052「みなまで言わない」表現の真髄
「あなたといると月がきれいですね」
言わずと知れたI love you。
「日本人は『私はあなたを愛している』なんて直訳した言葉を使わないよ」と、とある文豪が会話したのがきっかけだとか。
ほんとは、使わないんじゃなくて使えないんですよね。勇気がないから。(わかる)
いずれにしても、日本人は昔から直接的な表現よりも、婉曲的な表現が好きなようです。
例えば、昭和歌謡では直接的ではない表現が多く使われています。
「なぜ知り合った日から半年過ぎてもあなたって手も握らない」
赤いスイートピー より
「お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある かなりきびしい話もするが俺の本音を聴いておけ」
関白宣言 より
同じI love youでも、表現の幅が無限にあります。
こんなの、楽しくて仕方なくないですか。
婉曲的な表現の良いところは、ストレートじゃないところです。
たった今、意味のない一文を書いてしまったので解説していきます。
婉曲的な表現は、コミュニケーションの途中で、「相手に無理やり想像させる」スパイス効果があります。
例えば、
いまあなたが自分の意中の人に、
「あなたといると月がきれいですね」と言われたとしましょう。
すると「あなた」はこう思います。
「(えっ、月はたしかにきれいだけど、でもいま『あなたといると』って言ってた…?それって私がいる時といない時で月の綺麗さが違うってこと…?でもそんなはずないよね。。だって誰といるかで月の綺麗さが変わるなんてありえないもの…。
どうして、この人は私がいるのといないのとで月の綺麗さが変わるんだろう。。。。。。。あ、、、、、、、もしかして、、、この人にとっては、同じ月でも、誰と見るかによって綺麗さが変わるってことなのかな。
………ってちょっとまってそれってそれってもしかして、、あたしのこと好きってことーーーーーっ!?!!?!??!?)」
おわかりいただけましたでしょうか。謎のラブコメ感。
婉曲的な表現は、相手の頭の中を支配するのです。
言葉を受け取った方は、自分で想像を膨らました結果、自分の力で結論にたどり着きます。(完璧な誘導尋問ですが)
そして、自分なりに結論が出た瞬間、はっと気づいてとなりの想い人と目を合わせ、これからのロマンチックな展開を想像するのです。
直接は伝えない。けど、明らかにそうと思わしきことを伝える。
どうしましょう。さっきから胸の鼓動が鳴りやみません。
しかも。
もしかしたらこの想像は全部、自分の儚いカン違いかもしれないのです。
だって、当の本人の口から本当の気持ちを直接聞いてはいないのですから。
でもおそらく、私のことを好きって伝えられています。
どうしよう。なんだか急に不安になってきちゃった。
そしてこう思うのです。
「(はっきり、言ってほしいな…)」
たった一言「あなたといると月が綺麗ですね」だけで、ロマンチックな二人の間が淡い恋心でいっぱいになりました。
今、二人は頭の中で、同じ気持ちを共有しています。
もーーーたまんないですね!!!
ところで、みなまで言わない美しさは、「共感」を重視する日本文化のあちこちに隠れています。
ぱっと思いついたものをいくつか書いてみます。
「思わせぶり」のスパイス、皆さんも探してみてください!
「越後屋おぬしもわるよのう。」
「終電なくなっちゃった」
「○○くんって、モテそうだよね」
「こんなこと言えるの、○○くんだけだよ」