確保できるのかが担保できないと考え、まずは草木の伐採をして、近隣住民の良好な住環境を確保することが最優先されました。
草木の伐採をすることで、時間に余裕ができました。時間をかけて販売し、より高い価格で購入する買手が現れました。年内か年明けには不動産の売却も終わるでしょう。
今後の活用
「所有者不明土地の利用と円滑化等に関する特別措置法」は活用されていくのでしょうか?
今回のケースでは見事に問題が解決できました。有効に活用され、多くの問題を解決できればと考えます。しかし、これには大きなハードルがあります。
一般的に相続財産管理人選任の申立てには、50万円から100万円程度の予納金が必要となります。
相続財産が無ければ、相続財産管理人の選任はされません。
相続財産管理人選任の申立てをするということは、予納金を回収できて、かつ債権を回収できると見込む債権者(メリットを享受できる人)が申立てをすることになります。
今回、役所はその自治体に住む住民のために申立てを行ったのですが、不動産を売却して、債務を返済して、積んだ予納金を回収ができると踏んだから、申立てを行ったのではないかと私は考えます。
国内には所在によって、評価がほとんど出ない不動産はたくさんあります。相続財産がほぼ対象の不動産しか無い場合には、最低でも予納金以上の金額で不動産を売却できるエリアでなければ、申立人にメリットは感じられないでしょう。不動産にほとんど価値が無い場合に、役所が相続財産管理人選任の申立てをするハードルは高いと思います。
本件では、不動産の評価がそれなりにあったため、役所は相続財産管理人選任の申立てを行っても予納金を回収できると踏んだと思われます。
課題は多いですが、所有者不明の空き家を流動化させ、新しい供給を生む法律であることがわかりました。
今回の経験を活かして、これからも所有者不明土地問題や空き家問題に少しでも貢献していきたいと感じることができた実務経験でした。
やれることはやっていこうと考えています。
ご相談等ございましたら、お気軽にご連絡ください。
kashwiabaraka@gmail.com