歌人見習いが車の免許を取るまで日記 番外編
午後5時。ねまきのままビスケット食べて牛乳飲んでいて、これは本当に完全におわっている。というかはじまってすらない。みんな朝早くから顔を洗って着替えて電車に乗って目的あるところへ向かって一日をはじめているのに。みんなの一日はとっくにはじまっている。というか充足感とともに終わろうともしている。わたしは昨日のままじゃん。
これでも朝は一応夫とともに起きて、夫のお弁当と朝食を用意、出勤するのを見送ってしかしそれでこの日のわたしの任務は完了した。夫は今夜寮の宿直なので帰ってこない。だからまだねまきなんです。
なんという怠惰、なんという自由。
車の免許を取ってからはや一カ月半、ずっとこんなきままな暮らしをしていたんでした。
何もしなければ何もはじまらないのだぞ、という大変に当たり前なことを、毎日毎日自分に言い聞かせて、しかし何もはじめられないまま、一日は終わっちゃう。教員という仕事に疑問を抱きながらも、けれども毎日、忙しくしていた一年前のほうが断然、よかったな。というか楽だったな。一旦そんな生活がまったくリセットされて、さて新しいステージであなたは。一体何をはじめますか?という問いにぜんぜんこたえられずにいる。『ニューヨークで考え中』(近藤聡乃)という漫画が好きなのだけど、そしたらわたしは『山口で考え中』か。残念だけど、おしゃれじゃないな。
そんなふにゃふにゃな毎日なのだけど、こないだ家の近くの学校の採用試験を受けてきた。
ずっと、一度離れた教職の場に戻るかどうかもんもんとしていたけれど、マ、近いんだし気軽に受けてみようと思ってそれで受けたのだった。絶対に受かりたければ、学校に媚びることも厭わなかっただろうけど、そうではなかったから、ちゃんと学校という制度や教育について、思っていることをこの際正直に話そうと思って、それで面接に臨んだ。
「どんな教師になりたいですか?」
という質問に、わたしは
「学校は本当はとてもしんどいところだよ、そう思うことはおかしいことじゃないよとつねに言い続けられる教員でありたいです」
と言った。面接の先生方はにこにこと聞いていてくれて、ああ、まあこれで落ちても悔いはないなとはっきり思った。とてもすがすがしかった。驕っているかしら。
でもあろうことか、この面接、通ってしまったんである。筆記もあったし、そのほかの面接内容もふくめ総合的に見てということだと思うけど、でも嬉しくもあった。受け入れてもらえるのかもしれないと少し希望が持てたから。
先の面接についての、こんなツイートをしたとき、「正直に言えばいいってもんではない」というような意見を目にしたけれど、わたしは正直でいるよ。ずっと。もしもまた、学校のなかの人に戻ることになっても、そうしたら必ず、変だと思ったことは変だって言う。合わせてあいまいに笑ったりしない。学校のなかの、変な人でいるよ。そう強く思って、しかしまだ選考はつづくので、最終的にはどうなるんだかわからない毎日を過ごしています。
そして運転のほうは。なんと昨日、高速に乗ったんでした。高速道路って最低速度が決まっています。指定がなければ時速50kmで走らなければならない。時速50kmは、とても速い。とーても速いのよ。それが最低なんだから大変なことだ。急に止まろうったって止まれないんだから。しかし乗った。そうなにごとも、はじめてみないとなんともならないんだから。はじめてみるのだ。なにごとも。
運転していて苦手だなあと思ったのが高速の本線に合流するときのソレで、ビュンビュン過ぎてゆく車の流れのなかに身を投じてゆくとき、もうそれはそれは恐ろしくてかなわない。超高速大縄に息する間もなく入らなきゃいけないと言われたらヤですけどそんな感じ。なんとか本線に入って、しかしどんどん過ぎてゆく景色を見る暇もなく、ものすごい勢いの横風にハンドル取られそうになりながら、必死に両手で握って、握りまくって気づいたら左手の小指が伸ばせなくなっていた。
わたしはなんか泣きたかった。こんなところで、こんなことを。想像もつかなかったことをしていることに?少し違う。なんでだろう。まったき今というものに、少しだけついてゆけない感じ。今?今がこれなの?これでいいの?今、わたし高速乗ってる。そうなんだ、そうなのかな。でもこれがわたしの今なんだ。嬉しくも悲しくも寂しくもない、そんなの振り返らなくちゃ分からない、ただただ今なんじゃん。あーおそろし。おそろしや。
左手の小指が曲がらないまま、一時間半の運転を経て、萩に着く。海鮮丼とアジフライを食べて、木戸孝允の旧家を見て、それで帰りました。帰りの運転は夫に任せてしまった。そもそも、となりに夫がいなければ果たせなかったことでした。ひとりじゃまだ無理だ。
そしてnoteをはじめたときに目標にしていた、「自分の運転でスタバにゆく」ことも、ちゃんと達成されました。あれ、ほんとはその話を書くつもりだったんだけどな、おかしいな。
ということで、まだまだ「山口で考え中」です。
写真は、昨日行った萩の海で撮ってもらったものです。パンツを濡らしてまでわたしは海に入ったんでした。夫は入りませんでした。
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