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大中型まき網優遇案「記載者は不明」と水産庁~太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に監視が必要⑨


まき網2000トン、その他2007トン


 前回の続きです。2015年から年間4007トンへと基準期間(2002-04年)の平均漁獲実績の半分に削減することとなった太平洋クロマグロの小型魚(30キログラム未満)の漁獲量を、大中型まき網に2000トン、そして定置網、ひき縄、はえ縄、流し網などその他の漁業を全部をひっくるめて2007トンと割り振ったのはいったいだれなのでしょう?

 2014年に水産庁が設置した資源管理のあり方検討会の櫻本和美座長(東京海洋大学教授=当時)は「議論した記憶がない」と説明し、実際、議事録を読んでも委員たちが話し合った記録はありません。

事務局を務めた水産庁が委員たちに意見を求めることもなく、勝手に書き込んだのではないか?

 それが私の見立てです。

 水産庁の魚谷敏紀・資源管理部長に問い合わせを送ったところ、部下の番場晃・資源管理推進室課長補佐から電子メールで回答が届きました。

質問1 検討会とりまとめにある漁業種類別配分(注記)はいつ、誰が記載したものですか?

回答1 水産庁ホームページに掲載しているとおり、漁業種類別の漁獲上限の情報は、第5回の検討会の資料2「資源管理のあり方検討会取りまとめ(案)」で記載され、修正意見なくとりまとめられたものです。既に資料作成から10年以上が経過しているところ、原案の作成過程において、いつ誰が記載したかは、現存資料からは確認できませんでした。なお、当該資料は「資源管理のあり方検討会」のとりまとめであり、水産庁内で決裁が必要となる資料ではありません。

質問2 検討会で配分案が示され、委員たちが議論した記録はありますか?

回答2 議事録にそのような記録はありませんでした。

電子メールによる水産庁とのQ&A

クロマグロ担当は神谷崇氏


 10年前のことですから、魚谷部長も番場課長補佐も当時この配分問題に直接かかわっていたわけではありません。その点、彼らに責任はありません。

 しかし、筆者のような外部のジャーナリストならともかく、配分のように漁業者の収入を左右するような重要な問題がどのような経緯で決められたのか、それを決定した官庁の担当者たちもよくわからないというのは由々しきことであると感じます。

 そこで、当時、櫻本氏らの検討会でも司会・進行係を務めていた黒萩真悟資源管理推進室長(現在は退職し、漁業情報サービスセンター会長)に問い合わせました。

 黒萩氏の説明によると、検討会の取りまとめにあたって黒萩氏が所管したのは「フグ」の資源管理に関する事項で、クロマグロは神谷崇参事官(当時)が受け持っていたこと、そして、とりまとめの文書化は資源管理推進室の猪又秀夫課長補佐(現在は東京海洋大学教授)が受け持ったとのことでした。

 だれの発案で、取りまとめの中に小型クロマグロの漁獲配分案が「注」として記載されたのか、猪又教授にも問い合わせましたが、残念ながら説明していただくことはできませんでした。取次窓口の海洋大総務課広報係を通じてこのような返事が来たのです。

「ご連絡戴いた樫原様からの取材依頼は、東京海洋大教授としての私の研究に関してのものではなく、私が過去に水産庁の行政官として関与していた水産政策に関するものと理解します。私は現在、農林水産省からの出向という形で本学で勤務しており、国家公務員の身分を維持しています。よって行政機関において私が過去に関与した政策について自由にお話しできる立場にはありません。また政策に関する取材であれば、過去のものであっても政府担当部局が対応すべきものと考えます。以上より、今回は取材をお受けすることはできかねます。このような事情について樫原様にご理解いただけますと幸いです」

東京海洋大学広報を経由して届けられた回答

水産庁は経緯を調べ公表を



 大学で教員として漁業政策などを論じる立場になっても自由に話すことができないというのは非常にお気の毒な立場といわざるを得ません。水産庁と東京海洋大学はこのように人事を通じても持ちつ持たれつの関係にあることが多いため、なおさら互いの立場を忖度する場合も多いのだと想像します。

 猪又教授が言うように政府担当部局にはしっかり経過を調べて回答していただきたいと思うばかりです。

 水産庁内でも、外部識者による検討会でもしっかりした議論をした形跡のない配分案を、あたかも決まったことのように報告文書に忍び込ませるなんて、漁業者はもとより、国民を愚弄する、不遜な行為ではないかと思えてきます。

 水産庁は、クロマグロの漁獲量配分のスタート地点にあるこの「疑惑の配分」が決まった経過について、当時の関係者にも事情をしっかり聴いて、世間に公表すべきだと私は思います。(続く)

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