計量後、漁獲枠超過分を漁船に返す?クロマグロを船上解体・山分け~気仙沼市魚市場「大目流し網漁船」で発覚
資源管理の対象として漁獲量が制限されているクロマグロの漁獲量をごまかして消費したり、販売したりする行為が後を絶ちません。大臣許可を持つ大目流し網漁船が水揚げのため寄港した宮城県気仙沼港で未報告のクロマグロを船上でさばいて乗組員が山分けしたことが発覚しました。水産庁も当該漁船の所有会社に事情を聴く準備を進めています。
この漁船は全長50メートルを超す大型漁船でマグロを獲ることを目的とした操業はしないものの混獲することもあり、国から漁船としての漁獲割当枠(IQ)を受けています。
気仙沼漁港の水産流通に詳しい関係者によると、この漁船は2022年7月、同漁港に停泊中、販売しないクロマグロを船上でさばいて、乗組員にふるまったといいます。漁獲として水産庁に報告しておらず、漁業法に違反する疑いがあります。
筆者が水産関係者から得た情報をもとに当該漁船の所有会社に問い合わせたところ、船頭を兼務する社長はその事実を認めました。港でクロマグロを計量したところ、認められた漁獲の上限を上回ったことがわかって船に戻されたので、乗組員の消費用、つまり食べたり、知り合いに贈ったりするために船上でさばいたようです。
「港に戻るまで重量はわからない。制限量を超えて戻ってきたので船でさばいた。水産庁は投棄してはいけないという。捨てるわけにも行かないから乗組員に分けた」
ざっとそういう事情のようです。大目流し網漁船によるIQの開始は2023年からであり、2022年は自主的な試みとしての漁獲枠管理だったので、法的な処罰は受けない、とも考えているようでした。
しかし、国がTAC(漁獲可能量)による上限を決めているクロマグロの漁獲量は沿岸の漁業者なら都道府県知事、大臣許可を持つ大型の漁船なら水産庁に漁獲量を報告しなければなりません。IQも漁獲量が正確に報告されて初めて数量制限の効果があるわけです。
目的外にとれた魚を海に戻すことは認められていますが、船上に上げた死亡個体は漁獲として報告することが大原則です。乗組員が持ち帰ったり、船上で食べたりする分も漁獲報告の対象になります。
過去数年の間に、長崎県・対馬や北海道・函館などで沿岸漁業者による大規模な過剰漁獲が発生し、そうした漁獲報告のルールは繰り返し水産庁が漁業者に周知しているはずです。
大臣から許可を受けて広域に操業し、漁獲量も多い大型漁船の経営者らがそうしたルールを知らないというのであれば、水産庁は大臣許可漁船すべてを対象にクロマグロ漁獲報告が適切に行われているかどうか報告を徴収する必要があるかもしれません。
気仙沼市魚市場周辺では、当該の漁船に限らず、入港する大目流し網漁船によるクロマグロのヤミ処理、ヤミ消費、ヤミ流通が横行していると嘆く声も聞こえてきます。今月10日頃にも「計量で枠オーバーが判明したクロマグロ数十本を捨てに沖へ行った漁船がある」とのうわさが流れました。
沿岸の小型漁船であれば、針を外してマグロを放流することは比較的容易ですが、大がかりな漁具を使う大型漁船の場合は放流は簡単ではなさそうです。計量後に漁船に漁獲枠外のクロマグロを戻すという慣行が気仙沼市魚市場にあるとすれば、市場を運営する気仙沼漁業協同組合にも水産庁は事情を聴く必要があるでしょう。
気仙沼市魚市場には、近海はえ縄漁船、カツオ一本釣り漁船、まき網漁船などが入港します。大目流し網は網目が大きく、一般的にはマグロ、カジキ、サメ、カツオなど比較的大きな魚を獲るための漁法とされています。