ムーミンがうちにやってきてバズった話
朝起きても依然通知は止まらず、なんだかこれは端的に言って大変なことになってしまったのではないか…いやしかしこれはもはやわたしから遠く離れた出来事、わたしこんなの知らない…となかばヤケさえ起こしつつ、しかしどうしたって通知が止まらない。
どうしようどうしようとあばあばしながら横で寝ている夫を揺さぶったのだけれど、夫は「嵐はそのうち過ぎ去るから大丈夫」と言ってまたしばし眠りの世界へいってしまった。
仕方ないので布団のなかでツイッターを開く。スッと指を縦に滑らせればまたたちまち泉のように湧いてくるいいねやRTの通知。泉というよりもはや温泉…どうやらわたしは源泉を掘り当ててしまったらしい。
世のお金持ち、というのはこんな風なのかもしれない、と思う。とにかく一度回り出せばお金がお金を呼び、あとはもう自動的にジャラジャラと増えつづけるだけ。そんな億万長者の気持ちが少しわかったところで湧いても湧いても通知は溢れるのでスクロールする親指が止まらない。
引用RTなどで「カーテンないけど防犯大丈夫?」とか「本棚におやすみプンプンとデデデがある」とか「生活感…w」とかはたまた「ムーミンが乗ってる車、ベリーサだ」とか色んなご意見、ツッコミをいただいては「ひえ〜」とか「はえ〜」とあいた口がもうずっと塞がらない。カーテンはいいものがなくて引っ越してから半年、つけておらず。浅野いにおは夫婦そろって好きです。生活感は…ごめんなさい。ベリーサはついこの前まではピカピカだったのだけど夫が擦って傷モノに。南無三。
また他方、「朝からほっこりしました」「仕事が嫌で泣いていましたが癒されました」とか「素敵な旦那さまですね」とかあたたかい声もそれはそれはたくさん、本当にたくさんかけていただいて、またまた調子に乗って投下したかしわの写真にも反応してくださる方がいたりもして、なんというか嬉しくておどろいて、また嬉しくておどろく、その絶え間のない繰り返しのさなかに今、わたしはいるのだった。
ぼんやりとしたまま夫を送り出した後も、永遠に通知を見る人になってしまってもはやわたしの目がムーミンのそれで、完全に虚無である。おかげで今朝はゴミ出しのこともすっかり忘れてしまった。生ゴミとともに過ごす週末…。
しかし通知というものはこう、バババっと瞬間的に届くので、それはもうbotとかが自動でいいねしてるんじゃないか、と思うほどなんだけれど違うんだよな。そうじゃなくってこれだけたくさんの人が日々の暮らしのなかで、たとえば電車のなかで、家で、人を待っているその数分で、くだんのツイートを見てくれていて、「でけー」とか「ほしいな」とか「ふふっ」とか思ったりする、その時間がこちらに届いているのだということ。これだけたくさんのひとの、そのリアルな「時間」がこちらに向けて飛んできているのだ。そんなこと、バズるまで全然知らなかった。そしてそのことを思うと、なんだかとても不思議な心地がするのだった。
またしばらく連絡を取っていなかった方々からも、「どうしたの?すごいね!笑」からはじまって「最近こんなことしてるよー」とか「あのときのあれ、ごめんなさい」とかいった近況のLINEをもらったりして、はたまた前職場の高校で授業をもっていた生徒たちからも「先生バズってんじゃんw」って声かけてられてそれがなんだかとても嬉しかったり。
だからほんとうに、昨日は忘れられない誕生日の一日になりました。ちなみに誕生日の昨日は夫と、そしてムーミンと車に乗って大きな公園にゆき、シートに座って二人ツイートを延々眺めながらわーわー言ったり、ビールを飲んだり、楽しく過ごしました。ムーミンはシートベルトにおなかを食い込ませたまま、車中で待機していたのだけれど。
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そもそもうちにムーミンが届いたのは誕生日の前日、夫からはその日の夕方に荷物が届くから家にいてほしいと言われており、わたしはいつものようにAmazonで頼んだ本が来るのだろうと思っていた。しかし、配達員さんとともにやってきたのは人ひとりが入れる大きさのダンボール。こりゃー本じゃないなあ。明日誕生日だし、サプライズプレゼントってことか。それにしてもなんだろう…。がさがさ。
(え…ちょっと待って、デカい…)
そう、なかからずぼーんと出てきたのは、特大サイズのムーミンだったのです。
わたしを、というよりただただ虚空を見つめるがらんどうの瞳。虚無…。とりあえずソファに座らせて、落ち着いてもらおう。というかわたしが落ち着こう。
そして困惑を持て余したわたしは、いつものノリでツイートした、というそんないきさつで、それで今に至るのであった。まさかこんなにあれよあれよと広まることになるとは。
それにしても驚くべきことにこの一連のバズりによってムーミンは売れに売れ、なんとAmazonぬいぐるみ部門のベストセラーになったらしいのですが(!)、勢いで買ってしまった方は届いてその大きさに驚くんではないかと思います。
ほんとうに、大きいです。後悔しても知りません。ムーミンは虚無の目であなたを見つめ返すだけ。気を取り直して、まずはようこそ我が家へとソファや椅子に座っていただき、あたたかいお茶を出してあげてください。話はそれから。どこから来たのか、どのくらい滞在する予定か、何をしたいか、どこにゆきたいか。聞いてみてください。そしてたくさんお話ししましょう。
それぞれのおうちにやって来たムーミンの様子をツイッターで拝見できるのかと思うととても楽しみだったり。
このツイートがきっかけで、日々熱望する書きものの仕事が見つかったらいいなぁなんて思っているのですがきっとなかなかそこまで甘くはなく、しかしこれからもこうやってnoteで文章を書いたり、短歌を作りつづけるのでどうか、その折に読んでいただけるととても嬉しいです。ムーミンのことも、ぽつぽつと、つぶやきたいなと思います。あたらしくフォローして下さったみなさま、これからどうぞよろしくお願いいたします。
誕生日をお祝いしてくださった通りすがりの方、うちにもムーミンいるよ!とリプライをくださった方、なんと素敵な絵を描いてくださった方…!こんなふうにわたしは、どきどきしながらスマホにはりついて、未だにアワアワしております。どうやってお返事したらいいのか分からず、ひとまずはこのような形で、ありがとうございますと伝えさせてください。
ちなみにヘッダーの写真は長旅疲れでまだ眠いムーミンと、その横で朝ドラ「まんぷく」を見る夫です。福ちゃん、萬平さん、よかったネ…!
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