広島県動物愛護センター③「収容能力超過」を予見、NPO頼みの危うさ
「収容犬猫の60%程度を2つのNPOに引渡しており、収容頭数を削減するだけでは、NPOの負担が増加し、収容能力を超過する可能性がある」
広島県健康福祉局作成の「論点メモ・動物愛護センター移転整備の妥当性について」という文書にはそんなことも書かれています。
新築移転の準備を進めている動物愛護センターのあり方について、広島県の健康福祉局がまとめた内部文書です。筆者の情報公開請求に応じて、県が開示しました。
作成の日付は2018年1月29日です。
2018年1月といえば、NHK「クローズアップ現代」が犬・猫の殺処分問題を取り上げ、広島県のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、本部・神石高原町、大西健丞代表理事)のピースワンコ事業の限界なども論じられた時期です。
また、当時は表沙汰になっていませんでしたが、PWJ/ピースワンコは収容犬の急増で狂犬病予防法上の登録や予防注射が追い付かなくなってしまっていました。
2017年12月末、それを県や警察に告発されそうになったため、PWJ幹部は通常の窓口である県動物愛護センターを飛び越して、PWJ理事らと親しいとされる広島県健康福祉局の田中剛医療・がん対策部長(現在は健康福祉局長、厚生労働省出身)に相談を持ち込んでいた時期でもあります。
この論点メモは、広島県が動物愛護センターの移転整備を決めた背景や課題をどのように整理しているのでしょう。
まず背景です。
2011年度(平成23年度)の広島県の犬猫殺処分は8340頭で、都道府県別でワースト1位でした。
その後、定時定点引き取りの廃止など動物愛護センターへの引き取り頭数の削減に取り組んで、収容頭数が2011年度の9518頭から2016年度には5830頭に減りました。
2018年度からは「殺処分対象の犬猫を2つのNPOに譲渡することになり、炭酸ガスによる殺処分は実施していない」という状態です。
重い病気やケガで治療しても回復が難しいと思われる場合は薬物により安楽死させることはあります。しかし、ガス室での殺処分は中止され、これをもってPWJなどは「殺処分ゼロ」を実現したとPRして、ゼロを継続していくとして寄付を募っているわけです。
この論点メモでは、NPOの名称までは書かれていませんが、殺処分対象の犬を全頭引き取ると宣言したのはPWJ(事業名ピースワンコ)です。猫のほうは、NPO法人犬猫みなしご救援隊(広島市、中谷百里代表)です。
2014年度から10年間を対象とする広島県動物愛護管理計画では「平成35年度(2013年度)の犬猫の致死処分数を平成18年度(2006年度、13117頭)から75%減少(約3200頭)、2017年度50%減少を中間目標とする」という数値目標を掲げていました。
ところが「殺処分ゼロ」のかけ声が先進地の熊本市や神奈川県から全国に広がる中で、広島県でもPWJなどが追随して、殺処分を減らす目標は大幅に前倒しで達成されたわけです。
しかし、課題は残されたままです。
論点メモは「依然として(県動物愛護センターなどに)収容される犬猫数は全国で最も多い」状態にあり、「さらなる野良犬・野良猫の削減対策、新たに生み出させないための対策」が必要だとしています。
さらに、収容された犬猫の60%程度をPWJと犬猫みなしご救援隊の2つのNPOに引き渡している現状では、「NPOの負担が増加し、収容能力を超過する可能性がある」とも指摘していました。
収容能力超過は、現に引き取る犬の頭数が想定以上の数になったPWJで現実のものとなりました。
収容施設はもちろん、犬の世話をするスタッフや獣医師が足りず、狂犬病予防法に定められた手続き、措置を実行できなかったのです。
2016年4月1日、殺処分対象の犬を全頭引き取ると宣言したもののそれはわずか1年あまりで事実上、崩壊したも同然の状態になっていたものとみられます。神石高原町などが開示した狂犬病予防接種等の記録を見る限り、かなり高い割合で義務が守られておらず、保護犬を受け入れる体制は不十分でした。
そしてPWJは2018年、狂犬病予防法違反や動物愛護管理法違反広島県警の捜査を受けることになったのです。
熊本市や神奈川県の例をみるまでもなく、多くの関係者の協力なしには実現が難しい「殺処分ゼロ」へ、準備が整わないのに突き進んだ当然の結果かもしれません。
次回以降、関連文書からさらに詳しく紹介します。