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大間マグロの謎を解く⑥ヤミ漁獲問題を青森県が検察庁と協議~スシローの調査開始が契機か?



 青森県農林水産部は今年3月17日付で「クロマグロ漁獲量の未報告について」とするメモを作成し、知事ら県庁首脳に回覧しました。問題の経緯と水産庁からの助言内容、それに検討対応案を記しています。

知事らにも報告した文書の内容とは?

 参考資料4枚を含めて計5枚の文書です。うち2枚は漁業法など関連法規の抜粋で、漁業法の抜粋箇所は第30条(漁獲量等の報告)、第128条(漁業監督公務員)、第176条(報告徴収等)、第193条(罰金等)が紹介されていました。

 第30条(漁獲量等の報告)は、クロマグロのような特定水産資源の漁獲量を管理区分に応じて農林水産大臣または都道府県知事に報告することを義務付けています。

 第128条(漁業監督公務員)は、第3項で「漁業監督官・漁業監督吏員は、漁場、船舶、事業場、事務所、倉庫その他の場所に臨んでその状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に対し質問をすることができる」としています。

 第176条(報告徴収等)は農相、知事は「漁業に関して必要な報告を徴し、又は当該職員をして漁場、船舶、事業場若しくは事務所に臨んでその状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる」としています。

 第193条(罰則等)によると、漁獲量をごまかしたり、検査を忌避したり、虚偽の報告をしたりする行為は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられます。

 漁業法は水産庁や都道府県の水産行政担当部局に強大な権限を与えていることがよくわかります。第176条による報告徴収の対象になるだけで漁業関係者は被疑者として取り調べを受ける立場になったと感じるに違いありません。ウソをつけば刑事罰の対象になるのです。

任意調査から漁業法128条検査に移行

 2021年9月から始まった漁獲未報告に関する調査は相手から任意に協力を求めるかたちで進めていました。しかし、それでは真相解明が一向に進みませんでした。

 担当の水産振興課は知事ら県庁最高幹部向けの説明資料として昨年9月から今年3月末までの間に6つの文書を作成しています。いずれも黒塗りで開示されない部分がほとんどですが、不開示部分が多い理由として昨年11月までの3つの文書は「県の内部における審議及び検討に関する情報」で、特定の者に不利益を及ぼす恐れがあるからだと説明していました。

 しかし、今年1月以降に作成された残り3つの文書は、同じ理由説明の中で「漁業法第128条3項の権限に基づく検査に係る事務」に関する文書であることを明記しています。

 青森県は2021年12月23日に大間町で漁業者や出荷を請け負った産地の仲買業者から事情聴取していますが、これが第128条に基づく立ち入り検査の始まりだったと思われます。

青森県が開示した3月17日付の報告文書1ページ
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 この3月17日付の文書で注目すべきは、全5ページの真ん中3枚目の最終項「3」の箇所です。内容はもちろん、その項目の表題も黒塗りされていますが、不開示部分の不開示理由を説明した文書を読むと、ここが「青森区検察庁への相談結果全般」に該当します。

青森区検との相談内容はまるごと非開示

 区検察庁は、最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁、区検察庁の4種類ある検察組織の一部です。検察庁ホームページの説明によると「簡易裁判所に対応する検察庁で全国438か所にあり、比較的軽い刑事事件を取り扱います」ということです。死刑だってありうる強盗殺人など凶悪犯罪や贈収賄など政治家や公務員の汚職事件とは違って、懲役でも最高6カ月、罰金30万円という犯罪は区検が担当するのでしょう。

 開示された文書が黒塗りで、水産庁も青森県も「個別の案件についてはノーコメント」という現状では、検察との相談内容は推測するしかありません。3月末に水産庁も現地に来たといわれる捜査が続いたことを考えれば、区検は真相解明のためにさらなる証拠の収集を求めたのだと思われます。

 3月25日付で、立ち入り検査と報告徴収の内容について知事らに説明した文書には、「検査と報告徴収の結果を受けレクを行う」との注意書きが残されていました。検査前に知事らに日程やその内容を伝えたものと思われます。

幕引きの目論見崩れる?

 ところで、3月半ばのタイミングでなぜ、クロマグロ漁獲未報告の調査の進め方について水産庁が助言を行い、区検との相談が行われたのでしょう?

 回転寿司大手のスシローの親会社、FOOD&LIFE COMPANIES(以下、フード社)が外部から、つまり筆者からの問い合わせで、仕入れた大間産マグロが漁獲報告を済ませたものかどうか確認作業を始めたと発表したのが3月15日でした。

 その過程で、フード社やマグロを扱った卸売会社は産地の出荷業者に問い合わせて回答を得られず、水産庁や青森県に相談を持ち込んでいました。

 水産庁も青森県も昨年12月末に青森県が実施した事情聴取で確認した漁獲未報告を修正させることで幕引きを図ろうとしているような雰囲気がありました。しかし、スシローという最終需要者の名前が明らかになり、上場企業であるフード社が調査を約束したことで未報告疑いを残したまま調査を終結させることが困難になったのでしょう。私はそんな風に受け止めています。

 いまでも、水産庁や青森県は、静岡市場に出荷されたスシロー向けマグロに限定した調査にとどめようとしているような印象を受けますが、おそらくそれでは今後もヤミの漁獲や出荷は続くでしょう。出回り数量が漁獲上限量より多いので、豊洲市場向けや産地直売、通販用の大間産マグロにも不正漁獲のマグロが混在している疑いは残っています。
 

注*クロマグロ資源管理問題に関連して筆者が情報公開請求により国や地方自治体から入手する行政文書の数は膨大な枚数に及び、入手と分析にかなりの時間と費用がかかります。ご興味のある方、特に漁業者、研究者はご自身でも関係行政機関に情報公開請求して、情報を共有していただければ幸いです。今回紹介した3月17日付青森県作成報告文書の黒く塗られた部分に関しての説明文書の抜粋(写真)は、恐縮ながら「有料」とし、今後の情報公開請求費用に使用させていただきます。(内容は記事中に紹介していますから、非開示理由の説明がどのような体裁でなされるかがわかる程度です)

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