上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制⑥リタイア犬もしっかり管理する必要あり~厄介な仕事を遠ざけた環境省・動物愛護議連
同じ施設内なのに規制から外す不思議
同じ施設内で飼っているのだから繁殖からリタイアした犬(引退犬、リタイア犬)だって当然数値規制の対象になるのだろう。そう思っている人は多かったのではないでしょうか?私も当たり前のようにそう考えていました。
そんなわけですから10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会で、環境省が1人あたり飼養頭数制限の対象から「引退犬」を除外すると表明したのを会場で聞いて、驚いたものです。7月に規制案が公表された時点から「引退犬」が除外される可能性があるとみて、環境省に繰り返し要望書を出していた公益社団法人日本動物福祉協会(JAWS)はさすがにプロの集団です。
もし皆さんが環境省に質問すれば「もともと除外することを考えていた。明確化のため審議会の資料に明記しただけです」という答えが返ってくることでしょう。私はそんな書面回答をもらいました。
「良い案がなく明記が難しい」と苦慮?
しかし、環境省の説明には矛盾があります。審議会当日の質疑応答で環境省動物愛護管理室長は違法処分などを予防するため総合判断したことをはっきり述べているのです。
また、引退犬も監視下に置くよう要望したJAWSが8月28日に公表した環境省からの回答では「良い実践的な案がなく、そこまで明記することは難しいのではないか」と回答していて、除外しない選択肢も排除していませんでした。
最初から「除外を考えていた」という環境省動物愛護管理室の説明は極めて不適切であると私は思います。
議連は「定期報告で把握せず、監視対象外」
環境省は1人あたりの飼養頭数制限案は超党派の議員連盟、犬猫殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(尾辻秀久会長)の案を数値規制案として採用しました。愛護議連がどう考えていたのかを尋ねると、事務局長の福島瑞穂議員の事務所から返ってきた説明は、以下のようなものでした。長いのですが、重要な見解なのであらためて掲載します。
①動物愛護法第21条の5に基づき、動物販売業者等は、取り扱う個体ごとの帳簿を作成し、5年間保存しなければならないとともに、毎年1回、取り扱われた個体数の出入りの状況(生まれた数、購入した数、引き渡した数、死亡した数等)について、都道府県知事に「動物販売業者等定期報告届出書」を提出しなければならないこととされている。
②同届出書では、繁殖等を引退した数は「年度中に販売若しくは引渡しをした動物の数」に計上する運用がなされており、いわゆる引退犬及び引退猫はこれに該当することから、引退犬及び引退猫は「動物取扱業者としての」自治体の指導監視の対象から元来外れている。
③こうした経緯も踏まえて、当議連の要望書等で取り上げている、従業員1名当たりの頭数制限である『繁殖犬15頭』『繁殖猫25頭』は、現に繁殖の用に供している犬と猫の数に限定するものであり、「動物取扱業者としての」自治体の指導監視の対象外である引退犬及び引退猫は当然含まれない。比較対象とした諸外国の頭数制限等の規定については、我が国と制度や運用に違いがあるため、我が国の商慣行に極力合致させた形で、諸外国の規定を参考に、要望書等にまとめたものである。
④ただし、引退犬及び引退猫の頭数が10頭を超える場合には、動物愛護法第9条に基づき、地方公共団体の条例に基づく多頭飼育の届出制の対象となる場合があることと、改正後の第25条第4項と第5項に基づき、飼養動物が虐待を受けるおそれがある場合には立入検査や改善命令等が行えるようになるため、繁殖から引退させているか否かにかかわらず、動物取扱業者が飼養する「犬猫の飼養者としての」自治体の指導監視の対象に含まれている。それゆえ、引退犬及び引退猫の適正飼養に対しても、一定程度の実効性は確保されていると考える。
引退犬猫は法律で義務付けられた定期報告からも除外されているし、従来から監視、指導の対象外だったのだ、という説明です。今回、数値規制問題を取材していて一番驚いたのはこの議連事務局福島瑞穂事務所からの書面回答です。
いつ、だれがこのような見解を整理したのでしょう?
また、このような見解は議連のメンバーやアドバイザーたちの間で共有されていたのでしょうか?
動物愛護がライフワークという議連メンバーの塩村あやか議員、そしてペット業界に関する豊富な知識・人脈をかわれてアドバイザーになっている朝日新聞の太田匡彦記者らによる引退犬猫除外についての説明を期待していますが、この点に言及しているブログ投稿や解説記事はまだないようです。
Eva「別枠で監視対象に」と環境省に申し入れ
そこで、やはり議連への助言団体の1つである公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(杉本彩理事長)に質問を送ってみました。杉本さんが11月25日の動物愛護議連総会・動物愛護法PTで数値規制に関して質問したものの十分な回答が得られなかったので、環境省に要望書を持参したとホームページで公表していたからです。
回答してくれたのは松井久美子事務局長です。引退犬猫に関する部分を全文紹介します。
問 10月の審議会以前に、超党派議連PTなどでは引退犬猫の取り扱いについて議論していないのですか?Evaからは意見を出していましたか?(議連事務局の福島瑞穂事務所からは、引退犬猫については、もともと動物取扱業として監視や指導の対象外である、との文書回答を頂いています)
答 超党派議連PTでは、多岐にわたり質問や意見があがりましたが、中でも毎回議論の中心となったものは、
・飼養環境の基準
・従業員数
・繁殖回数と年齢
でした。他、最低・最高気温なども。
「引退犬猫の取り扱いについて議論していないのか?」
記憶が定かではありませんが、どなたかコメントしていた方はいました。ですが、深いところまでなかなか議論が及ばず毎回時間切れとなっていました。
Evaは議連PTの場では、従業員数(特に販売店の員数)や、繁殖のところの6歳までなら何度も帝王切開が可能になってしまうことについて主に意見をしていました。
ただ動愛法改正の際は、数年に渡り超党派議連が関係団体に率先してヒアリングを重ね、その後条文化作業も行いました。
ですが今回の数値規制は、検討会と審議会が議論の場で、議連では基本検討会で検討した内容の報告と、議員や私達の意見や要望に対し、どうしてこの基本案なのか、という説明でした。
検討会を無視して、議連の意見で何かが変わるということは難しいのだろうと思います。それでも議連が環境省に意見を言える場を設けて下さったので、毎回出席し各項目について意見していました。
審議会の委員には、動物愛護団体として日本動物福祉協会さんも入っていらっしゃいますので、むしろその場で引退犬のカウント含め意見していただく方が望みはあると思います。
Evaは、11/25の議連で質問したこともあり、最後のあがきで11/30に副大臣と政務官に要望書を持っていきました
Evaの要望は「引退犬においても繁殖犬とは別枠の勘定を設け管理していただきたい」というもののようです。
犬猫の世話をする従業員の数は、大きな論点の1つでしたし、引退犬猫を含めて考えるかどうかは規制の厳しさを判断するうえで、非常に大きな問題であるはずなのですが、時間的な制約もあったのか、当事者たちは素通りしてしまっていたということなのでしょう。
その点の説明を、問われてもあやふやにしか回答していなかった環境省の対応は極めて不誠実で、問題があると私は思います。引っ越し先探しや廃業の検討などに日々悩まされているブリーダーたちがその現実を知ったら、きっと呆れてしまうことでしょう。
厳しい規制を求める動物愛護団体の側からも、また、急激かつ厳しい規制導入に不安を感じ、動揺するペット業界の側からも、大事なことを説明しないで規制案を作り、パブリックコメントを実施したやり方を批判する声が出るのも当然です。
ちなみに、筆者はパブリックコメントで引退犬猫について、現役活動中の繁殖犬猫の頭数上限と同じ数まで認め、状況をみながら段階的に減らしていくことを明記するよう提案しました。提案というより、引退犬猫の取り扱いについて十分に考慮されていないので、考え方を整理して明記することを求めたのです。(続く)