「まき網」は「沿岸」の2倍という現実~太平洋クロマグロの漁獲量配分に監視が必要⑫
水産庁が現在検討中の2025年からの太平洋クロマグロの漁獲量配分を、水産政策審議会に同庁が示した「配分の考え方(案)」から試算するとどうなるでしょう。
まず現状から。漁業の種類別に直近3年間(2021-23年)の大型魚(30キログラム以上)漁獲実績をみると、大中型まき網が3561.7トン、かじき等流し網が17トン、かつお・まぐろ漁業(近海はえ縄)が674.1トン、都道府県(定置その他の沿岸漁業)が1750.4トンでした。
シェアでみると、大中型まき網59.33%、かじき流し網0.28%、かつお・まぐろ11.23%、都道府県29.16%です。わずかな漁船数の大中型まき網が6割を占め、北海道から沖縄まで全国津々浦々で操業している沿岸漁業はその半分の3割に過ぎないのが実情です。
太平洋クロマグロの場合、法律に基づいて2018年から漁獲可能量(TAC)を漁業種類別に配分されていますから、網や針にどれだけマグロがかかろうとも、枠以内に納めなければなりません。
「漁獲」20トンに対し「放流」1746トン
獲れすぎた場合は海に放流することになっているのですが、沿岸漁業では漁獲量よりも放流量の方が圧倒的に多いという地域がたくさんあります。
例えば2018年に36トンの枠しか持たなかった岩手県は漁獲量を20トンに抑えることに成功していますが、この年、同県内の定置網漁業者は約18万尾、1746トンものマグロを海に放流したという記録を県が残しています。これではマグロ漁業というよりマグロ放流業で、漁業としての生産性は著しく低下してしまいます。
大中型まき網はあらかじめ海の中を泳ぐ魚の種類を特定し、目的外の魚種を獲らないように操業することもできますから、定置網のような大量、高頻度の混獲放流に悩まされることはありません。
まき網で違反が出てこない理由
小型魚の漁獲枠を1.47倍して大型魚の漁獲枠に転換して枠にも余裕がありますから、「混獲で漁獲枠がひっ迫している」という話題は、増枠のために意図的に誇張して説明する場合以外にはまず出てこないのです。
長崎や青森はじめ沿岸漁業では漁獲未報告が発覚し、漁業者が制裁を受けたり、ヤミマグロを買い集めた業者が逮捕されたりしたケースも発生していますが、大中型まき網ではこうした問題が生じることもありません。枠に余裕があるからでしょう。
以前にも紹介しましたが、マグロ養殖業者が必要とするマグロの稚魚・幼魚の供給も、漁獲制限後に沿岸漁業者からまき網漁船が奪い取るようにシェアを伸ばしてきています。多めに配分を受けた小型魚枠を単価の高い養殖用の種苗(小型の活魚)として販売し、潤っているのです。(続く)