米韓は大型魚50%増を主張、資源悪化の危険伴う日本の131%増提案~太平洋クロマグロ漁獲上限めぐる国際会議①
7月10日から北海道・釧路で太平洋クロマグロの漁獲枠について話し合う国際会議が開かれています。資源が急回復しているとする科学者の分析結果をもとに、日本政府は2025年から漁獲枠を大型魚については2.31倍(131%増)とするよう提案しました。米国や韓国は50%増に止めるべきだという立場でした。
私も米韓の提案の方が妥当だと思います。日本の倍増提案はせっかく回復した資源を再び悪化させるリスクもあるうえ、流通市場で消化不良を引き起こす可能性もあり、資源が有効に利用されないと考えるからです。
日本の異様ともいえる提案は、窮屈な思いをしている定置網をはじめとする沿岸漁業や大量の再放流で操業効率が著しく低下している近海はえ縄漁業から大幅な増枠を求める声が出ていているためだろうと思います。
しかし、大中型まき網漁業に偏りが大きい漁業種類別の配分を見直せば解消できる性質のものです。水産庁が厄介な国内調整を放棄して枠拡大だけで問題を解決しようとしているため、増枠を慎重に進めようとする米国や韓国との食い違いが目立つのでしょう。
16日まで釧路で開催
会議のスケジュールは、10日から13日までは中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)と全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)の合同作業部会、一日休んで15、16の両日がWCPFC北小委員会となっています。
WCPFCは日本周辺の太平洋の西側、IATTCはアメリカ、メキシコ沖など太平洋の東側を担当する国際機関です。
2つの組織が合同会議を開くのは、太平洋クロマグロが日本周辺の海で生まれてメキシコ沖まで太平洋を広く回遊している魚で、資源保護のためには漁獲規制にある程度共通性を持たせる必要があるからです。
前提となる資源状態は、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)の分析によると、太平洋クロマグロの産卵資源(親魚)量は過去12年間に劇的に回復していて、回復目標としていた「初期資源量の20%」水準を2021年に達成したとみられます。
現行維持なら初期資源の40%超を回復
将来親魚になる小型魚(30キログラム未満)の漁獲量を半減させた効果が表れてきているのです。現行の制限のままで継続すれば、20年先の2041年には初期資源量の40%より高い水準まで回復する可能性があります。
こうした資源回復を背景に、ISCはWCPFCからの求めに応じて初期資源量20%以上の水準を維持できる多数の増枠シナリオを提示しています。日本が会議前に公表した提案は、大型魚の漁獲を現行より131%増、小型魚を30%増とする内容でした。
日本提案では米国、メキシコなど東部太平洋の漁獲量がハッキリしめされていませんが、水産庁はISCが示したシナリオの7(ISCシナリオ参照)に該当するとしており、東部太平洋は大型魚・小型魚問わず全体で92%増とすることを想定しているのでしょう。
資源悪化のリスク伴う日本提案
シナリオ7を選択した場合、初期資源量20%水準の親魚量を確保できる確率は63%となっています。裏を返せば、大幅な増枠により資源が減っていく確率は37%あるわけで、かなり危険度の高いシナリオです。
米国の提案は大型魚を50%増、小型魚は増枠を見送り現行のままとする内容で、シナリオでは13番目、初期資源量20%水準の親魚量を維持できる確率は98%となっています。
近年、大型魚の来遊が激増している韓国は「環境的、社会経済的要因は過去20年間で大きく進化している」として、0トンから30トンしか与えられていなかった大型魚について515トンの枠を設定するよう要求しています。
韓国は実質ゼロ枠解消狙い独自案
「最近5年間で最も多かった年の漁獲レベル」によるものとしており、定置網などにかかったものの放流もしくは投棄した大型魚の数量をもとに算出したものとみられます。
実質配分ゼロだった自国の枠の設定を除けば、韓国の提案も大型魚の漁獲量の拡大を50%増、小型魚も15%増に止めるべきとする内容です。
日米韓3か国の提案内容は筆者が作成したこの比較表を参照してください。
基準年との比較を取りやめる案
その他、ニュージーランド、オーストラリアの両国は2002-04年の漁獲実績を基準にする方式の修正を求め、大型魚の漁獲枠をニュージーランドに250トン、オーストラリアに50トン設定することを求めています。
これらと比較して、日本の提案はかなり極端で、異様ともいえるものです。もし、日本の案が通るようなら養殖クロマグロ、ミナミマグロなどを含めてマグロ市場の供給過剰に拍車がかかり、漁業者が大きなダメージを受ける恐れすらあります。