Connecting the dots 〜Re: ゼロから始めるセルフブランディング術〜
はじめに
この記事は、「知財系 Advent Calendar 2022」の記事です。
また、この記事は究極の自分語りです。他人の自分語りが嫌いな人はブラウザを閉じるか戻るボタンを押して回れ右しましょう。さらに、この記事は文章のアクが強めです。アクが強い文章が苦手な方は同じくブラウザを閉じるか戻るボタンを押しましょう。
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(さあ、注意書きはしましたよ。それでも読みたい方は下にスクロールしてください)
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Connecting the dots
you can’t connect the dots looking forward;
you can only connect them looking backwards.
So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.
You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever.
This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.
(Steven Paul Jobs、スタンフォード大学の卒業式スピーチにて)
0.その言葉は、まるで呪詛のように頭の中に残る
それはまだコロナ禍前なので2019年くらいの話だったと思う。秋葉原でピクシーダストテクノロジーズの展示室を見学させていただいた後、そこらにある居酒屋で木本さんとサシで飲んでいた。彼と私とは昔、同じ大手特許事務所で勤務していて部署は別だったが一緒に仕事をする機会があった。ふたりとも東日本大震災後の2012〜2013年にその事務所を退職し、それぞれ別の道を歩んでいたが久しぶりの再開で会話に花を咲かせていた。その中で、おそらく彼は何気なく言ったと思うが、「加島さんって業界で全然知られていないですよね〜」という言葉は、その後しばらく頭の中にこびりつくように残ったのであった。確かに、彼は今をときめく落合陽一さん創業のスタートアップで「最初の社員」として、そして知財部長(当時)として様々なメディアに取り上げられて業界の中で非常に有名な存在となっており、一方で私は淡々と事務所の業務をこなす日々であり、セルフブランディングという観点からは天と地の差があった。今回のnoteは、そこから現状を何とかしなければならないという悪戦苦闘の日々を語るものである。
1.初参加の勉強会で、いきなり次回の講師を依頼される
これもコロナ禍前の話であったが、弁理士の高橋政治先生が2ヶ月に1回、弁理士会館にて弁理士自主研修会という勉強会を夜に行っていた。この研修会については弁理士会自主研修に登録されていることもあり、毎回弁理士会からの案内メールが届いていた。ただ、出不精な身として当初はまあ自分とは関係ないやと遠い世界の話であった。
が、2018年末に開催されたソナーレの右田先生講師による「人工知能に負けない明細書について語り合う」というセミナータイトルが非常に興味深く、その当時AIが囲碁や将棋のプロを打ち負かしていたというのが自分の中でも衝撃的だったので、タイトルに惹かれて勇気を絞って参加してみることにした。誰も知り合いがいない、まさに完全アウェーの環境である。
しかし、勉強会自体については初参加かつ引っ込み思案の私であっても皆様暖かく迎え入れてくれ、ディスカッションも盛り上がった記憶がある。当時はたしかアメリカで特許明細書をAIが作成するというソフトが出はじめたというのが話題になっており、弁理士の特許明細書作成業務がAIに置き換わるかについて喧々諤々と議論した。
年末ということもあり勉強会の後に忘年会があったが、そのときにたまたま隣に座った主催者の高橋先生(初対面)から、なんと次回の勉強会の講師の依頼があったのである。初めて参加して、まだ右も左も分からぬ私めに、なんと大胆な行為、である。しかし、講演やセミナーの依頼があったときは全部引き受けるというモットーのもと、戸惑いながらも引き受けたのであった。
セミナーのテーマとして、当時はいきなりステーキのシステム特許の知財高裁判決が話題になっていたので、それを取り上げようとした。せっかくなのでいきなりステーキを運営するペッパーフードサービス社に取材したいと問い合わせたら、なんと一瀬社長自らが対応してくれるとのこと。そのあたりのインタビュー内容も踏まえた次の回の自分が講師を務めたセミナーは、まあまあウケが良かったと思う。セミナー後に何人かの方と名刺交換をしたが、その中の一人に大手電機メーカーのMr. Xがいた。
2.経済産業調査会の月刊誌で無理やり連載を開始する
弁理士自主研修会に初めて参加した数ヶ月前だったと思うが、当時顧問をしていた地方の中小企業の社長さんと飲んでいたときに、「大学と産学連携で新製品の開発をやっているんだけど、文化が違い過ぎて大変なんだよね」という話を聞き、当時は産学連携で知財面であまり問題がクローズアップされていなかったので「これだ!」と閃く。このテーマを深堀りしたら面白いんじゃないか、大学関係者と企業の担当者にそれぞれインタビューを行って現場のホンネを記事にしたら興味を持ってもらえるんじゃないかと考え、せっかくならそれをどこかで発表したいと思った。ブログでも良かったのだが、ダメ元でいきなり「知財ぷりずむ」という月刊誌を発行している経済産業調査会の出版部に電話をかけてみたら、今までにない面白そうなテーマということで編集会議にかけてくれるとのこと。その後、編集会議でも無事に認められ、当時全くの無名であったが全10回にわたって経済産業調査会で連載記事を書かせていただくことになった。その際にインタビューさせていただいた山口大学の佐田教授、大王製紙(当時)の萬さん(現・よろず知財戦略コンサルティング)、大工大の杉浦教授にはその後の知財実務オンラインでもお世話になることになる。
連載が終わったあと、月刊誌の担当者と飲んでいたときに、「加島さん、経済産業調査会のセミナーで講師をやらない?テーマは好きなものでいいから」というお誘いをいただき、秒速でお引き受けする。経済産業調査会といえば錚々たる一流の実務家が丸一日の有料を行っており、そこに名を連ねるのは非常に名誉なことであった。
3.そして始まった3人の自主勉強会
2019年に入った頃かと思うが、当時はじめたばかりのTwitterにて、特許業務法人IPX(現・弁理士法人IPX)の奥村さんと知り合い、DMでやり取りを行ってIPXさんの事務所に表敬訪問させていただくことになる(当時自分が企画していた特許の鉄人というイベントに奥村さんに真っ先に手を挙げていたこともあった)。当時外苑前にあったIPXさんは、まだ創業1年ばかりの時期であったが、非常に勢いがあった。そして、IPXの事務所に奥村さんを訪問させていただいたときに一緒にお話させていただいたのが押谷さんである(このときが初対面)。当日、3人で飲みに行き、お二方と意気投合した覚えがある。
そのあと、何ヶ月かして、高橋先生の弁理士自主研修会で名刺交換したMr. Xから連絡があり、改正意匠法について勉強会をしたいとのお誘いがあった。話を聞くとMr. Xは改正意匠法の導入に深く関わっており、特に画像意匠の改正についてかなり前の時期から様々なロビイング活動を行っていたとのこと。Mr. Xからは、もう一人メンバーを入れたいとの話があり、誰かと聞けば押谷さんであった。Mr. Xは押谷さんとも二人で勉強会を重ねてきたらしい。このような経緯で3人による意匠の自主勉強会が始まった。
4.襲いかかるコロナ禍と、始まった知財実務オンライン
Mr. X、押谷さんと3人で始めた改正意匠法に関する自主勉強会も回を重ね、施行も間近になった2020年、それをどこかで発表したいねという話になった。せっかくなのでちゃんとしたセミナー会社で講義を行おうということになり、当時既にセミナー講師実績があった経済産業調査会で施行日直前の3月に緊急セミナーを押谷さんと二人でやらせていただくことに(Mr. Xは企業にお務めということもあり、副業が認められず外に名前を出すことができないので表には出てこないフィクサー的な役割となった)。押谷さんと私は寝る間も惜しんで5時間分の資料を作成し、そのボリュームはスライド300枚を超えた。当時は武漢で発生した新型コロナが日本に入るかどうかの瀬戸際の時期であり、セミナー担当者からは「何があっても必ずリアル開催します」という言葉を何度もいただいていた。しかし、2月末に公立小中学校が政府の指令により閉校となり、世間は急激に自粛モードに傾いていく。そして、セミナー開催3日前に、担当者からは無念の「無期限延期」の通告があった。
改正法の解説のようなセミナーは、無期限延期は実質的な死を意味する。それならば供養せねばと思い、経済産業調査会の許可を得てYouTubeで無料で毎週少しずつコンテンツを提供することに。毎週木曜日の夜に限定公開でライブ配信し、アンケートに答えていただいた方に翌週の講義のリンクを連絡するという参加者にとってハードルの高い方法であったが、それでも30名くらいの方に5週にわたってご視聴いただいた。
そして、せっかくこれだけの人数に視聴していただいたのにここで終わるのは勿体ないということで始まったのが知財実務オンラインである。2022年末時点で124回を数える長寿番組になったが、始まった当初は当然ながらここまで続くとは夢にも思っていなかった。
5.人生初の書籍出版に
経済産業調査会のセミナーで用意したスライド300枚を超えるコンテンツであるが、知財実務オンラインが軌道に乗り始めた頃、Mr. X、押谷さん、私の間で行われた話し合いにて、YouTubeの無料オンラインセミナーだけで供養させるのも勿体ないということになり、せっかくなら書籍での出版を目指すことになった。まずはセミナーを企画していただいた経済産業調査会の担当者に問い合わせたところ、先方もセミナーを直前に無期限延期とした負い目があるのか、すぐに書籍出版okの連絡をいただいた(当時、意匠法改正についての解説本がなかったという事情もあったが)。
このような法改正解説についての書籍は鮮度が命である。他の出版社から同様の書籍が先に出版されたら大幅に価値が落ちる。一刻も早く原稿を書き上げる必要があったが、ちょうどその頃は政府から緊急事態宣言が出され、多くの企業が特許出願の様子見を行ったこともあり、ラッキーなことに原稿執筆時には時間の余裕があった。そこでMr. Xの監修のもと、押谷さんと2人で爆速で書き上げたのが「令和元年改正意匠法の解説および新たに保護される意匠の実践的活用テクニックの紹介」である。執筆方針として、単なる法改正の解説だと誰でも書けるものになってしまうので、Mr. Xの企業知財経験を踏まえた「実践的活用テクニック」に重きを置いた。出版社からは原稿料を出すか、原稿料の代わりに書籍の現物を数十冊もらうかの選択肢を提示されたが、原稿料ではなく書籍の現物をいただきそのうち数冊は知財実務オンラインのプレゼント企画とした。
このような経緯で人生初の共著による商業出版を経験したが、今でも自分の書籍を本屋で見かけると不思議な気分になる。
なお、書籍出版の効果として、直接お仕事の依頼をいただくことはなかったが、日本弁理士会のセミナーを含む様々なセミナー講演や原稿執筆の依頼があった。
6.Twitterからメジャー媒体に記事投稿へ
2018年5月にTwitterを始めて以来、知財実務オンラインの告知や知財大喜利等、適切な距離感でTwitterを嗜んでいる。情報商材系にあるような意識高い系のツイートは嫌いなので基本的には下らないことしかつぶやいていないが、それでもおかげさまでフォロワー数は緩やかではあるが右肩上がりに増えている(カクっと段差が05/10にあるのはTwilogのバグだと思われる)。
このような脱力系のTwitter運用であるが、それでもメジャー媒体につながることが何度かあったので紹介したい。
まずは、コンビニの書籍棚にある週刊エコノミスト誌でたまたま「稼げる特許・商標・意匠」という特集を見かけ、購入して読んでみたら内容が良かったので上記のように呟いたら、半年後くらいに週刊エコノミスト誌の編集者の方からDMがあり、知財業界の現状について直接会ってお話させていただく機会があった。その後、その編集者からは何度か原稿執筆の依頼をいただき、週刊エコノミスト誌で記事を執筆させていただいた。
週刊エコノミスト2019年5月14日号「いきなり!ステーキ訴訟で”ビジネスモデル特許”に脚光」
週刊エコノミスト2020年3月24日号「意匠法 クラウドの画面デザイン、建物内装・外装も保護対象に」
週刊エコノミスト2021年11月2日号「日鉄のトヨタ提訴の狙い 電動車向け「電磁鋼板」を宝山鋼鉄から奪い返す」
また、ちょうど昨年の秋頃、スタートアップの経営者の方と会ったときに知財をテコに資金調達をしているケースが身の回りに増えているという話をしていたのでそれをツイートしたら、なんと日経新聞編集者の渋谷記者よりコメントをいただき、スタートアップの知財周りの現状について取材を受けることになった。
事業展開に知財を活用しているスタートアップをいくつか渋谷氏に紹介したところ、日経新聞のオンライン記事で「高度な知財活用、挑む新興 トップ主導で大企業をリード」として取り上げられ、私も知財専門家としてコメントさせていただいた。日経新聞に専門家としてコメントが載るのはこれまた名誉なことである。
他にもTwitter経由で記事寄稿やセミナー講演のご依頼を頂く等、基本的にしょうもないことしか呟いていないようなTwitterでもメジャー媒体からお声がかかるというのは、昔にはない近年特有の傾向かもしれない。
7.知財実務オンラインのバーター取引で様々な登壇機会が
知財実務オンラインは基本的に知財業界のプラットフォームになることを目標として活動しているが、番組にご出演いただいた方が独自のプラットフォームをお持ちの場合もある。そのようなときは、相互のプラットフォームに出演するというバーター取引が成立する。例えば、弁理士兼タレントの永沼よう子さんに知財実務オンラインにご出演いただいたときには、永沼さんがパーソナリティをやっているFMラジオ番組に押谷さんと2週にわたって出演させていただいた。元々は1週の予定であったが、話が盛り上がりすぎて60分の枠では収まらずに前後編に分けたという経緯があるが、そのときのBGMのセレクションは大きな反響をいただいた。個人的には東京五輪の開幕式でも流れたクロノ・トリガーの「カエルのテーマ」を入れることができたのはヒットであった。
また、経済産業調査会の連載記事でインタビューさせていただいた東工大の杉浦教授には知財実務オンラインも定期的に視聴いただき実名でコメント欄にもメッセージを頂いていたが、ゲスト出演の依頼をしたときに知財学会の企画へのパネリスト登壇をお願いされた。知財学会は今まで参加したことがなく自分とは縁のない世界かと思っていたが、凄いメンバーの中でパネリストとして登壇させていただいたのは貴重な経験であった。
同じくパネリストとして登壇された株式会社ダン計画研究所の宮尾さんは、その後大阪出張の際に表敬訪問させていただき、日本のこれからのあり方について意気投合したのでこちらについても将来色々面白そうな企画をコラボして打ち出せそうである。
8.セルフブランディングは囲碁の布石のように
囲碁というゲームは奥行きが深い。2名のプレーヤーが交互に黒と白の石を盤面に置いていき、自軍の石で囲う陣地の面積の大きいプレーヤーが勝ちであるが、序盤の布石のパターンは天文学的数字であると言われている。序盤に置いた石が終盤になって自軍の陣地構築に大きな役割を果たすこともあるし、逆に序盤の石が全く役に立たず、むしろ自軍の陣地の面積を減らしてしまうこともある。しかし、終盤に役に立つかどうかは分からないが、石は置かなければ活用することができない。
セルフブランディングもこれに似たところがあるように思う。将来のことを考えて色々布石をし、今まで述べたケースは序盤の石が後々になって役に立った事例であるが、序盤に置いた石が現時点においてブランディング面で全く役に立たなかったことも多々あった。しかし、それでも石を置き続けることが大事であり、そしてその石が貢献するのは将来どの時点になるかも分からないが、スティーブ・ジョブスがいみじくもConnecting the dotsで述べたように10年後、20年後に点と点が結びつくかもしれない。杉浦教授の例など、まさかここで過去のこの繋がりが役に立つとは当時は夢にも思っていなかったものである。勿論、ここには書いていないが、来年以降に向けて様々な種まきは現在進行系でやっている。
以上、自分の拙い経験から仰々しくもセルフブランディングについて語らせていただいたが、上記の考察が皆様の「個の立て方」に少しでもお役に立てれば幸いである。
それでは、聖なる夜にメリークリスマス! (2022/12/24投稿)