教えて大西さん、ピースワンコのこと㉓「狂犬病予防法を守りなさい」~高梁市の指導に従いますか?
1、鑑札未装着を速やかに解消せよ
9月4日(金)午後、岡山県高梁市の赤木和久・市民生活部長から電話がかかってきました。ピースワンコ西山犬舎を同日午前、部下の衛生課長とともに訪問し、犬舎の責任者にあって、狂犬病予防法を順守するよう申し入れたという連絡でした。
筆者が電話をしたとき、赤木部長は、「台風10号」に関する庁内の会議出席中で不在でした。多忙な中、私が問い合わせたピースワンコ西山犬舎での犬への鑑札の無装着問題への市の対応について回答してくれたのです。
赤木部長によると、犬への鑑札装着など狂犬病予防法の義務を速やかに履行するよう申し入れたということです。
「いつまでに?」
期限を区切らない是正指導にはあまり意味がありません。
「期限は区切っていません。しかし、速やかに、ということで。今後も引き続き状況を調べさせてもらうと伝えています」
赤木部長はそう答えました。
西山犬舎にいたプロジェクトリーダーの安倍誠氏は大西健丞代表理事ら上司である役員・部長たちの指示に従う立場ですから、その場で即答はできなかったようです。誰でも義務だと理解できるはずの指導内容なのに、ピースワンコの現場にはほとんど権限が与えられていないのでしょう。
高梁市は西山犬舎が本部と協議する時間を与えたようですが、本来であれば西山犬舎か市役所に大西健丞代表理事や国内事業を統括する元朝日新聞記者の國田博史部長ら幹部を呼んで、指導すればその場で改善を約束させられたはずです。
大西代表理事は最近も神石高原町にピースワンコの活動を応援する公明党の国会議員の来訪を受け、歓談しているのですが、法令違反の解消にも関心を向けて欲しいところです。
安倍リーダーから報告を受け、大西氏が決断すべきことはただ一つ、高梁市の指導を受け入れ、今すぐ、西山犬舎にいるおよそ700頭の犬全頭に鑑札や注射済票を装着することです。
2、鑑札の未装着は罰金20万円
狂犬病予防法は次のように規定しています。
「犬の所有者は、前項の鑑札をその犬に着けておかなければならない」(第4条3項)
「犬の所有者は、前項の注射済票をその犬に着けておかなければならない」(第5条3項)
鑑札は犬の登録事務を行う市町村が犬の所有者に交付します。狂犬病予防注射の「注射済票」も同様です。登録や注射を済ませていても鑑札や注射済票を装着していない所有者は20万円以下の罰金の対象となります。
第六条では次のようなことも書かれています。
「予防員は、第四条に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第五条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない」
狂犬病予防員は都道府県が獣医師の資格を持つ者の中から任命します。
日本では1956年を最後に狂犬病は発生していませんが、外国からの帰国者が発症した例はあります。一度発症すると100%死に至る恐ろしい病気で、厚生労働省では新型コロナと同じ結核感染症課が所管しています。
狂犬病予防法は、付近の交通を遮断できる権限を都道府県知事に持たせてもいる数少ない法律の1つです。登録や予防接種の実施やその証明である鑑札等の装着は、狂犬病の発生や流行を防ぐための第一歩なのです。動物愛護を論ずる前に守っておかなければならない最低限のルール、常識と言ってもいいでしょう。
3、「法令違反解消」とウソの報告
ピースワンコを運営する法人としてのPWJと大西健丞代表理事ら幹部は、2018年にも広島県警から狂犬病予防法違反の容疑で書類送検されています。県警が2018年11月20日に報道関係者に配布した発表文では、鑑札や注射済票を犬につけていなかったことも容疑事実に挙げられていますから、守るべき義務と知っていたのは間違いないでしょう。
それなのに、ピースワンコは、なぜ守っていないのでしょう。
市議会での質疑に備えるため、高梁市の赤木部長らが8月24日にピースワンコ西山犬舎を視察した際、ピースワンコの職員は「犬房1部屋に複数頭で管理しており、紛失や誤飲等のリスクもあるため、やむを得ずファイリングで管理し、装着はしていませんが、全頭にマイクロチップを装着し、カルテにより個体識別ができるようにしている」と説明したということです。
法律違反であることを知りながらも、「それで許されるはずだ」という甘えがピースワンコにはあったに違いありません。そして、その甘えを許容してきたのがピースワンコの本拠地、神石高原町のシェルターを監督する広島県食品生活衛生課と広島県動物愛護センターだったのではないでしょうか。
経過を振り返ってみます。
広島県警の捜査を受けて、広島県は2018年6月21日に動物愛護センターからピースワンコへの犬の引き渡しを停止しました。しかし、県警捜査終了後の同年6月28日に立ち入り調査をした結果、「狂犬病予防注射が適切に実施されて、法令違反が解消されていたということが確認されております」(2018年7月3日の湯崎英彦知事記者会見)として、7月3日から譲渡を再開して、今日に至っています。
知事が記者会見で「法令違反が解消されていた」と発言したことについて、当時、食品生活衛生課のナンバー2だった中村満・広島県動物愛護センター所長に尋ねると、法令違反の解消は狂犬病予防注射が完了したということを指しているだけで、鑑札や注射済票の未装着が解消されていないままだったことを認めました。
しかし、繰り返しになりますが、広島県警は狂犬病予防法違反でPWJや幹部を書類送検するにあたって、予防注射をしなかったことと合わせて、注射済票や鑑札を付けていないことも指摘していました。
広島県はそれに触れたくなかったようです。書類送検の翌日、2018年11月21日朝、食品生活課が副知事に状況を報告した際のメモをみてみましょう。
「11月15日に県動物愛護センターが立入調査を実施し、現在指摘された違反の事実はないことを確認している。そのため、県としては、引き続きPWJへの譲渡を継続する」
広島県警が問題視した「鑑札」などの無装着について、食品生活衛生課と副知事との打ち合わせでは言及していません。つまり、食品生活衛生課は虚偽の事実を上司である副知事に伝えているのです。同年7月に記者会見で「法令違反解消」と、ピースワンコを擁護するかのような発言をした湯崎知事にもきっと同様の報告をしていたことでしょう。
4、PWJも「強気な」コメント
よく知られていることですが、公務員には、職務を行うことによって犯罪があると知った場合、警察などに告発する義務があります。警察が問題にしたものを不問に付すかのようなごまかしがあってはならないはずです。しかし、ピースワンコの法令違反をすべて知っている県食品生活衛生課がウソの報告を知事や副知事にしてくれたおかげで、PWJも強気のコメントを公表します。
「週刊新潮」「女性セブン」によるピースワンコ批判記事に反論するため2018年12月5日に発表した「ピースワンコからのお知らせ」では、狂犬病予防注射等について「過年度において、感染症の予防対策などに追われ、保護犬の一部に対する狂犬病予防注射が一時的に遅れる状況が発生しましたが、今年度は法令通り遅滞なく接種を進めております」「今後とも法令を順守し、保護犬の適切な飼育管理に全力で取り組みます」と、すでに問題が解決済みであるかのような白々しいコメントを発表しています。
PWJ/ピースワンコも県と同じように鑑札や注射済票の装着問題には触れず、法令違反が解消されたかのような口ぶりです。
5、県とPWJがもたれあい、かばいあい
筆者の推測ですが、広島県動物愛護センターからピースワンコへの収容犬が止まったままでは、双方とも困った事態に追い込まれるため、鑑札等の未装着には目をつぶるという密約でも結んだのではないでしょうか。両社のもたれあい、かばいあいです。
メディアや知事・副知事ら上層部が狂犬病予防法の実務に詳しくないのをいいことに、県食品生活衛生課と動物愛護センターは法令違反の解消を中途半端なままに「特段の問題なし」というお墨つきを与え、ピースワンコはことわるごとにそれを言い訳に使うのです。
犬の引き渡しが停滞すると、県動物愛護センターは施設に収容しきれなくなって犬の大量殺処分を再開せざるを得なくなり、県は動物愛護団体から批判を浴びてしまいます。
一方、PWJの側は「ふるさと納税」などの寄付を集める際に、殺処分対象を全頭引き取って広島県の殺処分ゼロを実現しているとうたうことができなくなり収入激減が予想されます。収支をみていると、保護犬以外の赤字部門は、ピースワンコの寄付をあてにしている構造になっていますから、寄付が減ると、PWJは法人としても苦境に陥ってしまうのです。
一般には飼養困難とみられる、譲渡適性のない犬も広島県動物愛護センターはピースワンコに引渡してきました。ピースワンコが殺処分ゼロを実現するため「殺処分対象の犬を全頭引き取る」と宣言していたからですが、その結果生じた背伸び、法令違反には広島県にも責任の一端があります。
広島県動物愛護センターは調査で確認するたびピースワンコには鑑札等の装着を指導しているといいながら、未装着の犬が何頭いるかを確認したことはないそうです。かたちばかりの指導で、法令違反を解消させようという強い意志は感じられません。愛護センター幹部たちは、ピースワンコの共犯者としての後ろめたさを感じていることでしょう。
鑑札を付けられない理由として、広島県も高梁市と同様の説明を受けているようですが、予防注射ができるなら鑑札などを付けた首輪を犬に装着できないわけはありません。
もし、首輪を食いちぎったり、鑑札を誤飲したりする事故が起きるのなら、その都度、装着しなおせばいいはずです。ピースワンコの犬舎では、確かに犬同士のケンカで殺し合いが起きたことが知られていますが、そのような悲劇が起きないようシェルターは十分なスペースとスタッフを確保していなければならないのです。
ピースワンコは2018年9月14日付の「お知らせ」でこう書いています。
「犬舎の増築によって一時期より過密状態がやわらぎ、犬どうしの殺傷事故も減りました。通常の犬舎に加え、新たに用地を確保して、攻撃性の強い野犬を1頭ずつ個別管理できる特別なシェルターも作りました」
この説明通りなら、すべての犬に対して鑑札を取り付けることは、十分に装着可能なのではないでしょうか?
6、法令違反に対し厳しい対応を
PWJは、県警捜査が始まる前から狂犬病予防法違反の解消策を広島県とこっそり協議していました。それらの経過は情報公開された行政文書で明らかになっています。黒塗りで具体的な要求事項は隠されていますが、PWJは県に財政援助を求めていたことが確認できています。
「殺処分ゼロ」を目標に掲げることに慎重な広島県を押し切って、「殺処分対象を全頭引き取る」と宣言して、広島県での「殺処分ゼロ」の実現を派手に宣伝したのはPWJの側ですが、「自分から言い出したことだが」と断りつつ、法令違反解消のための秘密協議で公費補助を求めるとはずいぶん虫のいい相談です。
さすがに広島県はその要求を突き返していますが、攻撃性の強い犬などもピースワンコに引き渡した弱みもあって、鑑札の装着などを強く求めることができなかったのでしょう。
ところで、これも一般にははっきりと方向転換を説明しないまま、ピースワンコは2019年から「殺処分対象の全頭引き取り」という方針を撤回して、毎月引き取る頭数を制限しています。
行き場を失う犬が増えて2020年からは、広島県動物愛護センターなど県内の愛護センターは薬物を使った安楽死という形で殺処分を本格的に再開しています。
「殺処分ゼロ」を焦るあまり、法令違反を犯し、結果的に殺処分から救えない犬の数も増やしてしまうとは、皮肉なことですが、「殺処分ゼロ」の考え方や取り組み方を整理しなおすにはいい機会です。
法令違反が解消されるまで、広島県はピースワンコへの収容犬の引き渡しを停止してはどうでしょう。
そして、同じ期間、ピースワンコも「ふるさと納税」など寄付集めを一時中断してはどうでしょう?
「ふるさとチョイス」や「good do」など寄付集めのサイト運営会社も、法令違反の疑いのある団体への寄付を集める宣伝や紹介を一時中止したほうがよろしいのではないでしょうか?
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