「引退した犬猫は除く」~環境省が犬猫適正飼養上限値に「例外」規定を追加、決定過程はブラックボックス
1、上限値緩和採用せず
環境省がパブリックコメントを実施中の動物適正飼養のための数値規制案(省令案)のうち、従業員1人当たりの犬猫飼養頭数の上限値についてどうしてもわからない点が2つあります。
1つは、動物適正飼養管理方法等に関する検討会(武内ゆかり座長)の武内座長が報告にあわせて公表した提言が求めていた「上限値の強化あるいは緩和」という弾力的な運用案が不採用となったことです。
もう1つは、省令案の中で、その肝心の上限頭数について突如として「繁殖の用に供することをやめた犬または猫の頭数は除く」という一文が入ったことです。従業員1人当たり上限を繁殖犬なら15頭、繁殖猫なら25頭の内容がガラリと変わってしまうことをも意味します。
2、決定プロセスが不透明
いずれも非常に重要な決定です。環境省は、いったい何を根拠に、どんな議論をして決めたのでしょう?ひとことで言えば、決定のプロセスが「不透明」なのです。
環境省は、パブリックコメントの募集と並行して、省令案について全国で地方自治体やペット業者、愛護団体向けに説明会を開き、数値規制案が決まった背景や想定される運用方法などについて十分に説明をする必要があると思います。
まず、上限値の弾力運用についてみていきましょう。ペット販売業のうち繁殖業者(ブリーダー)を例にとります。
省令案の原案ともいえる前述の動物適正飼養検討会が8月にまとめた報告は、頭数について、犬は「1人当たり繁殖犬 15 頭、販売犬等 20 頭まで」、猫は「1人当たり繁殖猫 25 頭、販売猫等 30 頭まで」とし、さらに「親と同居している子犬・子猫は頭数に含めない」「課題のある事業者の上限値強化と優良な事業者の上限値緩和を検討する」としていました。
ところが、この上限値を強化したり、緩和したりする案は、環境省が10月7日に公表した省令案では採用されず、飼養適性化に努めれば、優良業者として上限値+αの頭数を飼養できると期待していた繁殖業者に失望が広がりました。
3、原則非公開の動物愛護議連がカギ
この点については、9月4日に超党派の動物愛護議員連盟のプロジェクトチーム会合で、ある出席者から環境省に対して「優良事業者への上限値緩和は必要ではない。20頭、30頭認めてしまうと、優良な飼い主は5頭とか6頭がせいぜいだと皆さんおっしゃるているときに上限値規制の意味がなくなってしまう」と質問をしていました。
その時、環境省の長田啓動物愛護管理室長は「制度的な難しさがある。緩和もどういう基準で緩和をするか、緩やかな基準なら意味をなさなくなってしまう。いまはまだ具体的な検討はできていないが、(意見を踏まえながら)検討をしていきたい」と答えました。
その質疑応答から1カ月で、上限値に幅を持たせて運用する案はお蔵入りすることになりました。超党派による動物愛護議連は、取材記者の傍聴は認められるものの、一般には非公開で行われ、議事録なども公開されていません。
環境省はその後省内で検討を重ねて、検討会座長の提言を不採用としたと説明していますが、どのような検討をしたのか詳細を明らかにしていません。武内座長は自らの提言がこれといった理由も示されないまま不採用となって、納得しているのでしょうか?
犬の繁殖業界の代表らは、1人当たり飼養頭数が15頭を超えても、スタッフがしっかりした技能を持ち合わせていれば、適正飼養が可能だと反論し、上限値を30人にして欲しいと要望しています。どのような比較検討を経たうえで、上限値の弾力運用を不採用としたのか、環境省は説明する責任があります。
4、引退犬猫は差し引いてOK?
上限値の強化や緩和を見送った上で、繁殖から引退した犬や猫は飼養頭数から除外すると決定して、省令案にも明記するのですから、いったい何を考えているのか私には理解ができません。親と同居する犬猫は除外することはすでに決まっていて、それに加えての例外規定です。
引退犬を除外することで、どのくらいの緩和効果があるのか、環境省は当然試算をしたものとおもいますが、ぜひ、その内容を公表して欲しいと思います。
繁殖犬15頭、繁殖猫25頭という数字さえあれば、その中身が例外だらけであっても構わないと環境省は考えたのでしょうか?引退する犬や猫の割合は業者によって、時期によっても様々だろうと思われます。
引退した犬や猫も譲渡しない限りは、繁殖業者の従業員が世話をします。環境省が言うように新しい数値規制が動物視点で考えられたものであるのなら、引退犬猫の世話をする従業員の数はどのように扱われているのか、しっかり説明する必要があるでしょう。