見出し画像

「恣意的なイジメ、優遇はない」と水産庁資源管理部長~太平洋クロマグロの漁獲量配分に監視が必要⑯


大型魚48.9%、まき網シェアは低下


 水産政策審議会資源管理分科会が11日開かれ、2005管理年度の太平洋クロマグロ漁獲可能量(TAC)の配分案を了承しました。内容は2日前の9日に漁業者向け説明会で示したものと同じです。

 配分案は中西部大西洋まぐろ類委員会(WCPFC)が決めた大型魚50%、小型魚10%の増枠分に関して定置網など沿岸漁業(都道府県管理)に重点的に配分することを基本としてまとめられています。

 その結果、大中型まき網のシェアは30キログラム未満の小型魚で33.7%から27.2%へ、30キログラム以上の大型魚で58.1%から48.9%へと低下します。


12月9日、太平洋クロマグロTAC説明会配布資料より抜粋

 太平洋クロマグロの資源状態を悪化させた犯人である大中型まき網漁業への増枠配分はゼロでもよいとする意見が近海はえ縄漁業などから出されていました。

関係者が成果を分かち合うべき

 しかし、水産庁は漁獲抑制に取り組んだすべての関係者がその成果を分かち合うべきだとする立場でした。結果として、小型魚の増枠はゼロですが、大型魚は14%増となりました。

 水産庁の説明では、配分にあたって大型魚の漁獲可能量の増加分2807トンのうち国が留保する50トンを除いて、都道府県の沿岸漁業に半分の1378.5トンを割り振り、また、2025年の配分(基礎配分案)は大中型まき網4116.3トンに対し、近海はえ縄漁業(かつお・まぐろ漁業)や沿岸漁業の合計量は4154.5トンとなり、大中型まき網より少しだけ多くなりました。

 大臣許可漁業には1月から12月の暦年で漁獲量を配分していて、個別漁獲割当(IQ)の通知も控えているという時間的制約もあって、資源管理分科会はこの配分案を了承しました。

 ただし、委員からはたくさんの注文がついています。今回は「時間切れ」でやむを得ないが、次の見直しに向けて、きちっと考えて欲しい、という意見がいくつか出たのです。

過去の配分に「反省」を求める声

 水産庁に過去の政策の失敗を認め、反省するよう求めたのは全国近海かつお・まぐろ漁業協会理事の齋藤徹夫気仙沼漁協組合長です。

 「かつお・まぐろ漁業への配分は2018年のTAC開始時に2002-04年実績の4分の1に削減され、納得できないという声が多数ある。直前(2015、2016年)の漁獲実績が悪かった事情などあるだろうが、激変緩和があってよかったはずだ」

 齋藤氏はそう発言しました。

 水産庁による2018年TACの配分は「公序良俗に反する」と言ってもよいくらい社会的妥当性を欠く内容でした。配分決定後、批判が噴出し、自民党水産総合調査会も事態を収拾するためクロマグロ配分問題について集中的にヒアリングを実施したほどです。

 水産政策審議会も放置できずに「くろまぐろ部会」を創設し、自民党の議論を引き継いで配分を微調整しました。

 その際、当時の近かつ協会長も「くろまぐろ部会」に参考人として呼ばれ、配分量を当時、国別配分の基準として採用されていた2002-04年当時の実績の4分の1以下に減らされたことを「近かつイジメだ」と表現していました。

2018年9月28日「くろまぐろ部会」議事録より抜粋

 小さな枠に閉じ込められた200隻以上の近海はえ縄漁船の間では先獲り競争が過熱し、国際機関に提供する資源評価用の標本データも採取できない事態を招きました。水産庁は調査枠という名目で漁獲可能量を追加配分しましたが、焼け石に水でした。

情報にうとい漁業者を操る?

 はえ縄漁業への過少配分という背景をよく理解できていないと見受けられる同じ漁業者代表の審議会委員から「我々沿岸漁業の枠を分けてやっているのに、データ採取に協力せず先獲りにうつつを抜かしている」という趣旨の批判を近海はえ縄漁業者は受けてきました。

 経過を観察していると、水産庁はこうした事実誤認、誤解により増幅される漁業者同士の不信感、対立を利用することが上手です。決してほめられるような体質ではないと私は思いますが、前時代の植民地支配者のように統治の対象である漁業者を情報過疎の状態において操るのが上手なのです。

 配分ミスの責任を回避するため、水産庁は漁業者同士のケンカのかげに隠れて、終始一貫、先獲り競争を近海はえ縄業界の責任に転嫁してきました。

 そして、少々の配分上積みでは、先獲り競争によるデータ不足が解消できないとわかると、近海はえ縄業界に準備不足のまま、IQ(個別漁獲割当)を実施を求めました。

 しかし、それが業界に大混乱を招き、いまもその混乱は続いています。割当率が小さい漁業者から配分のやり直しを求める審査請求(不服申し立て)、実力が過小評価されているとみる新規参入漁船からは行政訴訟を起こされているのが実情です。

 もとは、はえ縄業界への配分を極端に小さく設定してしまった水産庁の裁量ミスです。近海はえ縄漁業の団体は、2018年以降の過少配分が1200トン以上になると主張し、大型魚の配分を年間1300トン以上へと増やすよう要望していました。

裁量間違いのキズの深さ

 大中型まき網への増枠をゼロにはできないとする水産庁は、まき網業界へも相応の配分を行い、近海はえ縄への配分を1100トン台にとどめています。

 資源管理分科会の前に開かれた漁業者向け説明会でも、はえ縄業界のほか、定置網、沿岸漁業の関係者から苦言が続出していました。

 魚谷敏紀資源管理部長に「5割も漁獲量が増えても不満が収まらないのは配分に問題があるからではないか」と問うと彼はこんな風に答えました。

「水産庁として、配分の仕方がまずいから不満が出ているのだとは思っていません。濃いうすいはあれ、皆さんそれぞれ我慢をしてきた中で、成果である増枠分はわかちあっていただく。分かち合い方についてそれぞれ異なる立場で評価が異なるのは理解しますが、水産庁としておかしな対応、恣意的にどこかをイジメている、優遇しているという配慮にはなっていません」

12月9日、説明会後の記者説明会での発言

 過去の配分間違いは資源が回復につれ、大きな格差として現れます。それに歯止めをかけるため、増枠分をまったく新しい発想で分けたことは、確かに評価に値します。

 しかし、問題は過去の裁量ミスのキズの深さです。増枠分より固定された過去の配分量の方が多いので、過去の不合理解消を求める声はこれからも続くことでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!