かなり「ピンボケ」だった増枠問題めぐるWCPFCへの日本提案~太平洋クロマグロ漁獲枠の配分に監視が必要⑥
まき網への「疑惑の配分」問題から少し離れた話題ですが、今年7月に釧路で開かれた太平洋クロマグロの漁獲規制をめぐる国際会議のことを振り返ってみます。日本がかなり的外れな要求や提案を掲げて交渉に臨んでいるのではないかと思うからです。
会議前、日本や米国、韓国など主要な関係国・地域が事務局に提出した報告書や提案文書を読んで、筆者が作成した表が手元にあります。この記事の半ばに掲載していますのでご覧ください。英文資料を読みこなせない漁業者らに何が起きているかを知らせるためにまとめました。水産庁が知らせたくない不都合な外国の意見、考え方が表れています。
国際会議では、来年から太平洋クロマグロの漁獲量を小型魚については10%増、大型魚については50%増にする案がまとめられました。
日本は小型魚30%増、大型魚131%増(2.31倍)を提案していて、おそらく諸外国からは「資源を悪化させておいて、なんとのんきなことを」とあきれられていたのではないでしょうか?
表をご覧いただければお分かりのように、米国も韓国も大型魚は50%増にとどめ、小型魚に至っては韓国は15%増、米国は0%増(増減なし)という意見でした。
国内向けには大型魚50%増枠を勝ち取ったかのように振る舞っていますが、実は2.31倍という荒唐無稽な提案を却下されたのが真相、国際交渉の現実です。
日本政府代表は、2.31倍案を一体どんな考え方に基づいて提案したのか、そしてそれがどのような反対にあって却下されたのか、そしてまた敗北の現実をどのように受け止めているのか、会議終了後の記者会見でも、その後に開いた国内5カ所で開催した漁業者向けの説明会でもほとんど説明していません。
国別に設定する漁獲上限は、2002-2004年の年間平均漁獲量が基準になっているわけですが、「環境が変わって獲ろうと思っていなくても獲れてしまう。いつまでも過去の一時期のシェアで国別の枠を割り振られたのではたまったものじゃない」という韓国やオーストラリア、ニュージーランドの主張が認められ、基準期間に漁獲がなくても新しい漁獲枠を認められています。
表にある通り、韓国の場合は基準期間に実績ゼロだった大型魚の漁獲上限は混獲用に30トン程度しか認められていませんでしたが、会議では515トンの枠を要求し、実際に300トンを勝ち取りました。
韓国の定置網では最近、大量のクロマグロが入網するものの、漁獲枠がないため大量に投棄したことが大きな問題になっていました。韓国は2002-2004年の基準に縛られていると、クロマグロ以外の魚も取っている定置網の操業が困難になるとして、過去に実績がなくとも枠が必要だし、それは「沿岸国としての権利である」とも主張し、認めさせたのです。
「資源悪化の責任は他の国にある」として、名指しこそしないものの日本の大中型まき網漁船の過去の乱獲を非難しています。
過去に実績がなかった国でも新たに枠を設定してよいのですから、国内でも過去に実績のなかった漁業者、地域にも枠を設定してもよいはずです。
日本各地でも韓国やニュージーランドの漁業者と同じような苦悩を味わっている漁業者が多いのですが、日本政府はそうした声をすくい取って、説得力ある増枠提案をまとめることに失敗したのではないでしょうか。
会議終了直後にダイヤモンド・オンラインに掲載した検証記事も参考として読んでみてください。