まき網への「疑惑の配分」検証怠る審議会~太平洋クロマグロ漁獲枠の配分に監視が必要⑤
増枠分は沿岸漁業への配慮を明記
2025年からの太平洋クロマグロ漁獲量の配分のあり方を議論する水産政策審議会資源管理分科会くろまぐろ部会の2回目(通算11回目)の会合が22日開かれ、「(大型魚の)漁獲可能量(WCPFC 北小委員会において合意が得られた増枠相当分の数量(2,807 トン))は、基礎比率によらず、都道府県に配慮して配分する」とする内容を盛り込んだ「くろまぐろの漁獲可能量の配分に関する考え方について」の案を大筋了承しました。
くろまぐろ部会の文書ですが、9月に開いた前回の議論を踏まえ、水産庁が作成した案です。「都道府県に配慮」とは、知事が管理する漁業、つまり沿岸の定置網や小型漁船に優先して配分するという意味です。
それが一体どのような配分になるのか、具体的な数字を見なければ判断できませんが、大中型まき網漁業に偏り過ぎる漁獲配分を修正する一歩になる可能性があり、注目に値すると思います。
その一方で、これは政策の間違いを認めようとしない水産庁の体質だと思いますが、「資源の増減に対する責任」について、以下のような見解を維持したままです。
過去の間違いを検証しない水産庁・審議会
「もあり得る」という逃げ道を用意した言い方ですが、大中型まき網業界はこの文言を引き合いに出しつつ、国や沿岸漁業者に漁獲量を譲った恩人であるかの如くふるまっています。
しかし、クロマグロに関する国際会議では、いま現在でも米国などが西部太平洋のまき網による小型魚乱獲責任を問い続けていて、日本は反論すらできない状態です。水産庁はそうした不都合な真実を水政審委員らに説明せず、大中型まき網漁業が大きな犠牲を払って、沿岸漁民に施しを行っているいるかのような説明を繰り返しているのです。
太平洋クロマグロの漁獲規制が小型魚から始まったのは、大中型まき網による小型魚乱獲が問題だったからです。
「巻き添え」を食らった沿岸漁業
水産庁は、初めのころは「2キログラム未満という伝統的に「ひき縄」の漁師たちがとってきた小さなクロマグロ(ヨコワ)を大中型まき網漁船はとらないように」という指導をし、その後、まき網による漁獲量の抑制、削減に乗り出しました。
それでも資源悪化が止まらないため2015年からクロマグロ小型魚(30キログラム未満)を基準期間(2002-2004年の平均漁獲量)の半分に減らすことにした時から、沿岸漁業者も巻き添えになったという経緯があります。
小型魚の漁獲量を4007トンへと半減する際、水産庁は大中型まき網にまず2000トンを配分し、残り2007トンをその他漁業に割り振るという決め方をしました。
しかし、いったい誰が、どのような考え方に基づいて大中型まき網に2000トンという小型魚漁獲枠を設定したか、大きな謎となっています。
なぜ、まき網漁業は2000トンの枠を与えられるのか、その根拠を示した行政文書の開示を求めても、水産庁内で起案、決裁、供覧された文書はその配分数量を都道府県や漁業団体に伝える2015年1月5日付の枝元真徹資源管理部長(当時)通知しかない、というのです。
はじめに「2000トン」ありき
法的根拠のない行政指導とは言え、なぜ大中型まき網が2000トンの漁獲量を認められるのかという議論さえ省略して決まったものとすれば異常としか言いようがないのです。私はこれを「疑惑の配分」と呼ぶことにします。
疑惑の配分から10年が経ち、このまま既成事実として固定されてしまうことは大いに問題があると思います。審議会が検証を怠ってはならない重要な問題です。
はじめに2000トンもの枠を持っているからこそ、まき網漁業は国に留保枠として250トン召し上げられても平気ですし、1500トンに減らしたといってももう250トンは単価の高い大型魚に振り替えているのですから、「本来持てるはずの枠の3分の1に減っているから免責」という水産庁の説明は滑稽です。
むしろ、2000トンという過大な枠を与えられていたからこそ、大中型まき網漁業は小型魚を養殖業者向けに活魚で採捕して1キロあたり数千円という高い値段で販売するビジネスを拡大できたのです。
まき網から養殖への種苗供給は9倍に
水産庁が集計したクロマグロ養殖場への天然種苗の出荷数量をみると、2012年にわずか3万尾だった大中型まき網による供給尾数は2022年28万尾へと増えました。10年間で何と9倍も増えているのです。
一方、養殖漁業向け種苗の伝統的供給者であったひき縄漁業からの供給尾数は同じ期間に16万尾から11万尾弱に減っています。沿岸漁業者のマーケットは漁獲規制の結果、まき網漁業に奪われていったことがハッキリと表れています。
くろまぐろ部会の審議を聞いていると、全漁連や定置網業界出身の委員らはデータや漁業の現場の実感を踏まえて大中型まき網の強欲をたしなめる発言を行っていますが、あきれてしまうのは学者委員らの発言です。
学者委員たちの質を疑え
議事録はいずれ水産庁が公開しますが、およそ本質からほど遠い、的外れな質問や意見が目立つのです。
9月のくろまぐろ部会では、8月に行われた漁業者らに対する水産庁の説明会で沿岸漁業者による大中型まき網批判の声が多く出たことについて、まき網漁業者の数が少ないから沿岸漁業者の声が目立っているだけではないか、と言わんばかりの意見を吐く委員もいました。
全国5カ所で開催した説明会での質疑応答の速記録と、そこでの論点を整理したメモを水産庁が配布しても、「発言の背景や意味がよくわからない。いちいち確認していると時間が足りない」と言い放って、放流に追われる沿岸漁業の実情をその背景を知ろうともしない委員もいました。
2人ともいわば水政審の常連のような委員ですが、過去にもトンチンカンな質問をしています。彼らは「不得意な分野だけど、有識者として依頼され、招かれたから意見をいってあげよう」と思っているのかもしれません。大いなる勘違いでしょう。
これが財政や金融、産業政策、観光政策など脚光を浴びる分野の審議会や検討会だったらたちどころに淘汰されてしまう人たちではないかという印象すら受けました。水産の世界では研究者の競争が乏しいのです。
こういった水産系の学者らに漁業者の生活を左右するであろう漁獲量の配分問題を議論させていることを知れば、おそらく一般の国民も残念に思うはずです。私は漁を休んでまで説明会に参加して水産庁から国際会議の報告を聞き、意見を述べた大勢の漁業者たちが気の毒でなりませんでした。
学者だってクロマグロは専門外だったりするわけですから、どうせ任命するなら水産部落に閉じこもって経済理論にもうとい方々に代えて、経済学者を入れた方が合理的な配分のあり方の議論は弾むことでしょう。
次回も「疑惑の配分」について情報公開された文書などをもとに紹介します。