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姑息な配分案「でっちあげ」、決裁は後回しという危うさ~太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に監視が必要⑩

 私の手元に2014年6月2日に北海道・函館市で開催された水産庁による太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性に関する説明会の様子を伝えた日刊水産経済新聞の記事があります。説明会3日後の6月5日付の記事の存在を知り合いの漁業者が教えてくれました。

 記事によると、函館市での説明会には渡島、檜山、胆振、日高管内の漁業者ら約60人が出席しました。農林水産省の宮原正典顧問(当時は水産総合研究センター理事長)が主に説明にあたったということです。

 宮原氏は今日に至るまで中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北委員会の共同議長を長く務めている国際交渉のベテランです。彼は太平洋クロマグロは5歳(90キログラム程度)ですべての個体が成熟する魚であるにも関わらず、100%近くが未成魚のまま漁獲されている日本のマグロ漁業の実情を説明し、「卵を一回産ませてから漁獲しないと、資源は再生産していかない」と成熟途上の小型魚の保護の必要性を訴えたということです。

配分案、農水省顧問が漁業者に説明


 同氏はさらに日本として30キログラム未満の小型魚の漁獲量を基準期間(2002-04年)の平均実績から半分に減らすことを訴えていく考えを説明したうえで、国内対応として基準期間実績の8015トンから4007トンに減らし、その内訳として大中型まき網に2000トン、その他漁業に2007トンを割り振る案を示していました。

 2014年7月1日にまとまった資源管理のあり方検討会「取りまとめ」に欄外の「注」として記されていた太平洋クロマグロ小型魚の漁業種類別の配分案は、それに先立つ漁業者との意見交換の場で、当時の水産庁長官も知らない、資源管理部長も了解していないかもしれない案がさも既定方針であるかの如く説明されていたのです。

 記事によると、宮原氏はこうも語ったようです。

「まき網漁業で非常に大きな削減をするが、生き残って北上する魚をどうやって獲れないようにするかが課題」

「皆さんと相談しながら資源管理の効果を確実なものにしなければいけない」

漁業者からは異論、反発の声

 大中型まき網漁船のクロマグロの小型魚漁獲は西日本の九州沖合でのものがほとんどです。まき網漁の抑制で生き延びた小型魚を日本海の北の方で、定置網や釣り漁船が獲らないよう沿岸漁業も制限する必要があることを訴えたのでしょう。

 これに対して漁業者からは反発の声があがっていました。例えば、定置網漁業者からは「マグロだけが網に入るわけではないので、生きたまま逃がすのは実質的に無理。網を上げろという規制だけはやめてもらいたい」という意見が出ました。

 また、はえ縄漁業者からも「西日本のまき網が具体的にどんな削減方法をするのか、はっきりさせないと、浜を納得させるのは難しい」「まき網の漁獲をきちんと確認することも徹底すべきだ」という意見が出ていました。

 資源悪化はまき網漁船による小型魚乱獲によるもので、まき網漁船による小型魚漁獲を徹底的に減らすことが第一のはずだからです。沿岸漁業者が漁獲制限に協力を求められるとしても大中型まき網漁船に対してまだまだ甘すぎるという声が一般的だったわけです。

 こっそり示した配分案に漁業者が難色を示していても水産庁はそうした状況を検討会の委員らに伝えず、そしてまた当然のことですが、検討会に案を示してその意見を聞くこともなく「取りまとめ」に配分案を忍び込ませたのではないでしょうか?

 この通りなら水産庁の職員たちは罪深いことをしたことになります。座長も知らぬ間に合意をでっちあげる工作は姑息であり、行政としては危険な行為でさえあると思います。

出自の怪しい配分案は撤回すべき


 そんな出自の怪しい配分案にもかかわらず、現時点においても水産庁は「修正意見なくとりまとめられたもの」だと説明しています。

 何度も繰り返しますが、いまもなおアメリカは太平洋の西側、つまり日本周辺の海で1990年代に大中型まき網漁業が小型魚の漁獲量を急増させたことの責任をとるよう求めていて、漁獲量の増枠は太平洋の西側より東側を大きくするよう主張し続けています。

 日本の水産庁はそうした国際会議の様子を詳しく国内の漁業者に伝えることもしないで、まき網は一定の責任を果たしたかのような説明に終始しています。

 資源管理のあり方検討会「取りまとめ」の「注」にこっそり書き込んだ小型魚の漁獲配分案について、宮原正典氏、神谷崇氏はいまどんな気持ちでいるでしょう?

 こんなやり方をいつまでも放置していていいわけがありません。いまからでも2015年の小型魚配分を撤回し、配分を見直す必要があると思います。

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