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運命よりも恐ろしいのは血に刻まれた契約

未来の私が
過去の私を

殺しに来る

私が私に 生まれ変わるたびに
私が私に 必ず殺される

前は
17歳の私は、19歳の私に殺された

その前には
41歳の私は、43歳の私に殺された

前の前の前では
11歳の私は、13歳の私に殺された

そして今
29歳の私は、31歳の私に殺された

生まれ変わる前の私の記憶は
死を受け入れる間際まで
思い出すことはない

だから毎回
すでに手遅れ

そして私は
必ず『殺されるわたし』なのだ

・・・

何故、わたしは『殺される』のか
何故、わたしはいつも『殺される』側なのか

わたしが 殺される年齢になっても
わたしを 探して殺そうなど思わない
殺す理由がない
そもそも不可能だ
どうやったら『過去のわたし』に会いに行けるのか
そんな手段
わたしは 知らない

だから
わたしは 確かに『殺しにきた私』ではない

『殺しにきた私』は
どうしてわたしを 殺すのだろう

何故、生まれ変わるたびにこんな事を繰り返すのか

そして何故に
『わたしは死ななければならない』のだろうか

・・・

前は
それは施設の台所にあった数本の包丁だった
振り返った瞬間
腹を…そして首、胸…と刺され 死んだ

その前には
『殺しにきた私』に連れられた男二人から「お前が魔女か」と言われ、捕まり
絞首刑にされた
落ちる瞬間、広場に集まる群衆の中にいる『殺しにきた私』を見た

前の前の前では
深い森へと誘われ、連れて行かれたそこは
子供のわたしでは這い上がれないだろう深さの 断層の亀裂に落とされた
すぐには死ねなかった
子供で軽かったこともあるだろう
それでも全身打撲、折れた肋が肺に刺さり
口いっぱいに溢れた血で、先に窒息した
わたしが死ぬまで、『殺しにきた私』が見ていた

そして今
先の長い、火花を散らす銃で胸を撃たれ絶命した

わたしは確実に『死ななければならない』のだろう
必ず『殺しにきた私』が『わたし』の死を確認している

・・・

いつかの前世で
『殺しにきた私』が口にした言葉が気になる

私の意識がまだある時
『殺しにきた私』が聞いてきた
「あなたはまだ幼いけど、赤ちゃん産んだでしょ? 女の子は、何人いる?」

わたしは子供をおいて逝ってしまう
悲しみが胸に押し寄せ

そうわたしは、もう知っている
『今回』も『わたし』は死ぬのだ

悲しかった

わたしが死ぬことも、それ以上に赤ちゃん、子供達との別れが

つらい

わたしは答える
「双子…男の子と、女の子…2人…」

『殺しにきた私』が言う
「そうか…毎回たくさん産んでるのに…今回は2人…
 でも11歳でよく……大変だったね…頑張ったね…そうか…ごめんね…
 でも『子供を産める』あなたが羨ましい…」

わたしは言う
「なんで…どうしてよ 何回も 生まれ変わるたび…殺されて なんでなのお…」

『殺しにきた私』が答える
「あなたは悪くない でも、私も悪くない」

もう何も聞こえない


『子供を産めない』わたしがいるの?
『子供が授からない』わたしがいるの?
『未来の私』には子供がいない?できないの?

「ごめんね」って なに?
「あなたは悪くない」ってなに?
「私も悪くない」どういうこと?

・・・

『殺されたわたし』が血溜まりに沈んでいる
生き絶えた『殺されたわたし』の顔は
不思議そうに、ぼうっとしてる

一瞬で 即死だったと思う

苦しみに歪む顔でなくて 良かった

いくつか前の記憶を引っ張り出し
手段がなかったとはいえ『あれ』は残酷だった
だから『今回』銃で数発で殺せたのは
良かった かもしれない

そんなふうに、私を納得させた

もう一度『殺されたわたし』の顔を見た
そっと呟く

「もう大丈夫 あなたの子は『殺しにきた私』が大事に 育てるから」

・・・・

『殺しにきた私』は『殺されたわたし』の産んだ女児を抱え
『迎え』を待つ

『迎え』が来るまで、時間がある

いくつか前の記憶を再び引っ張り出し

『殺されたわたし』はわかっていなかった
確かに『殺されたわたし』が『知る』ことは難しいだろう
致命傷を受け、死を意識したところから
一気に記憶が溢れ 思い出しても

死に至るまでの時間は 短い
考える事ができる時間も 短い
私が全てを伝える時間は 無い

私が『未来の私』であり、血溜まりに沈むわたしは『過去のわたし』
それは正しい

けれども

あの記憶は『生まれ変わる前の記憶』ではない

あれは、私達が受け継いだ『血』の記憶
『先祖の、母達の記憶』だから
『殺されたわたし』が前世の記憶だと勘違いした記憶は
私(わたし)の『母親の記憶』
そして過去の母から母、そのまた母と…続く記憶だ

私(わたし)が『記憶の女達』に似てるのは当然だ
私(わたし)の『母』、また『母の母』『母の母の母…』なのだから


私(わたし)たちの血筋は
母系で繋がり、継いでいる

その『血』に
この運命の原因となった
『祝福』または『呪い』が刻まれている

・・・


『殺しにきた私』の未来が存在しているということは
『殺されないわたし』の未来があるということ

『殺されるわたし』の先祖の人々は 子供をたくさん産めるし、実際に産んでいる

だけど『殺されるわたし』の子供達は
必ず 絶対に 一人残らず 『2歳』になる前に死ぬ

『次の世代』が生まれても
この『血』はそこで、途切れてしまうのだ

『殺されるわたし』の子供達は
『時代に血を継なぐ』事ができない『運命』だから

では
どうすれば良いのか?

『殺されたわたし』の運命は『子供を産むわたし』そして『子供が必ず2歳で死ぬ』世界であり
『殺しにきた私』の運命は『子供を産めない私』そして『子供が必ず2歳で死ぬ縛り』から『解放』された世界だから


『殺しにきた私』の世界に
『殺されたわたし』の世界の『子供』を連れてくれば良い

運命は変えられるのだ

けれど
運命は変える事ができても
受け継いだ『血』は 代えることはできない


『殺しにきた私』の世界の歪みが 戻る時が必ず 来る

そのトリガーが『殺しにきた私』の死だ

『運命』が『世界』は、歪みが補正され、もとの形へと戻る

そう

『殺されたわたし』が産んで
『殺しにきた私』が育てた『子供』が
『殺されるわたし』の運命の『子供』になる

許せない

どうして! 
私(わたし)の子が 『殺されるわたし』にならなければいけないのか!

この『血』の『祝福』『呪い』が憎くて仕方ない

・・・

『殺されたわたし』は
この事を知らない

この先にある
さらなる嘆きと絶望を

『殺されたわたし』の不幸は
『殺しにきた私』に殺されること だけだ

全てを知る ということは
不幸だ

そして 絶望

・・・

腕の中で女児が
この先の未来を知っているかのように、じっとして
大人しくおさまっている

まだ産まれて二ヶ月ほどみたい

『子供』は一人しか連れていけない

11歳の『殺されたわたし』が『子供』産む状況
何があったのだろう
13歳の『殺しにきた私』も若すぎて、『子供』が『子供』を育てることになる
不安しかない
怖い
それでも
絶対に手放さない
『殺しにきた私』が育てる、育ててみせる
『殺されたわたし』のために
これが贖罪

大丈夫『運命』だから
『子供』は丈夫に育って、『子供』を産むのだ 必ず

『殺しにきた私』も頑張る
『運命』が決めた『死ぬ』確率の高い
17歳・29歳・41歳・59歳・71歳…
この年齢を
越えてみせるよ

誰よりも長く生きてみせる
『私』が長生きするほど『子供が殺される』日が遠のくのだから

・・・

『迎え』がきた
『殺しにきた私』は『彼女』待っていた
『彼女』なしで、世界は超えられない

『彼女』は『始まりの女』だ

こんな事ができるということは
『始まりの女』はすでに『人』ではない

血を廻り、枝分かれた運命を辿って
『子供を産めない私』である『殺しにきた私』を見つけた

そして
先祖の記憶と
『始まりの日』の記憶を
『殺しにきた私』に伝えた

・・・

『始まりの女』に出会った日は
喜びと同時に 絶望した日であった

『子供を産めない私』が『子供』を手に入れる事ができる育てられる
ただし
『子供を産んだ私』を殺して『子供』を手に入れなければならないのだと

恐ろしかった

それでも『子供を産めない私』にも『子供』への執着と 強い衝動があった
これも『血』の『祝福』と『呪い』のせいだと

この『血』が続く限り
この『血』を受け継いでく限り
この『運命』は続くのだと…

・・・

遠い未来、先はわからない

でも『運命』は歪められる

だったらこの先に

この運命が、どんどん枝分かれ、増え、始まりから遠く、遥か遠くのその先で
『殺しにきた私』と『殺されたわたし』がいて
『殺しにいかない私』と『殺されないわたし』が
子供を産み、育て、次世代へと継いでいく
そんな一生を終える未来が
あるかもしれない


・・・

始まりは

いつもの私
いつもの時間
いつもの道

裸足で歩く
大きな甕を頭で支え

水場へと

変わりない日々と日常


それはあまりにも
突然だった

その日 私に
『祝福』が
落ちてきた

おそらく これは
『気まぐれ』だ

偶然にも、たまたま、私がそこにいただけで

受けた『祝福』

その瞬間から私は『人』でなくなった

神がなんなのか、神なのかさえわからず
何がこれから起こるのかさえ わからず

ただ、これが『血の誓約』らしいことはわかった

途方にくれた私は そこで
これからの私を 未来視したのだ
 
そして知る

私の子供達、その子供達の未来が
『祝福』の代償、犠牲となったことを

そして理解する

この運命の仕組みと原理を

そこから
永遠ともいえる
運命を辿る旅路が
始まったのだ

『始まりの私』が生まれた日

いつもの私
いつもの時間
いつもの道

裸足で歩く
大きな甕を頭で支え

水場へと

変わりない日々と日常

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