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有識者検証会は農林中金の課題を検証できるだろうか?②外債売却で「好決算」装い、組合員の資本を食いつぶす
農林中金の投融資・資産運用に関する有識者検証会の会合は非公開ですが、第1回会合のあと、議事概要を公表しました。
それによると、「外国中央銀行の利上げ時の対応に機動性がなかったのではないか」という意見のほか、「市場運用体制に係るガバナンスが堅牢なものと見受けられるが機能が適切かどうか」「農林水産業者、食品関連業者への投融資を増やしていくべきだ」「貸付限度額の引き上げなど民間制度資金(農業近代化資金等)の改善を図って欲しい」という意見もあったそうです。
これらをまとめて議論するのですから今後もおそらく、これまでのメディア報道をなぞるような、中途半端な議論にとどまってしまいそうな予感がします。わざわざ農林中金の3人の代表理事を出席させ、金融庁長官にもオブザーバーとして傍聴させるのなら毎回、もっと論点を絞って掘り下げた議論をしてほしいものですね。
公開情報からもわかる農林中金の摩訶不思議な動き
米国の利上げ時の対応について、公開情報をみるだけでも農林中金の運用姿勢の異様さがよくわかります。
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表は、農林中金と三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)の決算関係資料を過去5年分遡って調べ、外国債の処分状況を筆者がまとめてみたものです。
赤字で記したようにMUFGの外国債売却額が最も大きかったのは2020年度で、その金額は何と31兆円にのぼっています。新型コロナの流行で、米国連邦準備理事会(FRB)が大規模金融緩和を実施し、金利が最低水準で推移していたので、米国債がもっとも高い値段で売ることができた時期です。
上段の農林中金による外国債売却のピークは2年遅れの2022年度であることがわかります。ピークといっても売却額は10兆円程度です。ご存じの通り、この時点で米国は連続利上げに動いていて、債券の値段は下がるわけですから儲けができにくくなっていた時期です。
「大きすぎて機動的に動けない」はウソ
農林中金が赤字に転落する要因について、「運用資産が大きすぎて市場への影響も大きく、機動的に資産を入れ替えられなかったからだ」とか「大きすぎて機動的に動けない」とする見方もあるようですが、大きな間違いであることは、このMUFGとの比較でおわかりいただけるでしょう。
MUFGの連結総資産は403兆円(2024年3月末)もあります。農林中金の連結総資産99兆円の4倍以上ありますが、かなり大胆に資産を入れ替えてきているのです。
この表からさらに疑問として浮かび上がってくるのが、2020年度のようにMUFGが利益と損失を差し引きして売却益を出しているときに農林中金が売却損を出し、逆に2022年度、2023年度のようにMUFGが売却損を出しているときに農林中金が売却益を出していることです。
外国債売却で利益操作をした疑い
そしてまた、2019-2023年度の5年間累計でみると、MUFGは1兆円を超す売却損を計上しているのに、農林中金の売却損は実は400億円余りにとどまっているのです。
この点は私の推測ですが、農林中金は利益が出ている外国債の処分を優先して、目先の好決算を取り繕うことを続けてきたのではないでしょうか?「上がった金利が間もなく下がる」という期待を持ち続けて、その場しのぎの決算を続けていたと推定できます。
外国債の処分で大きな損失は生じなかったように見えても、実は含み損が急拡大していたわけです。もちろん、目先の好決算を装ったとしてもウソの数字を並べたてる「粉飾」とはまったく異なり、法令に違反するものではありませんが、運用資産の管理の方法としてはかなり不健全な手法だと言わざるを得ません。
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MUFG、農林中金の連結決算のバランスシート、純資産の部をみれば、両社の違いが際立っています。すなわち「その他有価証券評価差額金」の欄を見ると、MUFGは1兆5340億円の黒字、農林中金は1兆8169億円の赤字です。金融機関としての健全性を保ちたいなら十分なゆとりをもって債券投資に取り組むべきです。
農林中金に求められるのは、組合員が拠出した資本を食いつぶしていくような安易な証券投資をその根っこから見直すことなのです。