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委員も知らぬ間に「疑惑の配分」が報告書に~太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に監視が必要⑧

小型魚配分は「打ち出の小槌」

 最初に2000トンもの太平洋型魚配分、打ち出の小槌クロマグロ小型魚の漁獲枠を水産庁から受けっとったことがいかに大中型まき網漁業を潤わせたかは、このシリーズ5回目で紹介したように養殖事業への種苗供給量の増え方をみれば明らかです。

 沿岸漁業者が長い間かけてコツコツと開拓してきた種苗供給事業を、いまや大中型まき網漁業が牛耳っているといっても過言ではありません。

 中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の合意に基づき、クロマグロ小型魚枠は1.47倍の換算率で大型魚枠に振り替えること、つまり、小型魚1000トンの枠なら大型魚1470トンの枠に振り替えて漁獲することも認められています。

 小型魚からの振り替えは大中型まき網漁業が漁獲量を大きく増やす要因になっているばかりか、単価も一般に小型魚より大型魚の方が高くなるため販売収入を漁獲量以上に増やすことにもなっているはずなのです。

 2015年に水産庁が大中型まき網漁業に与えた2000トンのクロマグロ小型魚枠はまるで打ち出の小槌のように大中型まき網漁業を潤わせているのです。

「まき網の削減率は沿岸より大きい」

 「小型クロマグロ漁獲規制において、4007トンの日本枠の配分にあたってまき網漁業を2000トンと決定するに至った庁内起案文書及び沿岸漁業を含む関係業界とのやりとりに関する書類一式」

筆者による情報公開請求の骨子

 いったい誰が、何を根拠に大中型まき網漁業に2000トン、その他の漁業はまとめて2007トンという太平洋クロマグロ小型魚漁獲量配分を決めたのか?

 そんな疑問から筆者が水産庁に情報公開請求をしたとき、開示されたのが2015年1月の資源管理部長通知だったわけです。

 しかし、その通知以前から配分案は出回っていたので、筆者はもっと丁寧に文書を探し出すよう審査請求したのですが、それ以外に決裁文書はない、と水産庁は説明していました。

 しかし、例えば、2014年8月26日に水産庁は「太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議」を開き、その場ですでに大中型まき網漁業による小型魚の漁獲量上限を2000トンとする説明が行われていました。

 会議の中で神谷崇参事官(のちの水産庁長官)は「まき網の2000トンと沿岸の2007トンというのは、これは削減率で見ますと、まき網が56%の削減、沿岸の方が42%削減ということですので、明らかにまき網のほうに我慢してもらうということで配慮はしている」と説明しています。

56%削減は妥当な削減率なのか?

 削減率というのはWCPFCが基準として採用した2002-04年の漁獲量実績の平均との比較を言っているわけですが、大中型まき網漁業の削減率を大きくしなければならない理由、さらにその理由に基づいて大きく削減する場合に56%が妥当な削減率なのかという点については説明していません。

 なにより重要なのはこの時点でこの配分を決定事項として説明していることです。

 当然、どのような比較検討を通じてこの配分を決めたのか、その経過を記した行政文書、決裁文書があると筆者は推定して審査請求をしたわけですが、水産庁は「全国会議配布資料の作成・配布に係る庁内決裁書は存在しない」「開示決定済みの文書以外に、本件開示請求対象となる文書は存在しない」と情報公開・個人情報保護審査会に説明したのです。

 それ以上追及するには訴訟を起こす必要があるので、いったん真相解明の作業を中断していました。しかし、太平洋クロマグロの配分をめぐる対立、迷走を解決するには、この問題のルーツを掘り起こす必要があると感じ、再度、調べなおしているところですが、これまでに2つの事実を再確認しました。

資源管理のあり方検討会報告に謎の注記

 ひとつは、2014年7月1日にまとまった水産庁の資源管理のあり方検討会(座長、櫻本和美東京海洋大学教授=当時)の「取りまとめ」です。

 漁獲可能量(TAC)や漁獲量の個別割当(IQ)制度の導入の是非や課題を議論した5回の会議の報告書としてまとめられたものですが、「太平洋クロマグロ」に関する記述の中に欄外の注として「漁業種類別上限は、最近の漁獲実績等を踏まえ、以下の通りとする。①大中型まき網漁業で2000トン、②曳き縄・釣り、定置網といった沿岸漁業等で2007トン」と小さな文字で記されているのです。

注として示された漁獲量配分

 二つ目は、同じく2014年8月にまとめられた「資源管理のあり方検討会の取りまとめを受けての対応について」という水産庁の公表文書(資料含め全5ページ)で、太平洋クロマグロに関しては「資料3」として、大中型まき網に対しては小型魚の漁獲量2000トンを配分し、操業海区単位で管理すると踏み込んで記述しています。

PDF文書の作成日付は2014年8月27日

 沿岸漁業等については2007トンとし、広域漁業調整委員会などの区分を参考に全国を6ブロックに分けて過去の漁獲実績に配慮してそれぞれの漁獲量上限を設定するとして、具体的な配分案も記しています。

 水産庁ではこれらの文書の作成、公表にあたって長官、部長、課長らの決裁を要しないとでも言うのでしょうか?担当職員の考えがあたかも水産庁の決定事項であるかの如く説明され、漁業者に受け入れを迫っていたとすれば行政としては極めて異常な姿ではないでしょうか?

「議論した記憶なし」と検討会座長

 そもそもこれら公表文書を行政文書として調べなおすこともなく、情報公開請求、審査請求に対応しているとすれば、水産庁の文書管理、国民の知る権利への対応は極めてお粗末と言わざるを得ません。

 筆者は「資源管理のあり方検討会」の櫻本和美座長に取りまとめに配分案を盛り込んだ経過を訪ねたところ、「議論した記憶はないし、わからない」ということでした。

 確かに水産庁のホームページで公表されている議事録を読んでみても、太平洋クロマグロの漁獲規制について小型魚の漁獲量を基準期間(2002-04年)の半分に減らすことは議論されているものの、その配分方法や内容については一切議論されていませんでした。

 当時、筆者も現場で取材をして記事を書いていましたが、クロマグロ未成魚(小型魚)の漁獲量を半分にするため、沿岸漁業の漁獲量も削減することになる、という議論がなされたのは記憶していますが、検討会の場ですでに配分案が、委員らの意見も聞かずに盛り込まれていることには気が付きませんでした。

 当時の日経新聞の記事を調べなおしてみても、2014年8月26日の全国会議で漁業種類別の配分が発表されたとあるのみです。

 報告書の「注」に気が付かなかったのはとても恥ずかしいことですが、それにしてもいったい誰がこんな細工を施していたのでしょうか?次回に続きます。

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