ピースウィンズ・ジャパンへの「ふるさと納税支援」を見直し協議中、愛媛県上島町
愛媛県上島町は27日夕、筆者からの質問への回答を寄せ、ふるさと納税による支援先として、大西健丞氏が代表者を務める2つのNPOとの関係を見直す方針を明らかにしました。
上島町ふるさと応援条例で「ふるさと納税」で支援するNPOの認定要件は「町内に主たる事務所を置く」とあるのに、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)も瀬戸内アートプラットフォーム(SAP、同、大西健丞理事長)いずれも主たる事務所(本部)は広島県です。
どちらも「ふるさと納税」で援助できるNPOとして扱うために必要な「町内に主たる事務所を置く」という要件を満たしていないことは明らかです。2019年12月の町議会で問題になり、ふるさと納税制度を担当する総務課長も町役場として初めて「疑義」があると答弁しました。
そこで私は2月25日に上島町役場に質問を送り、町議会の質疑で総務課長が表明した「疑義」などについて尋ねてみました。
総務課からの文書回答によれば、活動の実態があれば主たる事務所を置くNPOに準じる扱いをしてきて、その判断はいまも「適切であった」と考えているとのことです。
私は条例違反だと思いますが、それはジャーナリストの立場からは指摘するにとどめて、今後、議会や地元納税者が中心になって議論していただくことを期待します。
■PWJ、国際高等学校を開校できず
条例の運用としては適切だっのならそれに「疑義」が生じたのは何故でしょうか?
役場の説明では判断の決め手となるのはNPOの活動の実態で、2つのNPOのうちPWJは認定当時と比べて活動実績が減少していて、これまでのような運用を続けるのは難しいと考えているということです。
今後の支援のあり方についてはいまも協議を継続中で、結論は出ていないそうです。
PWJは2020年をメドにグローバルシチズンスクール(国際高等学校)を上島町に開校するなどとしてふるさと納税による支援を受けてきました。しかし、資金不足等により計画のメドは立っていません。看板倒れといっていい状態です。
広島県神石高原町などで取り組んでいる捨て犬事業は「ピースワンコ」と呼ばれていますが、この教育事業は「ピースワラベ」と呼ばれ、紛争や災害で被災した子どもたちが離島に住む子どもたちと一緒に勉強する場を作ることを目指しています。
■PWJは支援を自ら辞退しては?
PWJは地域創生のための投資や活動をすることを約束して、無人島の豊島にあるコミュニティセンターを無償で譲り受けたり、「海の駅」運営を受託したりしています。
上島町の宮脇馨町長は議会で「この段階で、これはおかしんじゃないかという、そういう感覚は全然持っておりません」と答弁していますので、今後も協力関係は維持したいのだと思います。
しかし、PWJが主たる事務所を上島町に移すつもりはなさそうです。看板倒れの事業を活性化する方法が見つかったとしても、これまでのように町役場独自の条例解釈を押し通すことができるでしょうか。
現行の条例のままでは、ふるさと納税によるPWJ支援は控えるべきで、むしろ法令を遵守すべきNPOの側から支援を辞退すべきだと思います。
■瀬戸内アートプラットフォームは本部転入か
もう一つのNPO、上島町の無人島、豊島(とよしま)でドイツ人現代アーティスト、ゲアハルト・リヒターおガラス作品を展示した美術館などを運営しているSAPは、「町内に主たる事務所をおく方向」と大西氏側は回答しているそうです。広島県神石高原町から愛媛県上島町に主たる事務所を移転して、条例の要件を満たす狙いでしょう。
問題はSAPの経営状態が極めて悪く、債務超過が続いている点です。
2018年度事業報告書によると、ふるさと納税から支給されたとみられる交付金収入は455万円で経常収益469万円のほとんどを占めています。年度町(2019年3月末)の正味財産は4510万円のマイナスです。
SAPはPWJから借りた資金で、大西健丞氏がスポンサーの援助を受けて会社を作り、実妹とともに手がけたものの経営が行き詰って売却していた高級宿泊施設「ヴィラ風の音」を買い取り、ふるさと納税で寄付した人への返礼品としてゲストハウス宿泊サービスを提供していました。
しかし、負債減らしのため2018年度中にゲストハウスも手放してしまったのか、公表された貸借対照表からゲストハウスの名前が消えています。
SAPは本部を置いている広島県神石高原町でも現代アートによる地域活性化を進めるとして、神石高原町でも「ふるさと納税」の支援を受けていました。
しかし、2018年度事業報告書によると「神石高原ティアガルテン」での現代アート作品の展示は資金的なメドが立たず設計等の準備作業を休止しています。
2019年度からは神石高原町のふるさと納税支援対象からも除外されました。総務省による「ふるさと納税」制度の見直しがあり、地元産の返礼品を提供できないSAPは支援申請を取り下げざるを得なくなったのです。
それにしても、SAPは債務超過をどのようにして抜け出すつもりなのでしょう?
PWJやSAPの有力スポンサーである投資家・村上世彰氏の関係者や大西氏と親しい代議士らが豊島ゲストハウスを訪問することもあるようで、大西氏の別荘のように利用されているような印象も受けます。その利用に公私混同はないか、質問をSAPに送っても回答はありません。
これまでの損失を寄付金(ふるさと納税交付金)で解消するのなら、支援者にもわかるようにふるさと納税サイトなどでもその事実をしっかり説明すべきだろうと思います。上島町の支援が継続されても前途は多難です。
■ふるさと納税支援、過去の運用は「適切だった」
上島町からの回答は以下の通りです。
問 どのような「疑義」が生じてきたのでしょうか。団体に確認した結果どのようなことが判明しましたか。
答 ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)及び瀬戸内アートプラットフォーム(以下、SAP)につきましては、本町に従たる事務所を有していること及び、認定当時、PWJについてはヘリコプターを活用した医療の提供を行い、SAPについては、団体の活動の中心が本町豊島にあることなど、町内の活動実績を鑑み、上島町ふるさと応援条例第2条で規定する「主たる事務所を置く特定非営利活動法人」に準ずるものとして、ふるさと納税による支援対象としてきました。
しかし、特にPWJについては認定当時と比べ、本町での活動実績が減少していることから、従来通りの解釈による運用に「疑義」が生じました。
問 「主たる事務所」があるとみなした判断は適切でしたか?
答 当時の団体の活動実績を鑑みれば、「主たる事務所を置く特定非営利活動法人」に準ずるものとして支援を行った判断は、適切であったものと考えています。
問 宮脇町長は議会答弁で「上島町にも支部を開設する形で本格的に取り組んでほしい」と要請する考えを表明していましたが、PWJ等とはどのような話し合いが行われたのでしょうか?結論が出ていれば教えてください。
答 SAPについては、町内に主たる事務所を置く方向で前向きな回答を得ています。PWJについては、今後の支援のあり方について引き続き協議を行っており、結論は出ていません。
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