「引退犬猫も規制を」と要望する日本動物福祉協会~深まるナゾ、環境省と超党派動物愛護議連が「引退犬猫」除外に固執する理由
動物好きなら公益社団法人日本動物福祉協会(JAWS、東京・品川、黒川光隆理事長)という団体の名前を聞いたことがあるかもしれません。
動物を虐待から守り、あらゆる「いのち」にやさしい社会を築いていくため、1956年に創立した協会です。
ホームページの説明通り、JAWSは動物を大切に扱おうという啓発活動を長年、地道に続けてきた団体です。私も日経記者時代、地域研究誌「日経グローカル」で20ページほどの動物愛護特集を執筆した際、この団体にうかがって勉強をしたことがあります。
協会には獣医師の調査員もいて、学者ら研究者とのネットワークも構築しています。数値規制のあり方について、環境省の動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(座長・武内ゆかり東京大学大学院教授)のヒアリングに呼ばれた「動物との共生を考える連絡会」の幹事団体の1つです。
そこで私は、10月に環境省が示した犬猫の適正飼養のための数値規制(基準)について、JAWSがどう考えているのか尋ねてみました。回答してくれたのは調査員の町屋奈(ない)・獣医師です。
問 動物との共生を考える連絡会が2月に提出した基準案で「スタッフ1人あたり犬15頭まで」とありました。繁殖引退犬猫を含むか含まないかでかなり大きな違いがあると思いますが、この基準案においては「引退犬猫」はどのように扱う想定だったのでしょうか?
答 (環境省に示した基準案をJAWSの)学術ネットワークで作成した際には、現役、引退などのような括りが生まれるとは想定をしていませんでした。業者が所有している犬猫すべてに対して、所有者としての責任が生じること前提で作成しております。
しかし、残念なことに環境省の基準案の頭数制限が現役犬のみ対象となると発表されましたので、そこから、当協会学術ネットワークメンバーで8月6日と9月15日に環境省にお伺いをして、現役犬猫以外の犬猫の飼養管理についての要望をしております。(その要望内容は当協会のHPに掲載しております。)
私もうかつでした。ホームページの「動物関連事業トピックス」にJAWSの要望や意見など関連資料がすべて公開されていることを知らずに問い合わせてしまったのです。
JAWSの回答はさらに続きます。
答 これは非常に重要な問題だと考えておりますので、パブコメでも以下のようにしつこく提言しております。(こちらのパブコメもHPに掲載しております。)
◎繁殖犬猫及び販売犬猫以外の施設内にいる犬猫の取扱いについて
繁殖及び販売に使われている犬猫だけでなく、施設内にいるすべての犬猫に対し て、当該基準の飼養施設の設備構造・規模、管理を適用すべきである。また、繁殖・ 販売で使用されている犬猫以外の犬猫に対しても、行政職員が視察立ち入りできると すべきである。
理由:施設内には、飼養頭数制限の対象となる犬猫のみがいるわけではない。引退した犬猫だけではなく、レンタルに使用される犬猫やその他多様な理由で置かれている犬猫も多い。「レンタル」と称して飼養している犬猫を登録せずに交配させ繁殖に使う、引退したとする犬猫を繁殖に使う、あるいは規制の対象ではない犬猫は不適切及び劣悪な環境で飼養する等が今後の問題として考えられる。
全動物に対して適正飼養を徹底し、譲渡適正な個体が増えることで、動物の健康と福祉が増進し、管理の質が向上すれば引退後の譲渡促進にもつながると考えられる。
◎本法施行直後に生じる「行き場のない犬猫」の処遇について
繁殖に使っていない犬猫については「譲渡」と安易に考えられている風潮に多大な懸念がある。今まで人や他の動物との適切な社会化もなく、閉じ込め型の飼養しかされていなかった動物、特に犬は、一般家庭への譲渡に不適な場合が多い。そのため、本法施行直後に生じる「行き場のない犬猫」の処遇について、譲渡以外の方法等も検討しなければならない。事業主で終生飼養するにしても、繁殖に用いた犬猫にのみ本法が適用されないのならば、ペットと称して不適切な環境に置かれても、規制の対象にならなくなる。動物の健康および福祉を守るためには、1 で述べた、「施設内の全ての動物に対する」対策が必要不可欠である。
JAWSが8月6日に提出した意見書は、「従業員2名の繁殖施設で繁殖犬と引退犬合わせて100頭いた場合、視察時に適当な30頭を繁殖犬と申告することもでき、残り70頭を繁殖等に使用されることが懸念される」と指摘しています。
繁殖から引退した犬猫を従業員1人あたりの飼養頭数制限の対象にしないという環境省や、それに同調する犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(会長・尾辻秀久参院議員)とは大きく異なる立場です。
環境省や動物愛護議連は、JAWSの指摘にどう答えていくのでしょう?
環境省も実は7月10日に専門家検討会が1人あたり飼養頭数の上限値案を提示した時点まで、現役・引退の区分けを明確にせずにいたと証言するペット業界関係者がいます。犬のブリーダーの場合、1人あたり15頭が上限と知って驚いた業界側は緊急アンケートを実施して、大量の廃業や行き場を失う犬猫が発生するというデータを示したころから、環境省が「引退犬猫を対象としない」という判断に傾いた可能性があるのです。
実はブリーダーの側にも環境省や動物愛護議連が「引退犬猫を除外する」という方針をとっていることに、戸惑う声が出ています。政治力を使って抜け道を作っているとみられるのは必至だからです。
ただ、引退犬猫を含めて同じ施設内にいる犬猫を同じように規制すべきという点でブリーダー側とJAWSの考え方は一致しています。ブリーダーの施設内には、引退した犬猫や繁殖予備群(またはお休み中)の犬猫の数も結構いるようです。監督する側からみても、引退犬猫もまとめて飼養環境を調べるほうが単純でわかりやすいような気がします。
ペット業界中心に組織された任意団体、犬猫適正飼養推進協議会は「1人あたり30頭」を要望していて、これはこれでJAWSとも大きな対立点として残りますが、「引退犬猫を規制から外す」という動物愛護議連や環境省の想定する頭数とは案外接近しているのかも知れません。
以前にも紹介したことがありますが、国に先行して自主的な頭数の目安を採用している岡山県動物愛護センターは、1人あたり小型犬なら30頭で、大型犬になると頭数はそれより少なくするよう指導しています。ひとりで何頭までなら許容できるのか、自治体も業界も愛護団体もまだ手探りです。
筆者は岡山県のような方式でスタートして、徐々に調整してもよいのではないかと思います。もう10年近くも運営している実績があるそうです。生き物を扱う規制です。くれぐれも冒険は避けて欲しいと願わずにいられません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?