GAFAMの米国登録クレームのドラフティング分析
本記事は、パテントサロン主催の「知財系アドベントカレンダー2020」の22日目のエントリーになります。
ひろた:知財・デザイン・ソーシャル・登攀・ジオさんからバトンをつないでいただきました。ひろたさんの記事が素晴らしすぎて、その後に書かなきゃいけないのがつらいです(泣
1.はじめに
本記事は、いわゆるGAFAMといわれる世界を席巻するアメリカIT企業5社(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の米国登録クレームのドラフティングを分析したものであります。2020年5月には「GAFAM」5社の株式時価総額の合計が東証1部約2170社を上回るなど、コロナ禍の状況にあっても勢いは止まりません。
GAFAMのクレームを分析しようとしたけっかけは、米国特許出願におけるクレームドラフティングについて日本企業はまずは装置クレームを請求項1に入れて方法クレームの独立項は後の方で立てることが多いのに対し、米国企業は請求項1にいきなり方法クレームを立てるケースが多くみられるのに気づき、それならばアメリカIT企業を代表するGAFAMはどうなのかと疑問に思ったことです。
今回GAFAMの米国登録クレームを分析するにあたり、全件分析したのでは時間がいくらあっても足りないので、各社それぞれ最新の50件を抽出して調査を行いました。
2.請求項1に装置クレームを立てるか、方法クレームを立てるか
請求項1にどのカテゴリーのクレームを立てるかについて分析するにあたり、以下のような仮説を立てました。すなわち、米国特許出願では日本と違ってプログラム自体のクレームは認められておらず、プログラムクレームの内容は本質的には方法クレームで規定されるものに大差はないため、ITの事業分野が高いほど方法クレームの割合が高くなるのではないかと考えました。GAFAMといっても各社で事業内容は大きく異なり、Apple社はiPhoneやMacが事業の中心であるようにハードウエアが主体であるのに対し、Facebook社やMicrosoft社の事業内容はソフトウエアが中心となります。また、Amazon社はECコマース事業が中心ですが、最近は物流等のハード面の整備も進めています。このように、各社の米国登録クレームにおける方法クレームの割合を調べるにあたり、事業内容(具体的には各事業のシェア)も参照しました。
GAFAM各社の事業シェアを調べるにあたり、あおけん / Doddle K.K. CEOさんのnote記事「GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の事業規模/地域シェアを数字でチェックする」を参考にさせていただきました。
2.1 Google(Alphabet)
サービス別売上シェア:
1.広告事業 83%(ネットワークメンバー分含む)
2.クラウド事業 5%
3.その他 10%
請求項1の内容:
1.method 56%
2.system 18%
3.apparatus 10%
4.device 8%
5.その他 8%(記録媒体クレームは無し)
<分析>
Google(Alphabet)は広告事業が中心でありソフトウエア系の比重が大きいですが、請求項1が方法クレームである登録例が56%と半数を超えました。
2.2 Apple
サービス別売上シェア:
1.iPhone事業 54%
2.サービス事業 17%(アップルペイ、ミュージック、TV、ケア等)
3.Mac事業 9%
4.iPad事業 8%
5.その他 9%(エアポッド含)
請求項1の内容:
1.device 28%
2.method 22%
3.apparatus 20%
4.computer-readable media, medium 10%
5.その他 20%
<分析>
AppleはiPhone事業やMac事業等のハードウエア事業が中心であるため、請求項1がdeviceやapparatus等の装置クレームである割合が多く、請求項1が方法クレームである登録例は22%に過ぎませんでした。また、請求項1が記録媒体クレームである登録例が10%もあるのが注目点です。
2.3 Facebook
サービス別売上シェア:
1.広告事業 98%
請求項1の内容:
1.method 48%
2.devise 14%
3.system 12%
4.computer-readable medium 2%
5.その他 24%
<分析>
FacebookもGoogle(Alphabet)と同様、広告事業が中心でありソフトウエア系の比重が大きく、請求項1が方法クレームである登録例が48%と半数近くになりました。
2.4 Amazon
サービス別売上シェア:
1.ネット通販事業 50%
2.モール事業 19%
3.AWS事業 12%
4.実店舗事業 6%
5.サブスク型サービス事業 6%(アマゾンプライム系)
6.その他 5%
請求項1の内容:
1.method 54%
2.system 14%
3.device 8%
4.computer-readable medium 2%
5.その他 22%
<分析>
Amazonはネット通販事業が半数を占め、物流に関する出願も多くみられますが、請求項1が方法クレームである登録例が54%と半数を超えました。
2.5 Microsoft
サービス別売上シェア:
1.アジュール事業 25%
2.オフィス事業 25%
3.ウィンドウズ事業 16%
4.ゲーム事業 9%
5.検索広告 6%
6.LinkedIn 5%
請求項1の内容:
1.method 46%
2.system 22%
2.device 22%
4.storage device 2%
5.その他 8%
<分析>
MicrosoftはOfficeに代表されるソフトウエア事業が中心になりますが、請求項1が方法クレームである登録例も46%と半数近くになりました。
2.6 請求項1のカテゴリーについてのまとめ
iPhoneやMac等のハードウエア製品販売が中心であるAppleは請求項1のカテゴリーが方法クレームである割合が22%と低かったものの、ITが事業の中心である他の4社は請求項1のカテゴリーが方法クレームである割合が50%前後となりました。
米国では審査官が審査を行う際に明細書の中身までは読まずにクレームだけを読んで判断することが多く、まずは審査官に発明を把握してもらうにあたり比較的理解が容易な方法クレームを請求項1に置くことで、中間処理対応をスムーズに進めることができるという側面があると思われます。
3.装置クレーム、方法クレーム、記録媒体クレームをそれぞれどれくらい立てているか
次に、請求項1以外にもクレーム全体で各カテゴリーのクレームをいくつ立てているかについて調査しました。
また、独立クレームにおいて方法クレームの内容が装置クレームや記録媒体クレームの内容と一致しているか否かを調べました。方法クレームの内容が装置クレームや記録媒体クレームの両方に一致しているものは◎、方法クレームの内容が装置クレームおよび記録媒体クレームのうち一方に一致しているものは○、方法クレームの内容が装置クレームや記録媒体クレームと一致していないものは×としました。
3.1 Google
・多くの登録例で独立クレームは3つ、クレーム数が20またはそれ以下でした。クレーム数が20を超えたのは22%でした。
・あるカテゴリーのクレームが別のカテゴリーのクレームに従属する例はありませんでした。
・方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの一致度について、◎が19個、○が10個、×が12個と、同一内容の技術を方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの全てで規定するケースが数多くみられました。
3.2 Apple
・多くの登録例で独立クレームは3つ、クレーム数が20またはそれ以下でした。クレーム数が20を超えたのは28%でした。
・あるカテゴリーのクレームが別のカテゴリーのクレームに従属する例はありませんでした。
・方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの一致度について、◎が9個、○が7個、×が12個でした。
3.3 Facebook
・多くの登録例で独立クレームは3つ、クレーム数が20またはそれ以下でした。クレーム数が20を超えたのは4%でした。
・あるカテゴリーのクレームが別のカテゴリーのクレームに従属する例はありませんでした。
・方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの一致度について、◎が13個、○が11個、×が16個でした。
3.4 Amazon
・多くの登録例で独立クレームは3つ、クレーム数が20またはそれ以下でした。クレーム数が20を超えたのは12%でした。
・あるカテゴリーのクレームが別のカテゴリーのクレームに従属する例はありませんでした。
・方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの一致度について、◎が3個、○が13個、×が29個と、他社と比較して方法クレームの内容が装置クレームや記録媒体クレームと一致していないケースが多く見られました。
・装置カテゴリーにおいて、"computer program product"のクレームが2件ありました。
3.5 Microsoft
・多くの登録例で独立クレームは3つ、全件でクレーム数が20またはそれ以下でした。クレーム数が20ちょうどの登録例が半数を超えました
・あるカテゴリーのクレームが別のカテゴリーのクレームに従属する例が1件ありました。
・方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの一致度について、◎が13個、○が21個、×が13個でした。
3.6 クレームの立て方の分析
GAFAM5社のクレームの立て方を分析すると、以下のようなパターン分けをすることができました。
(1)方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームをほぼ同数パターン
方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームをそれぞれ7個ずつ(計21個)、あるいは2つのカテゴリーで7個、1つのカテゴリーで6個(計20個)というパターンの案件が数多く見られました。このパターンでは、方法クレームの内容が装置クレームや記録媒体クレームの両方に一致しているケースが数多く見られました。
(2)方法クレームおよび装置クレームがいくつかあり、記録媒体クレームの数が1つのパターン
方法クレームおよび装置クレームの数が数個~十数個であり、記録媒体クレームの数が1つのパターンも多く見られました。この場合、方法クレームおよび装置クレームの数が同数である場合も多くありました。また、装置クレームと方法クレームの内容が一致しないものの、記録媒体クレームの内容が方法クレームの内容と一致するケースが多く見られました。
(3)記録媒体クレームがなくて、方法クレームおよび装置クレームのみのパターン
この場合では、方法クレームおよび装置クレームのうち一方の独立請求項の数を2つにして、合計3つの独立請求項を規定するパターンが多く見られました。そして、同じカテゴリーの2つの独立請求項のうち一方の請求項の内容が別のカテゴリーの独立請求項の内容と一致するケースが多くありました。
4.方法クレームの独立請求項の構成要素数および文字数の分析
GAFAM各社の方法クレームの独立請求項の構成要素数および文字数を分析しました。構成要素は、例えばA method comprising: ~ing; ~ing; ~ing.の動詞の数となります。一般的には、構成要素数や文字数が少ない方が権利範囲が広くなると考えられます。
GAFAM5社を比較したところ、Amazonは構成要素数、文字数ともに他の会社と比較して大きな値になったものの、Amazonを除く4社は方法クレームの独立請求項の構成要素数が概ね5前後、文字数が概ね200文字前後となりました。
米国特許出願で方法クレームを規定する場合は、構成要素数を5以内、文字数を200文字以内に抑えることが一つの目安になると考えられます。
5.まとめ
アメリカを代表するGAFAMの米国特許出願のクレームドラフティング方法を分析することにより、日本企業がソフトウエア分野について米国特許出願を行う際にもクレームの立て方の参考になるかと思います。
GAFAMのクレームドラフティングの特徴としては、
①方法クレームを装置クレームと同等またはそれ以上に活用する
②庁費用が跳ね上がる3独立クレーム、20クレームの枠のギリギリの範囲内で数多くのクレームを規定する。この際に、方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームの3つのカテゴリーでそれぞれ独立請求項を立てるか、方法クレームおよび装置クレームで独立請求項を立てて一方のカテゴリーで2つの独立請求項を立てるようにする
③方法クレーム、装置クレーム、記録媒体クレームで同一の技術的内容のものをそれぞれ独立項として規定する
ことが挙げられます。
本稿が皆様の米国特許実務の一助になれば幸いです。