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上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制④デタラメな分析で業界実態を説明〜官僚の罪深き「その場しのぎ」答弁

1、悪質業者とはだれのこと?

 環境省が2021年6月に導入する犬猫適正飼養に関する数値規制の狙いは、悪質な販売業者にレッドカードを出しやすくすることにあります。

 では、その悪質業者がどのくらい存在すると想定しているのでしょうか?

 「実態調査が足らないと感じます。どのくらいのデータをお持ちであって、提示できるものがもし、あるのであればしていただきたい」

 10月7日に開催した中央環境審議会動物愛護部会で、全国ペット協会の脇田亮治専務理事は環境省に実態を調査し、説明するよう迫りました。

2、ひと握りとは言えない数

 長田啓動物愛護管理室長は反論します。しかし、残念ながら内容は抽象的でした。

「不適切事業者というふうに私どもは考えているのは、現行状態で基準を満たさず、かつその基準を改善していく意思がない、よりよい飼養管理を実現していこうとする意志のない事業者(中略) 決して、割合として非常に少ない、極々一握りの事業者というふうには言い切れない」

 「悪質ブリーダー」とは言わず、ここでは「不適切事業者」と言い換えています。

3、定期報告の分析を怠る

 環境省は都道府県などに対し、第1種動物取扱業者から毎年、動物販売業等定期報告を集めるよう求めています。

 自治体により繁殖リタイア犬猫の書き込み欄が一定しないという問題も明らかになっていますが、都道府県を通じて情報を集めれば環境省は相当程度、ペット流通業界の経営実態をつかむことができるはずなのに、具体的なデータを示せないのです。

 定期報告を活用するかわりに長田室長が持ち出したのは、シリーズ③でも紹介したように犬猫のブリーダー(繁殖業者)からFAXで送られてきた要望書、意見を環境省側が集計して分析した資料でした。

 「そのファックスの中には飼養している家族と、それから雇われている方の人数、そして雇われているパートさん等の労働時間が書いてありました。それを基に計算してみますと、これではやっていけないとおっしゃっている方の中でも、半分ぐらいは現在の基準を満たしているというようなこともございます」

4、「半数は基準満たす」~業者FAXを分析

 環境省が情報公開請求に応じて開示した行政文書「飼養管理基準に係る事業者からのFAXの集計結果」と同じくその元となる「集計表」から紹介します。

 集計表によれば、数値規制のうち従業員1人当たりの飼養頭数の上限(犬:繁殖犬15頭、販売犬等20頭まで、猫:繁殖猫25頭、販売猫等30頭まで)が公になって以降、環境省にブリーダーから送られてきたFAXによる意見書は243業者から届き、そのうち168業者については飼養中の犬猫(成犬)の頭数やスタッフ数、勤務時間などの経営情報が記載されていたということです。

 長田室長が「半分ぐらいは現在の基準を満たしている」という根拠は、「1人あたりの飼養頭数(犬)(家族・スタッフを含む事業者)という円グラフ(写真参照)にあります。

 犬を例にとると、無回答(0頭)の12業者を除く156業者の1人あたりの犬の飼養頭数を5頭ごと(小数点以下は切り捨て)の階層別にみると、0~5頭が24業者(15.4%)、6~10頭が29業者(18.6%)、11-15頭が27業者(17.3%)となります。

 つまり、15頭台まででおさまっている業者数は80となります。これをもって、環境省は「1人あたり頭数15頭までの事業者は全体の51%」と説明しています。

 そうしたデータをもとに長田室長は審議会動物愛護部会で「これではやっていけないとおっしゃっている方の中でも、半分ぐらいは現在の基準を満たしている」と、新しい数値規制にかなりの業者が対応済みであるかのような説明をしていました。

5、問題多い環境省室長答弁

 しかし、これは委員たちや審議会を傍聴する人たちを欺きかねない問題の多い答弁だと私は思いました。

 仮に「51%」が1人あたりの頭数制限の基準を満たすことができたとしていても、残る49%の業者はみな「悪質業者」の候補リストに入れられてしまうのです。

 しかし、その多くは、いままで一度も行政から勧告を受けたこともない業者であり、軽微な口頭による注意や指導を受けたこともない業者も多いとみられるのです。(この点は後日、環境省による過去のアンケート調査結果から詳しく紹介したいと思います)

 そして、そもそもこのデータは200にも満たない業者から一方的にFAXで送られてきた情報がもとになっていて、その内容が真実である保証もありません。

 そんなものと言ってしまうと語弊がありますが、「偏り」や「虚偽」があるかもしれないデータをかなりの時間を投入して集計、分析して省内に回覧する余裕があるなら、法律に基づいて地方自治体に報告させている販売業者の定期報告をもとに緊急調査を実施し、一般にもその結果を公表すべきなのです。

 自治体の手である程度確認可能な公式なデータをもとにした業界構造の分析なしに政策を打ち出すのは間違いのもとです。

 3点目は繁殖犬「15頭」の取り扱いです。業者のFAXはすべて「成犬」の頭数ということですが、コメント欄からもわかるように繁殖から引退した犬(リタイア犬)を含む頭数のようです。

 環境省令案でいう繁殖犬15頭からはリタイア犬を除外することになっているのですが、この計算の仕方からもわかるように環境省がかなりいい加減に「15頭」という表現を使っていることがわかります。

 もちろん、業者から送られたFAXのデータから引退犬を除けば、15頭以下におさまる業者の割合も増えることになりますが、集計結果をもとに審議会で発言するならそこまで精査したうえで、引退犬を除外する効果の可視化を図るべきでしょう。

6、統計なくして政策なし

 何度でも強調しますが、「統計なくして政策なし」です。

 新しい規制を実施する場合には、その効果や影響を慎重に推し量りながら進めなければならないことを、環境省の官僚たちもわかっているはずなのに、どうして手を抜くのでしょう。

 ペット業界は空前の価格高騰で儲かっているのだから、文句を言わず従業員を雇え、価格なら高止まりしたってかまわない、と叩く朝日新聞Sippoの大田匡彦記者や、そのシッポをつかんで同じようなことを声高に叫ぶ塩村あやか議員ら超党派愛護議連の一部のメンバーににらまれて怯えているのでしょうか?

 調査する権限も分析する優秀なスタッフもそろっているのに、その場しのぎの説明に汲々としているのが実態のようです。

 (見出しの「罪深き」は、官僚のことではなく、「その場しのぎ」という行為を指します。念のため置き換えました)

 次回もこの集計結果の解説を続けます。

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