「殺処分ゼロ」めぐる迷走~広島県の保護犬譲渡はエンジェルスが5割超、「ふるさと納税」のピースワンコは失速
1、8割から3割にシェア下がる
広島県動物愛護センターから2020年度の団体別譲渡状況を記録した行政文書が開示されました。2020年4月から12月末までの9カ月分のデータで、途過ですが、保護犬の譲渡先で最も頭数が多いのは459頭を引き取った動物愛護団体エンジェルス(滋賀県高島市)でした。全体に占める割合は57.7%で、半分を超えています。
2016年度に「広島県内で殺処分対象となった犬を全頭引き取り、殺処分ゼロを実現する」と宣言し、全国から多額の寄付を集めてきたピースワンコ(広島県神石高原町)の実績は12月末までで263頭、割合も33%にとどまっています。ピーク時2017年度の1250頭、81.6%から激減し、影が薄くなっています。
2、全頭引き取りの失敗
ピースワンコを運営する認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)は、2019年以降、自治体から引き取る保護犬の頭数に毎月上限を設定し、「殺処分対象の犬の全頭引き取り」は中止しています。上限設定の意図などは積極的に公表していませんが、神石高原町「ふるさと納税」のサイトに掲載した事業報告にはその事実が簡単に記述されています。
エンジェルスは広島県などから引き取った犬や猫を琵琶湖近くのシェルターや大阪市内の事務所で里親希望者に譲渡しています。自前の動物病院を持ち、不妊去勢手術と血液検査を計2万5千円(犬)で行い譲渡します。「子犬中心に引き取っているため里親が見つかりやすい」(林俊彦理事長)という利点もあるようですが、2020年度は成犬の数も増えています。
ピースワンコは2016年4月から子犬・成犬を問わず殺処分になりそうな犬を全頭引き取っていました。しかし、受け入れ体制不備のため2017年には狂犬病予防法に基づく犬の登録や予防接種が大幅に遅れる事態を招き、翌2018年には狂犬病予防法違反容疑で広島県警の捜査を受けました。
3、こっそり消えたリーダー
「全頭引き取りによる殺処分ゼロの実現」はスタートから2年と持たずに実質的に崩壊していたのです。
PWJの大西健丞代表理事の夫人であり、ピースワンコ創設者・プロジェクトリーダーだった大西純子氏は、狂犬病予防法違反などの法令違反が明るみに出た後、いつの間にか責任者の立場を降りてしまいましたが、その理由なども一般には周知していないようです。
現在はピースワンコの犬を訓練するトレーナーとして、災害救助犬などを連れて被災地に乗り込んだりしています。公益性の高い認定NPOの活動ですから公私混同や利益相反が生じないよう大西純子氏の役割や報酬などに関してもう少し詳しく説明を加えて欲しいところです。
4、譲渡困難な犬が滞留
広島県はピースワンコによる法令違反を契機にエンジェルスへの譲渡を増やし、ピースワンコに譲渡する犬は引き取り手が見つかりそうにない「譲渡不適格な犬」に限定する方針を決めました。その結果、ピースワンコは2018年度以降、子犬の引き取り頭数を大きく減らし、子犬引き取りがゼロとなる月もありました。
最近は「全頭引き取り」とか「殺処分ゼロを●●日間継続中」等の表現は控えるようになったようです。しかし、「全頭引き取り」の中止や不妊去勢の実施など、当初の方針から大きく変わったことを知らない支援者も少なくないとみられ、ピースワンコは寄付集めにあたって丁寧に事実を説明していくべきだと思います。
もともと譲渡適性がないと判断され、殺処分対象になりそうな犬を中心に引き取るため、訓練が行き届かず、首輪装着も困難な犬が多数いるようです。里親がみつからないままシェルターに滞留する犬も多く、これが2019年からの引き取り頭数制限の原因にもなっているとみられます。
5、安楽死処分は受け入れ
環境省が新しい動物愛護管理基本指針で殺処分ゼロを目指す対象を譲渡適性のある犬に絞ったため、広島県はピースワンコ向けの譲渡適性のない犬の引き渡しを2020年2月から中止し、県動物愛護センターで薬物を使って致死処分する方針に転換しました。これもピースワンコの犬の引き取り頭数が大きく減った要因になっているものとみられます。
ピースワンコも広島県の方針変更を受け入れていて、ピースワンコが目指す「殺処分ゼロ」は「治癒見込みがない病気や譲渡に適さない等として愛護センターの判断で安楽死対象となった犬以外の殺処分をなくす」という意味だと解説しています。
広島県動物愛護センターからの犬の譲渡頭数は2019年度に1097頭と前の年度より20.5%減っていますが、おもに譲渡適性のない犬が致死処分されたためで、収容頭数そのものは高止まりでした。
ただ、子犬の頭数減少に続いて、成犬の頭数減少の兆しもうかがえます。広島県動物愛護センターは「子犬の捕獲、収容に力を入れてきたので、親犬になる野犬の数が減っていると期待したい」と言っています。目撃情報、捕獲情報をもとに専門家の力を借りて、野犬の生息状況を分析し、今後、犬の収容動向の予測に生かす予定です。