愚者はみていた。

愚者は無責任なやつだ。全ての元凶はコイツ、といっていい。
自由で自分勝手。
故に、人々の中に紛れながらも、玉座から眺めているように誰にも邪魔はされない。
物語を楽しんでいる旅人なのだ。

魔術師が生み出すゲームを共に楽しむ相棒。

魔術師は、男だ。故に、生み出す力はあれど、生み出さない優しさなんて持てなかった。
一人っきりじゃあさみしいから、相棒がほしいし、あれもこれも欲しいよね。
全部生み出せるよ。一からゲームを始めよう。

女教皇がいてだな

女だけど教皇になれるくらい賢いやつなんだが、賢いからこそバカな女でもあったんだ。

なんで、何でも知っているのだろうね?
不思議な知識ばかり身に付けていて、実践があまり伴っていない。
若いから仕方ないかな。
子供を身ごもって、皆の前で産気付いたから失脚したらしいという噂もあるが、はてさて。

女帝は母だ。

跡継ぎを産む必要があるのが、王族に属する女の宿命といっていい。

男がうまれるまで、男の全てを受け入れ続ける。

そうするしか、母になる道がないからだ。

男という生き物を知る度に、彼女は豊かになっていく。女がいかに重要で、女から動くことの大切さ、女次第で男が変わることを日々実感し、噛みしめている。

待望の息子が生まれてきた。

息子の御代になり、皇帝になった。

皇帝もまた、王族の男の宿命がある。
世継ぎを女に生ませることだ。

万物を統べる王族の長。

そのプレッシャーは、やがて彼のプライド、彼のアイデンティティーそのものになっていた。

時に暴君のように暴れるけども、皆を率いる姿はこれほど頼りになる男もいないだろう。

そんな皇帝にだって、老境は訪れてくる。

皇帝は世継ぎに譲り、自分は法皇になった。

法皇として、新しい皇帝の行く末を見守っている。
アドバイスしながら、世継ぎを育てていく。

やがて、法皇にも寿命が訪れた。

今までパパに相談して決めてもらってばかりいた、新皇帝にも、決断を自分でする必要が出てきた。

まずは、伴侶を恋でえらぶのか、王族の定めに従って親の決めた相手と結ばれるのか。

なやんでしまう。

恋人は、王族に相応しいだろうか?

キューピッドのみぞ知る。

新しい皇帝は、王族同士の約束を反故にしてまで恋に走ってしまった。

戦車で攻めていく。
皇帝は、好きな人と結ばれたいから。

しかし、それは、どうなるのだろう?

約束を反故にされた国の王家が、復讐に走る。

皇帝の恋人は、涙をのんででも、断りにいく。

暴れる皇帝はライオンのようにワガママをいう。
だが、立場を考えてほしい。

恋心を寄せられた女性は、涙をのんででも皇帝を追い返す。

彼女の望みは玉座でもないし、金でも力でもない。愛がほしい。
力ならば、ここにあるから。

力を操れるのは、愛だけなのだから。

彼女に拒絶された皇帝は、悩んで、苦しんで、部屋に引きこもった。

周りは相変わらず、引き立ててくれるし、食うに困ることもない。
だけど彼のこころの内は、どうすれば、彼女を得つつも、幸せになれるのか、鬱々と考えこんでしまう。

一人っきりで、孤立するような感覚。

だけど、不思議と彼女を思えば、さみしくなんかならなかった。

彼女が、こころの中に住んでいると皇帝は気付いたのだ。

それは、運命の輪だ。

彼女と出逢えたのも、彼女にひかれたのも。

運命だとしかいいようがなかった。
転機なんだ。
これからの生き方を左右するほどの。

正義の鉄槌が、関わるもの全てに下る。

正義の鉄槌は、盲目だ。

自分が正しいと主張する。他は間違っているとせめるのも、また間違いだ。
全てある意味では理が通ったもので、ある意味では理が通らない。

自分を主張すればするほど争いを招き、収拾がつかなくなるだけ。

ならば、誰かが仲立ちして、和解の道を探るだけだ。

全ての原因とされた元皇帝は、帝位を追われ、吊るされてしまった。

責任を問われた彼は、王族を追われ、彼女と駆け落ちをした。

それでも、彼女が好きだったから。

彼は、死んだような心持ちになった。

名前をなくしたような、さみしさ。
皇帝というもの、そのものがアイデンティティーだったのだから。

今までの傲慢な自分から一新した。新しい生活が始まった。新しい立場は、平民とそうかわらない。
今までのような、豪華な暮らしは、もうできない。

それでも、彼女がいれば幸せだと、信じようとした。

節制する生活。

それは、思ったよりも苦しくはなく、だが、たまに昔の癖が疼く。

彼女と毎日を供にするうちに、だんだん恋心はさめていった。

それでも、彼らの生活は平凡ながらも安定した、一般的には幸せな生活だった。

悪魔は囁く。

他の女と寝てみないか?
あそこにボンキュッボンのいい女がいるだろう?
王族にいてた頃は、妾を側に置いてもゆるされたのだ。

妻が二人いても、いいじゃないか………

それは転落の始まりだった。

バベルの塔からおちるように、最愛の彼女の好意を失い、信頼を失い、今までのように優しくなんかしてくれなくなっていく。それでも妻だから、側にはいてくれたが、疑われる日々は辛く、一晩の女も去っていった。

それでも星は輝いていた。

真夜中の真っ暗な中、一人ぼっちで歩いていても、星は輝いていた。

もう、あやまちはしないから。
ゆるされる、という希望。

確信なんか、まだ持てはしない。
だけど、どんなに失っていても、また再び得ることが出来たという過去が、彼の背中を押していた。

一方その頃。

妻は、妊娠したことを知った。夫との子供。
待望の子供のハズなのだけど、夫の浮気があったせいで、不安に満ちていく。

それはまるで、月のように揺らいでいく心。

私はこの子を育てられるだろうか……?

母の不安を知ってか知らずか、お腹の子供はすくすくと育っていく。

子供が生まれてきた。

太陽のように、キラキラした子供たち。

子供は無邪気に遊んでいる。

夫婦にお金や力の問題があるだとか、愛があるかどうかなんて、細かい事情なんか知らないし、そんなことはどうだっていい。

夫婦が結ばれ、その結果自分がいる。
それがうれしい。

それだけでよかったんだ。

夫婦は試されていた。

子育てという、試練。

二人は今までみたいに身軽ではない。

二人は簡単には別れられない。
子供の親だから。

子供が愛しい。子供にとっては、互いが必要で、二人とも大事な人で、争ってほしくはないし、仲良くしてほしいと願っている。

だから、二人は恋心がさめきっても、側にいることにした。

妻が働きに出、子供を二人で協力して養った。

やがて子供はすくすくと育ち、巣立っていく。

夫も老けて仕事が出来なくなり、引退して家にこもって気付いたのだ。

あのときの妻は、感謝が欲しかったし、ほめてほしかったし、家にも気持ちを向けて欲しかった、と。

自分が、妻の立場になって気付いたのだ。

妻は、外で働いて、自分の生活を支えている。

妻のために家事をしてみたり、下手であってもほめる健気な妻。

妻に操られ、妻が強い方が家庭が丸く収まりうまくいくと知った夫は、妻に感謝した。楽しい老後を二人で過ごすそれは、もう年齢なんか関係がなかった。

楽園に行き着いたように、毎日が楽しく、平凡な日々がありがたく、もうこれで一区切りついたな、と。

二人の物語は、これで終わる。だが。

また、二人が生み出し、育てた子供たちが魔術師となり、また新しい物語を生み出していくだろう。

今度はどんな物語だろうか?

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