ファクト・チェック⑤大西健丞さん、その話、本当ですか?
■あいまいな表現、断片的な情報
引き続き、NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)の大西健丞代表理事がPWJの保護犬(ピースワンコ)事業の支援者らに2019年末に送った手紙から。
▶皆さまと私たちが、ガス室で殺されていたはずの5千頭以上の命をすくってきたことは事実です。そして改めて皆様に呼びかけたいのです。もう少しで、殺処分を将来にわたって止める仕組みが出来上がります。この目標を達成するために、どうか今一度、皆さまの力をお貸しください
大西氏が書いている通り、PWJが広島県動物愛護センターなどから引き取った犬の数は累計5千頭以上になるはずです。
ふだんは隠している数字でも自分たちが都合よく使えそうなとき、例えばこの手紙のように寄付集めのキャンペーンに役立ちそうなときは公表する。それがPWJ/ピースワンコのやり方です。
しかし、このようにデータを恣意的に取り扱う団体や人物には注意が必要です。大西氏やPWJがあくまで公表するのは「5千頭以上」というおおざっぱな数字で、いつの時点で何頭かははっきり示さないのです。
ピースワンコのホームページ(1月30日正午時点)をみると、保護犬の状況について「今までの譲渡・返還数2005頭」と紹介していますが、引き取りの累計頭数や現在保護している合計頭数は(ざっと探してみたところ)見当たりません。
ふるさと納税サイトの「ふるさとチョイス」のピースワンコのページ(同)では、「施設には現在、約2800頭の保護犬たち」がいること、里親に譲渡できた犬も「1600頭を超えました」とあります。
ところがこのサイトは、ピースワンコのホームページと違ってほとんど更新されていないようですから、「現在」がいつのことを指すのか定かではありません。
どれもこれもデータは断片的で、あいまい、取り扱いが恣意的です。繰り返しになりますが、大西氏やPWJグループの情報にはファクト・チェックは欠かせないのです。
PWJ/ピースワンコも以前なら写真のようなデータを公表していました。神石高原町のピースワンコ本部事務所で2018年9月8日に撮影されていますが、2012年以降、ピースワンコ事業で広島県動物愛護センターなどから引き取った捨て犬の累計数はその時点で4333頭だったことがわかります。
■消えたワンコ たち
そのうちピースワンコがこれまでに新しい飼い主に譲渡した犬の数は1090頭、保護している犬の数は県外の譲渡センターなどに移したものも含めて2474頭とあります。その合計は3564頭です。引き取った犬の数4333頭より769頭少ないことがわかります。動物愛護関係者の間でささやかれている「消えた800頭」という問題です。
もちろん、収容中に老衰や病気で死んでいく犬もいることでしょう。ところが、筆者が神石高原町役場に情報公開請求をして入手したPWJ/ピースワンコが保護した犬の死亡届は2019年7月3日までの累計で349頭でした。800頭はやや過大かもしれませんが、数百頭規模でワンコが行方知れずになっているのです。
神石高原町の看板を借りてふるさと納税の寄付を募るPWJには、だれもが抱くそうした疑問に対し、誠実に答えていく責任があるはずです。
大西氏は「もう少しで、殺処分を将来にわたって止める仕組みが出来上がります」と訴えてもいますが、その根拠は示していません。
広島県での犬の殺処分は、PWJが殺処分対象を全頭引き取ると宣言したため、安楽死などの例外措置を除いて2016年度にゼロとなりました。
広島県健康福祉局は2年前、年間1500頭前後に達している野良犬・捨て犬の収容頭数が2023年度に800~900頭程度まで減るようなら「殺処分がない状態」を安定的に継続できるとする試算をまとめています。
収容頭数減らしの前提は、不妊去勢していないため短期間で繁殖してしまう野良犬の捕獲(年間100頭程度)頭数を2018年度以降、200頭程度さらに上積みする、ということでした。
2018年度は確かに捕獲した頭数が100頭ほど増えて211頭となりましたが、「200頭上積み」という目標を下回っています。また、捕獲を増やしたため収容頭数が1665頭へと増えたのはやむを得ないこととはいえ、2023年度目標の800頭台からすれば倍の水準です。
大西氏が言うような「殺処分を将来にわたって止める仕組み」などまだ整うメドは立っていないのです。
■野良犬繁殖おさまらず
広島県動物愛護センターの事情に詳しい人たちの話では、「殺処分対象を全頭引き取る」と宣言したPWJ自体、最近は引き取る犬の数を抑制していて、PWJを通じた譲渡に依存していた広島県動物愛護センターは一時保護する犬の頭数が増えているようです。
殺処分を回避するため県動物愛護センターは、PWJに次ぐ引き取り実績がある動物愛護団体エンジェルズ(滋賀県高島市、林俊彦代表)に子犬などの引き取りを増やすよう申し入れしています。
「繁殖」の根をたつことに人やお金を投じていないので、野良犬の子犬は毎日のように生まれ、県や市の動物愛護センターといつ終わるとも知れぬ追いかけっこを続けているのです。