町役場・NPOが計20%を蓄えに~わびしきピースワンコ「ふるさと納税」の現実

1、「一般管理費」という貯金箱

 保護犬活動(ピースワンコ)も展開している国際緊急援助団体、NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)が本拠地を置いている広島県神石高原町役場は、2020年4月からふるさと納税によるNPOに対する支援制度(交付金)を見直して、ふるさと納税への寄付から町役場が事務経費として受け取る割合を7%にしました。

 現行は2%なので3倍以上の大幅な引き上げとなります。町役場がふるさと納税を募る際に使うサイトの利用料の改定に伴うものということです。

 PWJの場合、寄付金や町から受け取った交付金からさらに最大15%を「一般管理費」としてPWJの会計に留保することをうたっています。目的外の用途、例えば寄付を求めた事業に直接関係しない支出のために蓄える貯金箱、団体の維持のために使うお金です。

 保護犬活動や花粉症対策などの名目で、PWJは複数のふるさと納税による寄付集めを行っていますが、集まった寄付金100に対し、まず町役場の事務経費7%相当額が差し引かれ、残る93からPWJ一般管理費として最大15%(100に対して13.5)、つまりあわせると、全体の20.35%(2割強)が町役場とPWJのポケットに消えていくことになります。

2、「5%」→「2%」→「7%」

 神石高原町役場は2018年12月、ふるさと納税(寄付)からの町の取り分を5%から2%に引き下げたばかりでした。

 寄付者から「寄付は全額、事業に使ってほしい」という要望があり、それにこたえて町の事務経費分を2%に下げて、NPOへの配分を98%に増やした、というのが表向きの説明です。しかし、お役所の仕事です。一通の手紙が来たからといってふつうは「年度途中」の改定を急ぎません。本当は別の事情がありました。

 12月は、実はPWJの保護犬事業(ピースワンコ)に年間で最も寄付金がたくさん集まる月です。2017年度(2018年1月期)に債務超過だったPWJの手元に少しでも多くの現金をという町役場の配慮があったのです。町役場への手紙自体、債務超過だったPWJの内情を知るピースワンコの支援者から送られたものだったかもしれない、と私は推測しています。

 PWJのピースワンコ事業は捨て犬の受け入れをどんどん増やしている時期でした。人手の確保が追い付かず、法定の狂犬病予防注射も満足に打つことができない状態でした。そんなに重要な時期なのにPWJは愛媛県上島町や佐賀県でも「ふるさと納税」による寄付を募って地域創生事業に取り組み、苦戦し、人手やお金をピースワンコ事業に十分さけなかったのではないでしょうか。

 PWJは地域創生のような赤字部門を抱えているうえに、稼ぎ柱のピースワンコ部門もシェルターで受け入れる保護犬の数も激増中で、お金がいくらあっても足りないくらい状況だったのでしょう。

 当時の議会答弁からもそうした事情をうかがい知ることができます。2018年12月7日開催の町議会定例会での森重順也副町長の答弁です。

 「団体(注、ピースウィンズジャパン)の(狂犬病予防法違反等の)書類送検もあったということで,これはまだ結論は出ておりませんが、マスコミ等々報道される中で、この団体が犬の飼育について適正、確実に飼育していただくためにも迅速にその対応をするということで、報道があった関係で早めたということでございます。これをまた年度を先送りすると、指導的にもこういった形をとるんで、犬が逃走するようなことがないように、また例えば避妊、去勢、必要なものについてはしていただきたいという指導も含めてこういった対応をしております」

 前述のようにPWJは「一般管理費」として最大15%をとりわけておく活動方針ですが、事業報告書などをみても、この「一般管理費」が何に使われているか詳しい説明はありません。善意の寄付がもとになっているおカネだけに、詳しく公開して欲しいところです。

 以前にも紹介しましたが、公益社団法人Civic Force(東京都渋谷区、大西健丞代表理事)を常勤先として所轄官庁の内閣府に届け出ている大西健丞氏は、自宅がある広島県神石高原町のPWJでも年間1440万~1600万円の給与を受け取ってきました。それは債務超過になった2017年度でも変わりません。もし、一般管理費が劣悪な財務内容のNPOとしては破格といっていい高額給与を支える基盤になっているとすれば、是正すべきだと思います。

 同じ大西健丞氏が代表を務める法人や、身内や幹部社員との取引、金銭の貸し付けなども多いのですが、そうしたことを行う基礎にこれまで蓄積してきた一般管理費が無駄に使われていないかチェックも必要だろうと思います。

3、佐賀県は県が10%、NPOは90%の配分

 ところで神石高原町はふるさと納税によるNPO支援にあたって、町が受け取る経費分については、2018年12月に5%から2%に下げた時点から「町がサイトへ払う手数料等はいただく」(森重副町長)という考え方をとっています。

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 実際、その収支だけをみると、2%でもお釣りがきて、これまでは赤字にならなかったのは事実ですが、NPO事業の審査や問題が生じた場合の対応などふるさと納税に関連した事務量は大きく増えていたはずです。

 特に、狂犬病予防法違反など法令違反に問われたピースワンコのようなものに関しては、幾度となく町役場も現地調査や地元住民との調整に駆り出されていて、ふるさと納税サイトを利用するシステム使用料を受け取るくらいでは済まないはずです。

 町議会では、町の財政自体が厳しく、補助事業の見直しなどを進めている最中なので、「本当は(町役場が)10%ぐらいもらっても十分大丈夫なお金」(2020年2月4日開催の町議会での木野山孝志議員発言)という意見も根強くあります。

 ふるさと納税を利用したNPO支援の先駆けで、神石高原町もそれを参考にしたといわれている佐賀県も4月から県が受け取る事務経費分を5%から10%に引き上げています。利用が増えるほど料率も上がり、潤うのはふるさと納税サイトを運営するIT企業ばかり。

 ふるさと納税を利用した寄付金のバブルもそろそろピークアウトする時期でしょうか。

4、支出先上位にヘリ運航会社と広告会社

 PWJの上位取引先リスト(2019年度)をみると、お金をもたらしてくれるのは、外務省の補助金などを配分する官民連携組織のNPOジャパン・プラットフォーム、ふるさと納税の神石高原町など国内外の公的な機関ばかりです。

 

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支払い先の上位の2番目にPWJお抱えのヘリコプター運航会社が入っているのは驚きですが、同じ年間6千万円台の支払い先に非営利団体向け広報コンサルタントのgooddo(東京都新宿区)があるのが目を引きます。

  寄付を募るための「広告宣伝費」としてPWJがGooddoに払った金額は6137万円にのぼっています。

 例えば、gooddo制作のこの記事をご覧ください。寄付集めは、広告宣伝にお金をかけて行うビジネスだということがよくわかります。記事はそのまま広告だと思うと、わびしさを感じてしまいます。

 神石高原町は「NPOを性善説に基づいて支援する」(矢川利幸まちづくり推進課長)として、支出実績の報告は求めるものの、実際の使い道に細かく干渉したり、情報公開を指示したりすることはほとんどありません。

 しかし、町の名を使って集めた寄付金なので、厳しいチェックも時には必要でしょう。

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