出席者1人でも成り立つのだろうか?国家戦略特区ワーキンググループの不思議
国家戦略特区ワーキンググループ(WG)には9人の委員がいます。運営要領では、WGが成立するには過半数の出席が必要なのですが、充足していない会合が多数あるのです。
獣医学部新設の議論が進んだ2016年度のWGによる省庁ヒアリングの例をとります。
1日複数のヒアリングをこなす場合もあるので、日数ベースでみると、WG省庁ヒアリングは年間に60日開催されましたが、過半数の5人以上出席した日は4日しかありません。
つまり、会合のうち93%以上は成立要件を満たしていないのです。
出席者が八田達夫座長もしくは原英史座長代理らの1人のみという日が6日、2人という日が15日もあります。規制改革や行政改革に精通した有識者だとしても、民泊、農業から自動運転・ドローンまで社会的・経済的・技術的な背景も異なる分野について的確な質疑や判断が行えるわけではありません。
私は戦略特区の民泊解禁をめぐる議論の際、八田氏も原氏もマンションの運営に大きな影響を及ぼす「管理規約」を考慮することなく制度を設計し、民泊参入予定業者や東京都大田区、大阪府など事業解禁を検討していた自治体を混乱させたことを知っています。
なぜならマンションの管理規約は国土交通省が用意したモデル(標準管理規約)にならって、「居住目的以外には利用しない」という趣旨が明記されているため、自治体が困っていることを民泊参入予定業者に質問したら、彼らが内閣府に問い合わせて、その騒動が起きたからです。
そのとき、八田氏は「民泊を認めないマンションの側が管理規約を改正する必要がある」という主張を展開し、国土交通省を困らせました。いまも事後的に開いたWGの議事要旨が残されていますから誰でも読むことができますが、判例も無視して法律解釈まで変えていかんばかりの八田氏らの議論に国土交通省課長らはヒアリングで弱り果てています。
争いを好まない国土交通大臣の判断で、マンションがこの機会に民泊を認めるか禁止するか、管理規約をこの機会に改正してそれぞれのマンションの方針をはっきりさせることで落着しましたが、八田氏や原氏の強引なやり方はいろんなところで問題を起こすのではないかと危惧しました。
WGの運営要領の件でも強弁が目立ちます。こんなに出席が少なくてWGの役割が果たせていないのではないかという問い合わせを内閣府にしたところ、当時の事務官(地方創生推進事務局員の篠崎敏明氏)は珍しく文書で回答をくれて、「運営要領の規定に基づいて開催している」「欠席委員には事後に事案の概要を記載した書面を送付し、その意見を徴している」と説明していました。
ところが、八田座長のほうは、そうした内閣府の回答とは別に、あの運営要領は特区の枠組みを議論した「初年度限り」のものだとし、関係する委員だけが出席すればよいという別の見解を示したのです。
どちらが正しいのか、事務局が欠席委員に送付したという概要や欠席委員から出された意見に関する文書を情報公開請求で確かめてみようと思います。
それはともかく、60日開催のうち、出席率が最も高かったのは、委員ではありませんが、国家戦略特区の世話をする藤原豊審議官(経産省出身)で58日(97%)、次いで八田座長45日(75%)、原座長代理42日(70%)と続きますが、他の委員は出席回数が半分以下です。
出席ゼロの委員も2人いました。
他の審議会や諮問会議のように専門家を参考人などとして呼んで議論すればよいと思うのですが、どうしたことか、WGの八田氏らは、なにごとも自分たちの手で取り仕切ろうとして無理を重ねているような印象を受けます。
なお、国家戦略特区は2017年12月にWGのヒアリングに関する運営細則を作って公表しています。残念ながら細則は議事要旨や議事録を作成する手順や期限、提案者以外の陪席者の出席などについて定めたのみで、WGの成立要件を変更するに至っていません。
いまもなお「過半数出席」がWG成立の要件になっていることを、内閣府担当大臣や菅官房長官は知らないままかもしれません。