謎解き「大間まぐろ」⑤報告徴求権を行使すれば事実解明はすんなり進む~2年前、農相は静岡市長に漁獲未報告分の調査を指示していた!
法令に違反して漁獲された水産物を卸売業者が扱っている疑いがある場合、卸売市場を監督する農林水産省はどのようなアクションを起こすでしょう?
筆者が情報公開制度を利用して静岡市から入手した行政文書によると、静岡市中央卸売市場に漁獲報告をしていない青森県大間産のクロマグロを同市場の卸売会社が扱っている疑いを抱いたとき、農林水産省は市場開設者である静岡市に疑義内容を伝えたうえで、市が調査をして結果を報告するよう報告徴求を命令しました。
報告徴求という手段は金融監督を含めて様々な行政分野で法律に規定されている調査手法であり、卸売市場法第12条第2項で中央卸売市場開設者に対して「その業務若しくは財産に関し報告もしくは資料の提出」を求める農林水産大臣の権限を明記しています。
虚偽の報告をした場合は立ち入り検査忌避と同じ30万円以下の罰金刑に問われます。
筆者のようなジャーナリストからの問い合わせには答える義務もありませんし、ウソをついても罪に問われることはありません。
ところが監督官庁の場合は、質問を送るだけでメディアの取材で得られる情報の何十倍もの証拠、事実を確認することができます。役所がこの権限を適切に行使することで、メディアは楽になる、というと語弊がありますが、背景や再発防止について考察したりするゆとりが生じ、役割がもっと違ったものになるはずです。
最近では損害保険会社が価格調整の疑いで金融庁から報告徴求命令を受け、対応に追われていますが、漁獲量を報告していない漁業法違反のクロマグロを卸売市場が扱うことも価格カルテル並みに悪質な行為とみなされているわけです。
大間から出荷されたクロマグロを「ブリ」や「その他鮮魚」と偽って報告した静岡市場のデタラメは、一枚の報告徴求命令で全て明るみに出たものです。農水省の悪いところはそこで得られた事実を公表せず、外部に悟られないよう卸売市場取引データをこっそり訂正させ、この事件そのものをヤミに葬ろうとしたことです。
幸か不幸か、筆者の問い合わせに対し、静岡市が卸売会社に取引データを訂正させ、その量が従来公表していた統計よりケタ違いに多かった事実を明らかにし、続く情報公開請求に応じてマグロ1本ごとの訂正データを開示したことで一般の人たちの知るところとなったわけです。
では、川崎市北部市場に大間の業者が出荷したクロマグロについても、その報告徴求命令を発動したのでしょうか?
川崎市や横浜魚類に問い合わせても農林水産省から事実確認などを求められた様子はありませんでした。
そこで農水省卸売市場室に尋ねてみたところ、どうやら川崎市北部市場にも逮捕された大間の仲買業者からクロマグロが出荷されていることをまったく知らないでいたようです。
一方で、川崎市や横浜魚類は青森県警に逮捕された最北水産の連絡で県警から仕切り書提供依頼があったことも知っていたようです。
農水省卸売市場室の情報収集の弱さというべきでしょうか、それとも青森県警と農水省の連携の悪さというべきでしょうか?漁獲未報告数量の確定は水産庁や青森県にとっては、漁獲枠の決定に欠かせない情報です。いまからでも川崎市に対して報告徴求命令を出すべきだと私は思います。
クロマグロの不正流通は大間に限った問題ではありません。
大目流し網漁船、近海はえ縄漁船、大型まき網漁船による未報告疑惑に関する情報が飛び交っています。われわれが少し調べるだけでも、その情報の確かさが感じられるくらいですから、水産庁が大臣許可漁船を対象に報告徴求命令を出せば、不正が続々と明るみに出てくるでしょう。
報告徴求を阻むのは、天下り先や大型漁船の後ろ盾になっている政治家への忖度でしょうか?
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