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新聞が触れない真実~福岡のホテル「宿泊拒否」騒動と健康チェックシート

感染時の消毒費用負担、全員に告知

 昨日(4月1日)午後、福岡市保健福祉局生活衛生課で旅館業法を担当する職員から電話がありました。

 「ホテルは宿泊者のコロナ感染が判明した場合、消毒費用等を請求するということを宿泊者全員にチェックイン時に伝えていました。学生たちだけに伝えたのなら問題ですが、全員に同じことを伝えているのなら旅館業法には違反しないと判断しました」

 私がひと月ほど前に送った問い合わせへの回答でした。厚生労働省も同じ見解だということです。私もホテルに問い合わせて、チェックイン時に宿泊者に確認してもらう健康チェックシートで、ホテル側が費用請求の可能性に触れている事実を確認しました。

ハンセン病への偏見と同じなのか?

 2月下旬、西日本新聞が「寮に感染者 学生5人宿泊拒否 福岡のホテル」と報道しました。寮生1人が新型コロナに感染したため寮が閉鎖され、5人がホテルに泊まり、延泊を相談した際に断られたという内容でした。

 旅館業法では宿泊拒否が認められるのは「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」に限られ、厚生労働省は「今回のケースは同法に抵触する可能性がある」との見解を示したと書いていました。

 記事には、ハンセン病患者や元患者の人権を守る活動をしている社団法人代表の「2003年に熊本県・黒川温泉で起きたハンセン病元患者への宿泊拒否事件をほうふつさせ、その教訓が生かされていない」というコメントも掲載されていました。

 私が一番驚いたのは、ホテルのコロナ対策がハンセン病差別問題と同列に論じられていることでした。ホテルのコロナ対策をハンセン病差別になぞらえることは妥当なのか?私は西日本新聞の記事に違和感を覚えました。

 新型コロナへの対策は、人が集まる場所ではマスク着用や体温チェックなど任意の協力が求められ、発熱がある人などが入場を断られる場合があります。旅館業法にも例外規定はあり、ホテルであっても条件を課したり、状況によっては宿泊を遠慮してもらう、断るということもあるはずです。

 西日本新聞の記事は、センセーショナルな記事として扱いを大きくしたいばかりに、ハンセン病への偏見や差別と強引に結び付けているような印象を受けたのです。

前年発覚の感染、費用請求告知の契機に

 ホテルが延泊を断った理由は何なのでしょう?

 そこがニュースの核心のはずですが、西日本新聞の記事は「ホテル側から新型コロナへの感染の可能性を理由に断られたという」としか触れていません。読者が最も知りたい現場での出来事、やり取りについては書いていないも同然の内容です。

 場所も「福岡」とあるだけで、記事にはホテル、専門学校の具体的な名称も所在地も書かれていません。福岡市生活衛生課に問い合わせても「所在地が福岡市内かどうかもわからないので調査のしようがありません」とぼやくくらい、不思議な記事でした。

 西日本新聞の記事は触れていませんが、実はこのホテルと専門学校の間では2020年4月にもトラブルがありました。専門学校の寮でクラスターが発生し、ホテルに避難していた学生からも感染者が出ました。

 今年2月の寮生の感染は、同じ寮で2度目ということになります。昨年4月のケースでは、学生はホテルにチェックインした時、すでに自覚症状があったのにそれを申告せずに宿泊し、その後感染が確定しました。

 その時の経験からこのホテルでは宿泊者に健康状態を回答してもらうチェックシートを導入しました。そして、滞在中及びチェックアウト後に新型コロナウィルス陽性が判明した場合には、部屋の消毒代などの費用を請求することを同シートに明記し、宿泊者に協力を求めるようになったという経過があったわけです。

「10万円」を強調する朝日新聞の偏り

 専門学校の寮でのクラスター発生と、ホテルに滞在した学生のコロナ感染のニュースは昨年春、新聞なども大きく報道していました。今年2月のケースもこのホテルと専門学校の寮のことだということは、調べれば簡単に見当がつきますが、公権力を行使する市役所は、推測だけでは監督対象であるホテルから事情を聴くわけにもいかないという立場でした。

 西日本新聞の記事を1ヵ月遅れで追いかけた朝日新聞の記事は、この「宿泊拒否」騒ぎが「福岡市内」のホテルと専門学校の寮に住む学生たちとの間で生じたと報じたため、所轄の福岡市が調査を開始するきっかけになったようです。

 朝日新聞九州版とデジタル版に掲載された記事は、「感染判明なら清掃代10万円~ホテル対応に学校憤り」という見出しの通り、学生たちが延泊を断念した理由が「清掃代負担」にあったことを明らかにしています。

 記事を読むと、学生から相談を受けた専門学校の担当者は「濃厚接触者でもなく、感染のリスクが低いのに、清掃代などを求めるのは差別的な対応ではないか」と憤っているとあります。ここからは、この学生たちだけが費用負担を求められいる印象を受けます。

 しかし、宿泊客は全員チェックイン時に感染判明時の清掃代請求の告知を受けていました。朝日新聞の記事はその事実を伝えていません。公正な報道とはいえません。

 朝日新聞の記事によると、延泊を希望した際、費用負担の例として、消毒代「10万円」といった具体的な金額も飛び出したようですから、学生たちは驚いたことでしょう。

 しかし、だからといって「10万円」が法外に高い清掃代であるかのように決めつけることはできません。朝日新聞の記事には偏りがあると思います。

 延泊時にそのような具体的な話が出たのは、今年もまた寮で感染者が出た事実をホテル側が知ったからでしょう。もちろん、宿泊者が宿泊理由をいちいち説明する義務はないとはいえ、専門学校や学生側も事情を打ち明けた上でホテルに迎え入れてもらっていれば、このような騒ぎにならずに済んだのではないでしょうか?

学生たちを守るのは誰か?

 学生だけを狙い撃ちにした差別という専門学校側の言い分にも無理があります。そもそも、濃厚接触者でもない学生たちなら寮に留まってもよかったはずです。

 なぜ、専門学校は寮を閉鎖して行き場に困る学生たちの居場所を責任もって確保しなかったのでしょう。そうした問題も問われなければならないはずです。

 今回の問題を契機に、新型コロナ感染判明時の費用を宿泊者が持つのか、ホテル側が持つのか、あるいは公費負担が期待できないのか等々の議論はあってよいと思います。

 それにしても、こうした経過を知ったうえで、この問題をハンセン病に対する根強い偏見、誤解を浮き彫りにした元患者の宿泊拒否事件と並べて論じることはちょっと筋違いではないかという思いを強くします。

 西日本新聞にコメントを寄せたハンセン病患者や元患者の人権擁護活動をしている団体の代表者に話を聞いたとき、詳しい状況を西日本新聞の記者から説明を受けていませんでした。

 どのようにお考えになるのか、私からもう一度、意見を聞いてみたくなりました。








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